第51話 魔石


 エリーナに連れられ俺とミリアとシルフィーが辿り着いた先は先程討伐したゴブリンの死体の山がある場所だった。


「えっと……ここで何をするんです?」


 その質問にエリーナはヤレヤレといった感じで大きな溜息を一つ吐くと


「お主の職業はなんじゃ?」


 と尋ねてきた。はて? 俺の職業? ヒモ? いやヒモじゃねーわっ!! 見習い薬師あたりか? あれ? なんか忘れてるような……


「あっ……冒険者っ!!」


「うむ、村長はゴブリン討伐の依頼を冒険者ギルドに出していたのであろう? であれば討伐報酬が出るはずじゃ」


「確かに! それでここに来て何をするんですか?」


「ゴブリンを討伐したという証拠が必要であろう?」


「まぁそうですけど……証拠って一体何を……?」


 なんだかとてつもなく嫌な予感がする……


「ゴブリンの右耳じゃ。耳を切り落とし集めよ」


(ギャーっ!! 無理無理無理無理無理無理っ!)


「俺がやらなきゃダメっすかね……」


「他に誰がおる? ミリアにやらせるか?」


「はいっ! 私にやらせて下さい」


 いやいや、流石にこんな汚れ仕事を女の子にやらせる訳にはいかないでしょ。


「ありがとうミリアちゃん、でもこれは冒険者である俺の仕事だ。俺がやるよ」


 そう言ってミリアを下がらせる。


 にしてもエリーナは本当に俺の性格を良く分かっている。ミリアに振れば俺がそういう行動を取ると知っていて彼女に振ったのだ。


 ぐぬぬ……


 とはいえ「やる」と言ったからにはやるしかない。ゴブリンの死体の山に向かい、その内の一体を引き摺り下ろしナイフをゴブリンの右耳に当てる。


 ジョリッ……


 耳を削いだ感触で全身に鳥肌が立つ。


(うへっ……気持ち悪っ!!)


 眠りが浅かったのか心臓を突き刺された際に目を覚ました様で苦悶の表情をしており、見開いたその目が自分を睨んでる様に見えた。


(いや、こっち見んなし……)


 しかし慣れとは恐ろしい物で十体も処理していれば後は流れ作業の様に耳を削いでいく事が出来た。


 その作業を見ていたエリーナがふと何かに気付いた様だった。


「ほう、こやつは魔石持ちか」


 エリーナの視線の先にいたのはあの言葉を話すゴブリンだった。その胸元の飾りには確かに石にしては輝いて宝石にしては歪な黒い物がはめ込まれていた。


「魔石って何です?」


「魔石とはな、大気中の魔素を吸収する特性を持つ貴重な石でな、魔道具の動力源にもなる石じゃ。ギルドに持って行けばそれなりの値で買い取って貰えるじゃろ」


 そう言いながらエリーナは言葉を話したゴブリンの死体に近づくと、首にぶら下がっていた飾りを何の躊躇いも無くブチッと引きちぎった。


(わおっ! ワイルドっ!!)


「ふむ、まぁまぁの代物かのぅ。クライドよ、他にめぼしい物があれば剥ぎ取っておけ」


 ここまで来たらもう開き直る事が出来た。言われるがまま無心でゴブリンが身に付けている武具を剥ぎ取っていく。


「剥ぎ取ったならそれを持ってちと離れておれ」


 ミリアも手伝うと申し出てきたのでここはお言葉に甘え手伝って貰い、剥ぎ取った武具を持ってエリーナの後方へ回る。


「師匠、何するんですか?」


「このゴブリン共が目障りであろう? 故に燃やす」


(Oh……ワイルドっ!!)


 エリーナは右手を死体の山へ向ける。


「フレアバーストっ!!」


 そう唱えると共に真っ直ぐ伸ばした右手の指を「パチンッ」と鳴らす。


 すると炎の柱が爆音と共に立ち上がりゴブリンの死体を焼き尽くした。

 死体の山とは結構な距離があるにも関わらず、熱風が押し寄せてくる。


 俺はふと以前シルフィーをダシにエリーナに薬品作りの勝負を挑んだ時、渋るエリーナに向けてシルフィーが言った言葉を思い出した。


『エリーナ強いんだからクライドが何かしてきたら燃やしちゃえばいいじゃん』


(ゾッとするわっ! あいつクソやべぇ事言ってたなっ!!)


 ふとそんな事を思い出したらシルフィーと目が合った。


「燃やされなくて良かったねっ」


 どうやらシルフィーも同じ事を思い出したようでニコニコした顔でそう語りかけてきた。


「あぁ、怒らせねぇようにしねぇとな、お前も」


「ボクは大丈夫だもんっ」


「どうかな? お前は悪ふざけが過ぎるとこあるからな……ね、師匠っ」


 エリーナに話を振ると困ったような表情で


「わっちの悪口は見えん所でやってくれ……」


 と答えた。


「悪口なんかじゃないですよ、単純に師匠の偉大さに感服しただけです」


 それは本心であった。そもそもエリーナ程の力があれば俺の出る幕など無くあっさり片付いてしまっていただろう。


 そうしなかったのは師として俺に経験を積ませ花を持たせようとしたからじゃないだろうか? そして自分は死体処理という日の当たらな影の部分を請負い俺を支えてくれる。そんな風に感じ取れた。


「どうだかのぅ……まぁ良い、そろそろ巣穴の方のゴブリン共も片付いた頃合じゃろう。そっちに戻るぞっ」


「剥ぎ取った武具はどうしましょ?」


「そのまま置いて置けば良かろう。帰りに村人達に運んで貰え」


「確かに。ミリアちゃんまた移動になるけど大丈夫?」


「はいっ、これくらい何ともありません」


「よし、じゃ行こうか」


 そうして俺達は再びゴブリンの住処である洞窟の方へと向かった。


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