第34話 道筋


 シルフィーの一言でエリーナはふと我に返った様で、慌てて俺を押しのけその場を離れた。


(あんっ、シルフィーさん……もう少しそっとしておいて欲しかったな……)


 それから俺はエリーナとシルフィーに怪我を治療してもらい、三人で薬草採取へ向かう事となった。帰り際に


「あれ? 師匠は今回俺の事手伝わないって言ってませんでしたっけ?」


 と尋ねてみると


「別にお主を手伝った訳では無い! これはあくまで自分の分じゃ」


 と明らかに普段使う分の倍以上の量を採取していたのがちょっとおかしかった。


「まぁ、もし余ったりする様であれば分けてやっても良いがな……」


(いや、マジで素直じゃないよな! まぁそこがいいんだけど!)


 そんなこんなで残りの日数分の薬草を十分に確保出来たので、次の日からはまた調合に取り掛かる事となった。


 が、やはり失敗ばかりが続いていた。


「うむむ……あともう少しな感じなんだけどなぁ……」


 各薬品作りの為の分量や調合の比率はもう本を見ずとも完璧に覚えてしまっているが、問題はやはり魔力の放出量だ。


 溜息を吐きながら、ただの水が入った器に魔力を流し込む練習をしている所にエリーナが声を掛けてきた。


「かなり行き詰まっておるようじゃの?」


「えぇ、何かコツさえ掴めればといった感じなんですが……残り日数も無いんで早目に最初の一つを成功させたいんですけどね……」


「なるほどの。まぁ、そういう時は基本に立ち戻ってみることじゃな」


 そう言いながらエリーナが薬品作りの本を差し出してきた。


「あっ、えっ、いやもうこの本は見なくても内容はほぼ暗記してますし……」


「改めて見直せば新たに気付く事もあるやもしれん。わっちがぬしに出来る助言はこれくらいかの」


「分かりました、師匠がそう言うのであれば読み直してみます」


「それとじゃ、ちと手を出してみよ」


「?」


 何をするのかと不思議に思いつつ言われるがままに右手を差し出すと、エリーナはその手を取る。と同時に繋がれたその手から僅かながらに魔力が流れ込ん出来た。


「ぬわっ! なっ、どうしたんですか突然っ!?」


 突然のエリーナの行動に思わず変な声が出てしまった。


「とりあえず今のが『一』じゃ」


「えっ? いち? ん? どう言う意味ですか?」


「さてのぅ、後は己が力でなんとかするんじゃな」


 エリーナはその問いには答えず自分の部屋へと戻って行ってしまった。


「何だったんだ一体……。しかし穴が空くほど読み込んだコイツを今更読みながらてもなぁ……んっ?」


 エリーナに渡された薬品作りの本をパラパラと捲り、傷薬のページを開き読み直してみると以前見た時には無かった書き込みに気付く。


「あっ! もしかして……」


 再びページを捲り他の薬品についても確認してみる。そしてそこに書き込まれている物を見てエリーナの先程の行動の意味を理解した。


「つか、これもうほとんど答えじゃね? 」


 本に書き込まれていたのは『数字』であった。傷薬のページには『3.6』と、解毒薬のページには『7.8』という風な具合に薬品作成の説明欄の横に書き込まれていた。


 そして先程のエリーナが流し込んできた魔力量を彼女は『一』と言った。そう、ならばその魔力量を基準として書き込まれている数字の魔力量で調合すれば良いはずだ。


「本当にあの人はこういう事が自然と出来ちゃうからすげーよ……」


 確かにエリーナは薬品作りについては何も教えていない。彼女がした事は魔力を流し込んだ事と、本に数字を書き込んだだけである。


 それでも行き詰まっていた俺に答えへの道筋を示してくれたのだ。


「とは言え、調整はかなりシビアな感じになりそうだな……」


 そう、答えが分かった所でそれが出来るかどうかはまた別の話だ。傷薬を調合し、魔力を流し込んでみる。


「3.6ってこれくらいの感じか……?」


 魔力を調節しながら混ぜていると、容器に入ってる薬品が淡く光った。


「おおぉ? ……うをぉぉぉおおお!!!」


 成功だっ! ようやく最初の一つが成功出来た! 余りの嬉しさに思わず歓喜の声を上げてしまった。


 しかし、これで終わりでは無い。期限内に他の四つの薬品も成功させなければならない。


 と言う事で早速、他の薬品の調合にも取り掛かかった……


 そして約束の日、当日……


 俺は作り上げた五つの薬品をテーブルの前に並べる。最初の傷薬こそ一発で成功させる事が出来たが、残りの薬品に関しては正直どれも苦戦した。


 最後の三日ほどは徹夜で調合し、最後の一つを成功させたのは当日の朝方になってからであった。


 テーブルに並んだ薬品をエリーナが真剣な表情でリトマス紙の様な物を使い一つ一つチェックし始める。


 その様子を緊張しながら見守る。何故か心なしかシルフィーまで緊張している様だ。


「……ふむ、五つともしっかり出来ている様じゃな。良う頑張ったの」


「わぁ!!! やったねクライドっ!!」


 何故か俺より喜ぶシルフィー。これでお前は一生俺の隷属決定なんだがな……


「ありがとう、シルフィー……師匠、やりましたよ……ご褒美……」


 やり遂げた達成感はあるのだが……


 それ以上に眠気が限界だった……


「ちくせう……またこのパターンかよ……」


 そして俺の意識はそこで途切れた……


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