第22話 エリーナの憂鬱Ⅴ
傷の治療を終えるとクライドは申し訳なさそうな顔になり買い与えた服をボロボロにした事を謝ってきた。律儀なヤツである。
服の事は気にするなと伝え、今日は休む様にと伝えるとクライドも頷きベットに向かって行くが、途中何かに気づいてしまった様だった……
『師匠っ!! ご褒美っ!』
つい先程まで疲れ果てた顔をしていたのに急に目を輝かせながら生き生きした顔で褒美を求めてきた。
突然の申し出に心の準備が出来ていない。とは言えクライドは確かに指定した薬草を採取している。約束は約束だ、褒美を与えぬ訳にも行くまい……
が今でなくともと思ったが勢いに押され、仕方なく手を出す。クライドがその手を取り、口元へ近づける……
別に取って食われる訳ではないし、少しだけ我慢すれば良いだけの話だ。それでこの男が満足するのであればそれで済む話である。
クライドが手の甲に顔を近づけ舌を這わせる。その瞬間、ゾクリと何とも言えない感覚に全身の毛穴が開く感じがした。
咄嗟に手を引くがその手をクライドが掴み逃がれることが出来ない。
『もっ、もう良いであろう……』
『ダメです』
即答だった。勿論この程度でこの男が満足する訳が無いとは思っていたものの、満足しようがしまいが褒美として手を舐めるという行為は済んだはず。これで終わらせたかった。
クライドは更に手の指を口に咥えた。生暖かい口の中の体温が指越しに伝わる。舌が指先に絡み付きヌルりとした感触に思考が停止する。
これは一体どんな状況なのか? 冷静になろうとそう思ったその時、クライドと目が合う。その瞬間、一気に恥ずかしさが込み上げてきた。舐められているのは指先だけの筈なのに全身が熱く火照ってくる……
これ以上は不味いと思いつつも身体に力が入らない。声が出ないよう必死に堪えるがクライドの舌が動く度にその感触が快感に変わり身体の自由を奪われる感覚に陥る……
その時だった。何かが弾けた様にクライドが立ち上がりこの身を抱き寄せた。
振りほどこうにも力が入らない。むしろその流れ身を任せてしまおうかとさえ思ってしまった……
クライドの顔が近づき、唇と唇が重なり合おうとしたその瞬間、自分を抱き寄せるクライドの身体から一気に力が抜けて行くのが分かった。
手に塗り込んでおいた睡眠薬が効いたようであった。
危ない所だった。もう少し効果が出るのが遅ければあのまま押し倒されていたかもしれない……
ホッとした様な残念な様な気分になった。
……残念? 何故そんな風に思ったのだろうか? 自分はあのまま押し倒されてしまいたかったのだろうか? ダメだ、冷静にならなければ。
「ねー、ねー、なんでクライドは指なんか舐めたの? 何が楽しいんだろ?」
先程までのやり取りを見ていたシルフィーが問いかけてきた。
「さぁのー、あやつの考えは分からぬと言うたであろう? 目が覚めたら直接聞いてみればよい」
シルフィーにはそう言ったがクライドが何をしたかったのかなんて想像がつく。そしてそれを受け入れても良いかと思った自分もいた。だが、取った行動は彼を拒む様に眠らせてしまったのだ。
薬によって眠っているクライドの寝顔を見てふと罪悪感に駆られた。考えても見れば一日中森の中を駆け回り薬草の採取をし、猪によって大怪我を負い、褒美の最中に眠らされてしまったのだ。
クライドが目を覚ました時、どの様な態度で接すれば良いのだろうか? 謝るのは違う気がするが、かと言って普段通りに何も無かったかのように振る舞うのも気まずい気がする。
とりあえず目が覚めた時は空腹であろうから、食事でも作っておこうかと思った。丁度クライドが仕留めてきた猪の肉もある事だ。こんな事で機嫌が治るとも思えないが他にしてやれる事も無い。
そう思い猪の肉を解体し、ついでに自分の夕食の準備をし、食事をする。
シルフィーは人の手が加わった食事は取れない為一人で食べる形となった。シルフィーとの他愛の無い会話で寂しさは感じ無かったが、クライドのいない食事は物足りなさを感じた。
ほんの数日一緒にいただけなのに、こんなにも自分の中でクライドの存在が大きくなっていた事に驚きがあった。
その日はそれからシルフィーが本棚の本に興味を示していたので、生物の図鑑を見せてやる事にした。文字が読めない様だったので教えてやると意外と直ぐに理解が出来ているようだった。残念な部分が多い妖精だが知能は比較的高いように感じた。
翌日はクライドが目を覚ます前に食事を作り、薬草採取へと向かった。一晩過ぎても今だどんな態度で接すれば良いか分からなかった為である。
だが、いつまでも気まずいからと顔を合わせ無い訳にも行かない。意を決して家へと戻り、家に入る前に一度窓から中の様子を伺う。
そこには目を疑う様な光景があった。クライドがシルフィーをテーブルに抑えつけ何かしているようだった。
虐待でもしているかのように思えた。いくら隷属の契約を結んでいるとは言え、やって良い事と悪い事がある。事と次第によっては厳しく言い聞かせねばなるまい。
そう思い何をしているのか良くよく見てみると、シルフィーの下半身に棒状の何かを押し当てているでは無いか。
あの男、本当に何をやっているのだ? 節操の無い奴だとは思っていたが、よもや妖精にまで手を出すとは呆れ果ててしまう。
そしてクライドによって弄ばれているシルフィーの表情は苦痛に満ちた表情と言うより未知の感覚に戸惑っているように見えた。
その顔を見て昨夜の出来事を思い出す。自分では必死に冷静を装っていたつもりだがあの様な表情に自分もなっていたのでは無いかと。そう思うと途端に恥ずかしさが込み上げてきた。
更にクライドはシルフィーの下半身に当てていた棒を秘部へと挿入させる。より一層シルフィーは悶え、喘ぐ。
その様子を見て自分でも知らない間に手が勝手に下腹部に触れていた。軽く刺激を与えてみると全身に電流が流れたかのような快感が駆け巡る。
「はぁっ、んっ……」
思わず声が漏れ出てしまい慌てて手で口を塞ぐ。気付かれてしまったのでは無いかとクライドの様子を見るが、気付かれた様子は無く相変わらず夢中でシルフィーと戯れていた。そしてシルフィーは絶頂を向かえテーブルの上でぐったりとしてしまった。
いつまでもここで覗きをしている訳にもいかない。このタイミングで家の中に入ろうと思った。
と言うか、そもそも何故自分の家を覗く様な事をせねばならんのだ? 自分が家主でクライドが居候なのである。堂々とした態度でいれば良いのだ。そう冷静になり家の中に入る。
しかし、クライドは帰ってきた自分に気が付かない。何をしているのかと様子を伺うとシルフィーの下半身を口に咥えているではないか。そしてシルフィーが再び悶えている様子を見るに口の中でどんな事をしているかなど容易に想像出来る。
冷静になったつもりだったが再び身体の中に熱い物が込み上げて来る。シルフィーの様子を見て昨夜の指を舐められた感触を思い出す。指先だけであれだけ感じてしまったのだ。もし自分も同じ様な事をされたら……
想像しただけで身体は熱くなり立っているだけで足は軽く震え、呼吸が荒くなる……
目を逸らせば良いだけの話なのだが何故だか二人から目が離せないでいた。この状況でどうすべきか判断に迷う。
そしてシルフィーは絶頂を迎えた所でこの状況を打破すべくクライドに声をかけた。
『ぬしは一体何をしておる……』
『はっ!! 師匠っ! いつからっ!?』
『ぬしがシルフィーを口に入れたあたりからかの』
極めて冷静を装い声を掛ける。特に怪しまれた様な感じは無い。とは言え、ここでゆっくり話しが出来る程の余裕も無い。
風呂にでも浸かって気持ちを整えようと思い、先に風呂に入ると伝え浴室へと向かおうとした所、クライドに声を掛けられ思わず身構える。
『あの、師匠っ。今日食事を作って頂きありがとうございました。とても美味しかったです』
『なに、ついでじゃ。それより体調は……いや、心配するだけ無駄じゃったか……』
『あははっ……お陰様で……』
本当に律儀な奴だ。軽く会話を交わした感じ、昨日の件については特に根に持っている感じは無いように思えた。色々と難しく考え過ぎた様だ。
浴槽に火と水の魔法を使いお湯を貯め、湯船に浸かり、一息つく。
それにしてもクライドの行動には驚かされる事ばかりだ。下着を盗もうとしたり、裸で抱きついて来ようとしたり、指を舐めたり、シルフィーにあんな事まで……
思い出しただけで心臓の鼓動は早くなり身体は熱く火照って来る。自分でも無意識の内に湯船の中で左手は胸の敏感な所を触れていた。
「んっ……あっ……」
少し触れただけで全身を駆け巡る快感に思わず声が漏れ出てしまう。
だが、外にはクライドもシルフィーもいる。こんな事をしているなんて気付かれる訳にはいかない。必死に声を押し殺す。
それなのに触れる手の動きは止まらない。更に空いてるもう片方の手は下腹部へと伸びる。その手にはお湯とは違うヌルりとした感触が伝わる。
そして昨日クライドに手を舐められた事を思い出す。もしあの時、手に眠り薬を塗り込んでいなかったら……
あのまま勢いに流され押し倒されていたかもしれない……そして今日のシルフィーの様に……
想像する程に身体は熱くなり、手の動きは早くなる……
「はぁ……はぁ……んっ……くっ……」
息遣いは荒くなり、声を殺すのも限界になって来る。
湯船に浸かり足を広げ、下腹部を、胸を触り淫らになっているその姿の自分を考えるとなんとふしだらであろうか。
だが、その手の動きを止める事が出来ない。
それ所かより強い刺激を求めるように、快楽を味わうように動きは激しくなる……
「んっ、んっ……んぁっ……」
(もう……これ以上は……んんんっ……声が出てしまう……)
絶対に知られたくない、気付かれたくない。そう思い湯船に頭を沈める。
「モガッ!!! イグブグブグァ! ガバボババッ」
ザバぁーっと湯船から顔を上げる。
「はぁ……はぁ……」
絶頂を迎えると急に冷静になり自分の行いを振り返って考える。
「一体わっちは何をやっとるんじゃろうのぅ……」
風呂から上がるとクライドが夕食の準備をいていたが、風呂での行為に対してには何も気付かれた様子は無かったので一安心ではあった。
そのまま夕食を取り、翌日はクライドに魔法を教える事となった。
食事時にクライドがいる事に安心感を覚える様になってしまった。果たしてそれが良い事なのか……
しかし、自分はあんな事をするような人間では無かったはずなのに……クライドと出会ってからこれまで自分でも知らなかった自分の一面に気付かされてしまう。
いやはや本当に妙な男を拾ってしまったものだ……
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