第23話 魔法
翌日は朝から魔法の練習を開始する為にシルフィーと共に家の外に出る。庭でエリーナが魔法について基礎的な事から教えてくれた。
「魔法とは要するにイメージじゃ、風をどういう風に操りたいかをイメージして具現化すれば良いのじゃ」
そう言ってエリーナは近くに生えていた木を風の刃であっさりと切り倒した。
「おぉ……すげー! 他にはどんな事が出来ますか?」
「ふむ……そうじゃな……」
エリーナは少しだけ考えて玄関横に立てかけてあったホウキを手にとると、そのホウキに腰掛けフワリと空を飛んだ
正に俺が想像していた通りの魔女の姿がそこにあった! 宅急便の仕事も楽に出来そうだ!
「空を飛ぶのも風魔法なんですね!」
「無論じゃ、しかし遠くまでの移動となるとそれだけ魔力の消費も激しくなるがの」
「えっと……ホウキはなんの意味があるんです?」
「意味は無いぞ。ただ、風で服がめくれるのでな。そうならぬようホウキに座っておるだけじゃ」
確かに下から風で体を持ち上げる訳だからエリーナの着ている足元まで裾のある長いスカートだと、風を使い浮こうとすれば一瞬で下半身が丸出しになってしまうなと思った。
「あれ? でもシルフィーが飛んでる時は風が吹いて無いよな?」
「妖精の魔法は別じゃと言うたであろう? シルフィーの場合は風の精霊が彼女を支えておるのじゃ」
「えっ?」
そう反応したシルフィーの方を見てみると驚いた顔をしていた。きっと彼女自身もその事を知らないのだろう。
シルフィーの頭の上に『?』マークが三つほど見えた気がした。
そこでふとシルフィーと出会った時の事を思い出す。
「あれ? じゃあ、デットスパイダーの糸で動け無かったっていうのは?」
「精霊を使役するのに魔力が必要だからじゃ。その魔力を吸収されたが故に精霊が反応せず身動きが取れなくなったのであろう」
「ほえー、そういう事だったんすね」
それにしてもエリーナの知識には脱帽である。妖精に関しても本人よりも詳しく知っている事に驚いた。まぁ、シルフィーが知らな過ぎるとも言えるのだが。
シルフィーの話は興味深く、もっと色々聞いて見たかったが、今は自分の魔法の練習が第一優先だ。
エリーナの真似をして、飛んでみようとしたものの、体が少し浮いた位でとても飛ぶと呼ぶには程遠い物で、風の刃も彼女の様に木をスパッと切る様な威力は無く、僅かに切れ込みが入ったくらいであった。
「まぁ、最初はそんなもんじゃろ。猪位であればその程度の威力でも十分じゃろうしな」
「確かにそうかも知れませんが……なんだか悔しいです……」
「あとは慣れじゃな。魔力が少なくてもイメージと魔力の使い方次第では高い威力の魔法を撃てるようになるはずじゃ」
(こりゃ……毎日の訓練が必要だな)
「あっ! そうじゃ! 今のぬし でも良い方法があるの」
そう言ってエリーナは家の横に建っている小さな物置き小屋へ向かい、何やらゴソゴソと探している様だった。その姿もなんとも愛らしい。
「おー、あった、あったコレじゃ」
そう言って持って来たのは見た目普通の弓矢であった。俺はてっきり魔法使いが使う杖やステックなんかを期待していたので、予想外の武器に少し驚いた。
「えっと……コレと魔法とどういう意味が?」
「まぁ、見ておれ」
そう言うとエリーナは弓を構え矢を放った。
シュゴッ!!
バギッッ!!
エリーナの放った矢は物凄い勢いで狙っていた木に命中し、その木に大きな穴を開け貫通していた。
「ふぁっ!? なんスか? その威力……その弓、魔法の弓かなんかですか?」
有り得無い威力だ! 弓で木を貫通させるなんて前の世界だと考えられない話である。この世界は物理の法則が通用しないのだろうか?
見た目は普通の弓にしか見えないのに飛んでも無い武器だなと思ったが返ってきた答えもまた予想外であった。
「いや、普通の弓じゃぞ」
「いやいやいやいや、普通の弓であんな威力有り得ないですってば! 」
「ぬしは今わっちが魔法を使ったのに気付かんかったのか?」
「えっ? 魔法? えっと……弓か筋肉を強化させたとかです?」
「ハズレじゃ。そもそも強化系の魔法を使えんぬしに、そんな魔法教える訳が無いであろう? 」
「えと……じゃあどうやったらあんな威力に……?」
「簡単じゃ、魔法で風の道を作っただけじゃ」
「えっ? それだけで?」
「うむ、そう難しく無いはずじゃからの。ぬしでも使えると思うてな。応用すればこんなこともできるぞ」
そう言ってエリーナ再び矢を放つ。今度は蛇のようにクネクネと左右に動く軌道を取った後、的に命中した。その動きはもう、完全にニュートンに喧嘩売った動きだった。
「ほれ、やってみぃ」
エリーナはポーンと俺に弓を投げ渡す。今放ったクネクネした動きは無理でも、最初の様に真っ直ぐ飛ばすのであれば確かにそう難しくはないかなと思えた。
矢をつがえ、一本の木に狙いを定め弦を引く。
「良いか、イメージじゃ。的を目掛けて魔法で風の道を作るのじゃ」
エリーナに言われた通りに魔法で風の道を作る。
「てやっ!」
シュッ!!
バシッ!!
俺が放った矢はエリーナの様にとまではいかなかったが、想像していた以上の勢いで狙った木に命中していた。
「まぁまぁじゃな。どうじゃ? なかなか使い勝手が良い魔法じゃろ?」
「凄いです! 確かに使った魔力はそんなに多く感じませんでしたし、練習すればもっと威力も上がる気がします!」
「うむ、精進するがいい」
「あっ、ちなみに師匠は風魔法以外も使えるんですよね?」
「当然じゃ、わっちは全ての属性の魔法が使えるでな」
そう言ってエリーナは俺に右手を開いて向けた。
そしてその右手の人差し指の先から小さな炎が、中指の先からは氷の塊が、薬指の先からは石が浮かび、小指の先からは小さな竜巻が、親指の先は淡く光っていた。俺に回復魔法をかけてくれた時の光だ。
「なにそれ! すげー! カッチョイイ!!」
俺も真似して見たが当然出来るはずが無い。
「適正が無ければどれだけ魔力があっても他の魔法は使えんからの。わっちは全ての属性の適正があるが故、全ての魔法が使えるのじゃ」
そうかなとは思っていたけどこの人やっぱチートだわ……。しかもそれぞれの魔法の最高峰の使い手だと容易に想像できる。
「師匠って色々と規格外っすね……」
「伊達に長く生きとらんでの、まぁ色々試して鍛錬に励むがよい」
そう告げるとエリーナは家の中に入って行った。これから薬品の調合でもするのだろう。
俺はシルフィに見守られながら魔法の練習を開始する。
「うーん、イメージが大事だって言ってもなー。どうイメージしたら威力上がるかな?」
威力が高い飛び道具と言えば銃だ。銃は弾が飛び出す際に回転しながら射出することによってその威力を高めるはずだった気がするからそのイメージでやってみる
細長い竜巻の中心を矢が通るイメージだ
シュッ!
ガコッ!!
「おーっ! クライド凄いじゃん!」
シルフィが俺の魔法を使った矢の威力を見て驚く。
「今のかなりいい感じだったよなっ? ん? まてよ……」
「どうしたのさ、クライド?」
「いや、これ弓要らなくね?」
「弓が要らないってどうゆうこと? 弓の練習してるんでしょ?」
「まぁ、説明するよりちょっと見てな」
そう言うと俺は足元に落ちている小石を拾いあげる。握り拳を縦にした状態で人差し指の所に小石を乗せその下に親指を置く。
的に狙いを定め風の道を作り親指で小石を弾く!
シュッ!
バチッ!!
「おぉぉぉっ!! クライドやるぅ!」
「だろっ? 俺天才かもっ!良し、コレを『レールガ……』いや『指弾』と名付けよう!」
ネーミングに多少の気を使いつつ、俺は新たな技を習得した。
(いや、まぁ指弾もまぁまぁアレなんだが……)
ネーミングはさておき、威力はまだまだ弱いものの使い勝手が良さそうな技なので今後は威力を高める練習が必要だと感じた。
それにしても少し魔法を使っただけでかなり疲れた。俺の魔力量はかなり少ないようだった。
「うーん、喉が乾いたな……シルフィ、ちょっとこっち来い」
「ん? なんだい?」
近寄ってきたシルフィを捕まえるとその下半身を口に咥えた。
「キャーっ! ちょっとなにするのさ! こういうのダメだってエリーナも言ってた……ひゃっ!」
そんな事は言って無いと思ったものの、口が塞がっていて喋れないので無視する。
「いや! ちょっと待って! だからダメだって! 待って! 待って! 待って、あっ……」
水分補給が完了した。
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