第38話 遥か遠い過去
二〇二三年某日。初めにその小さな異変に気付いたのはオーストラリアで農園を営むカール・グリッツと言う男であった。
畑に出て今年の作物の出来はどんなものかと麦の稲穂に手を伸ばす。そこでカールは異変に気づく。穂はしっかり付いているのにその穂の中に実が詰まって無かったのだ。
他の麦も確認してみたが、他は問題無くしっかり実が付いており、実が詰まっていないのは先程の苗とその周辺の数本の苗だけの様だった。
害虫にやられたのか何かの病気か? 疑問に思いつつもカールはあまり深く考える事無くいつもの作業へと戻って行った……
そしてもう一人小さな異変に気付く者がいた。浦城 寛治という男で東京から南にある離島で漁師として生計を立てている男だ。
彼が異変に気付いたのは休日に浜辺を散歩している時の事だった。例年であれば浜辺には大量の海藻が打ち上げられる時期のはずなのだが、それが全く見当たらなかったのだ。
「なんだかちと嫌な感じだな……」
常に自然と対峙してきた漁師であるが故に、その小さな異変を敏感に察知のだろう。そして彼が感じた「嫌な感じ」は後に大きな問題へと発展するのであった。
そしてカール・グリッツが最初に気付いた麦穂に実が詰まっていないという現象は十年後には世界各地で発生するようになっていた。「空実病」と名付けられたその病気の原因を探ろうと世界各国で研究がなされだが、未知のウイルスによる物なのかはたまた気候変動による物なのか原因は不明のままであった。
更にその現象は麦だけに留まらず、トウモロコシや稲にまで発生し、穀物の生産量は年々減少し、価格はどんどん高騰して行った。
また、農作物だけではなく海でも海産物の漁獲量が大幅に減少して行き、世界中が食糧難となって行った。
だが悪い話ばかりでは無かった。アメリカで一つの論文が発表され世界中から注目が集まった。
それは宇宙物理学者であるロイス・バーキンス氏が発表した論文であり、その内容はそれまで謎とされていたダークマターの正体を突き止めたと言う物であった。しかもその論文の中で物体をテレポテーションさせる実験に成功したと書かれていたのであった。
そしてこの論文に目を付けた機関があった……
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