7-4

 夜明け前の薄明かりの中、アルマンは早起きして、祖父の家の前に立った。既に村の大人たちの何人かが集まっていて、村長である祖父と談笑している。

 上がりきらない夜のとばりの向こうに、点々と灯る、淡い光が見えた。村を囲む結界石の光だ。魔力を充填してくれたのだ、全て。

「夜の間に作業するって聞いたときは、こっそり逃げるつもりかと思ったが……」

「失礼なことを言うんじゃないよ。見てごらん。畑の向こう、見渡す限り、結界石の光が灯っているだろう」

「綺麗だねぇ……あれを全部、通りすがりの魔法士様が一人で灯してくださったのかい……」

 アルマンの後ろで、老人たちが感嘆してささやき合う。

 アルマンは、じっと、村の入り口を見つめた。

 やがて、東の空が白み、夜のとばりが上がっていく。

「……っ! 帰ってきた!」

 まばゆい朝陽に照らされて、青年と狼が戻って来る。

 アルマンが大きく手を振ると、気づいた青年も軽く手を上げて答えてくれた。



「本当に、何とお礼を申し上げれば良いか……」

 村長をはじめ、村の人々が、深々と頭を下げる。せめてものお礼にと差し出したなけなしのお金を、しかし青年は受け取らなかった。

「結界石は全て、魔力を満杯に注いでおきましたから、しばらくは大丈夫でしょう。ですが来年の冬くらいには、次の充填もしくは交換が必要になると思います。このお金は、その費用にててください」

 そう言って、青年は丁寧に一礼し、去っていく。

 御伽噺おとぎばなしの勇者と同じ、黒い大きな狼を連れて。

「……勇者様……」

 朝陽を浴びて進む彼らを、アルマンは、その背中が見えなくなるまで、見送った。

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