7-2
昼下がりの森の
パトロールだ。村の周りに張った獣
初夏の陽射しが照りつけて、アルマンの
すぐ近くで、獣除けの鈴が鳴る音がした。
はっと振り向いたときには、既に遅く。
アルマンの背丈の倍以上ある、
剣を構えるどころか逃げることもできず、アルマンは、その場に凍りついたように立ち
瞬間。
アルマンの体を、光が包んだ。それは、獣の爪を
続いて、黒い影が、横から獣に飛びかかる。
狼だった。黒い大きな狼が、獣の喉に噛みつき、爪を立てている。
獣が悲鳴を上げ、大きく身を
狼が、ひらりと着地する。
アルマンは、ぺたりとその場に座り込んだ。
「君!」
凛とした声が響いて、アルマンは振り向く。見知らぬ青年が、アルマンのほうへ駆け寄ってきた。真直ぐな長い黒髪を、左肩の上で緩く束ねている。ローブを身に
「良かった。怪我はなさそうだね」
青年の声に、アルマンは、はっと我に返る。
青年が
さっき自分を包んだ光は、この魔法使いがかけてくれた防御魔法だったのだろう。
そして、獣と戦ってくれたのが……。
アルマンは、ちらりと視線を移した。青年の後ろで、大人の背丈ほどもある黒い狼が、乱れた毛並みを
「……勇者様……」
「えっ?」
「勇者様だ!」
アルマンは、勢いよく立ち上がると、青年のローブを
「こっち! 爺ちゃん……じゃなかった、村長! 村長のところへ来て!」
ぐいぐいと青年を引っ張って、アルマンは村へと急ぎ戻った。
「爺ちゃん!」
祖父の家が近づいて、アルマンは
「こら! アルマン! 外では村長と呼びなさいと、あれほど……」
庭で
「アルマン、その方は……?」
「勇者様だよ!」
「勇者?」
「いえ……ただの魔法士です。旅の途中で……この子が獣に襲われているのを見て、それで……」
青年が苦笑しながら、村長に説明する。
「……また、村の端……森の傍に行ったのか……」
危険だから行くなと言っておるのに……と村長が嘆息する。
「孫を助けていただき、ありがとうございます」
村長は、深く頭を下げた。
「ねぇ、爺ちゃ……村長」
アルマンが、村長の
「この人に、結界を直してもらおうよ。魔法使いなんだから」
村長を見上げ、アルマンは僅かに鼻を膨らませる。興奮したときのアルマンの
「結界?」
青年が尋ねる。村長は、困ったように、頭を
「村の周りには、森の獣から村を守るための結界を張っていたのです……結界石を使って……しかし、数日前、結界石の魔力が切れ、結界が解けてしまったのです」
元々ある獣
「若者は皆、出稼ぎに行ってしまって、冬まで帰ってこないのです。ここに残った年寄りと子どもでは、街に行くのは難しくて……」
このままでは、村人も、いつ獣に襲われるか知れない。
弱りきった表情で、村長は
「大変なご事情、お察しいたします。私で良ければ、結界石に魔力を充填いたしましょう」
青年が、
「良いのですか……?」
村長が、食い入るように、青年を見上げる。
もちろん、と青年は
アルマンは瞳を輝かせる。
強くて優しい。やっぱり勇者様だ。
大好きな絵本に出てくる勇者も、旅の途中で、沢山の人を助けていったのだから。
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