Chapter 8
8-1
魔法は、確定した死を覆すことはできない。
――魔法録 第8章
* * *
王都を
ベルトランの地図に記された《起源の地》あるいは《果ての地》たりえる場所は、全部で七か所。そのうちの四か所を、回り終えた。古い遺跡や、既に廃墟となっている場所もあったが、いずれも《起源の地》あるいは《果ての地》と言える場所ではなく、弟にかけられた魔法を解く手掛かりも得られていない。
「あと、三か所……」
広げた地図を見つめ、クラウスは呟く。残り少なくなるほどに、次こそは……という期待が大きくなると同時に、もし全ての地を回っても手掛かりが得られなかったら……という不安も大きくなってくる。
弟を人の姿に戻す鍵は、この世界のどこかに必ずあるはずなのに、
もどかしさと焦りが、足もとから
振り切るように、クラウスは歩調を速めた。
これから向かう二か所は、場所が近い。とにかく今は、足を動かそう。この先の渓谷へ急ごう。
地図に示された五つめの地は、周りの集落の人々が《死の渓谷》と恐れて近寄らない、深く険しい大渓谷だった。魔獣が棲んでいるという
どんな場所なのだろう……無意識に
「そうだな。お前が一緒だから、心強いよ」
ありがとう。そう
森を抜けると、急に視界が開けた。切り立つ巨大な岸壁が、大地を分断している。
「ここか……」
そっと、下を
『兄さん、あそこに、橋がある』
リュカが吠え、鼻先で示す。少し先に、古びた吊り橋が架かっていた。
「対岸へ行ってみようか」
吊り橋の
「魔法で補強しよう」
橋に手をかざす。淡い光が橋を包み、光の道を作った。
「よし、これなら大丈夫だ」
吊り橋に足をかける。所々、板が落ち、穴が開いている。一歩ずつ、クラウスは足もとに気をつけながら進んだ。クラウスの後ろに、リュカも続く。
長い吊り橋の、半分まで進んだときだった。
「……えっ……?」
橋を包んでいた光が、ふっと
クラウスとリュカの、ちょうどあいだで、吊り橋の縄が、断末魔の悲鳴のような音を立てて、切れた。
『兄さん!』
「リュカ!」
吊り橋が崩落する。クラウスが
「リュカ! 大丈夫か⁉」
霧の向こうへ呼びかける。自分の声の反響に重なって、対岸から、リュカの声が聞こえた。良かった、無事だ。
とにかく、下りるしかない。クラウスは唇を引き結ぶと、慎重に、岸壁を下りていった。
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