5-5

 黎明の光と引き換えるように、兄は魔法陣の光を収めた。そして、セヴランに、ふわりと微笑みかける。

「治療は無事に終了です。毒の岩も、毒素も、完全に消えました」

「……っ! ありがとうございます!」

 後ろで見守っていたアンナが、涙目で口もとに手を合わせる。

「ありがとう……改めて、礼をさせてくれ」

「いえ、私は、宿賃をお支払いしただけですから」

 にこりと笑った兄に、セヴランは、全く君はと苦笑する。

「とにかく、今すぐ休んでくれ。アンナ、この方を客間に案内して差し上げるんだ」

「はい!」

 ふたりに促され、兄は一礼して席を立つ。

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」

 そして静かに、アンナの後に続いた。完璧な微笑を崩さずに。



 ベッドに身を横たえると、兄は沈むように眠りに落ちた。解いた微笑の下には、疲労の色が濃く滲み、痛ましいほど憔悴しているのが分かる。

 無理もなかった。この三日間、兄は一睡もせず、高度な魔法を使い続けたのだ。

 ベッドの傍に、ぺたりと座り、リュカは静かに、兄に目を落とす。

 兄の魔力は途轍とてつもないと、皆、口を揃えて称賛する。並ぶ者のない強大な魔力を持つ兄は、どんな魔法も使える。使えてしまう。

 それが、リュカには、心配でたまらない。

 兄の魔力は、いつか、兄の身に余るのではないか。

 兄の体の限界を、超えてしまうのではないか。

 兄の魔法が、兄の命を削ってしまうのではないか。


 兄を守りたいのに。

 兄の魔法から、兄を守ることはできないのだ。

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