Chapter 9

9-1

 魔法は、内なる意志を、魔力により、外なる世界に具現化するものである。


――魔法録 第9章



 * * *



 海岸線を、ずっと南に歩いた。二週間で旅程の半分。目的地に着くのは、きっと次の新月になる。

 岩陰にテント代わりの結界を張り、寝支度をする。遠く、近く、波の音が聞こえていた。

 思えば、こんなふうに弟と一緒に眠るのは、十年以上振りだ。王都に連れられてからは、ずっと別々の部屋だったから。

 幼い頃は、いつも一緒に眠っていたのに。

 クラウスの顔が、思わずほころぶ。

『何か、楽しいことを、思い出しているの? 兄さん』

「うん……この旅のあいだ、毎晩こうして、お前の隣で眠るの……なんだか小さい頃に戻ったみたいで……良いなって、改めて思ったんだ」

『……俺も……俺が狼じゃなくて、なおかつ野宿じゃなければ、もっと良かったんだけど』

 弟が、フンフンと鼻を鳴らす。クラウスは、声を立てて笑った。

 皓々こうこうと輝く満月が、ふたりを静かに照らしていく。

 秋が近づき、夜の空気は冷え始めていた。

 クラウスの体を、リュカは自分の体で、そっと包む。旅を始めたばかりの、春先の頃のように。

 リュカの胸にひたいをつけて、クラウスは微笑みながら目を閉じた。

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