Epilogue

Epilogue

 朝の光が、明るく、穏やかに、王都に続く道を照らしている。陽射しは温かく、吹き抜ける秋風の冷たさを和らげている。

 弟と並んで歩きながら、クラウスは、そっと、弟の横顔を見る。

 生きて、良かったのだろうか……。

 自分が生きなければ、弟の命は――

「兄さん」

 弟が振り返る。クラウスを真直ぐに見つめて、微笑んで。

「願ってくれて、ありがとう」

 生きることを、願ってくれて、ありがとう。

「俺ひとりの願いだけでは、あの魔法はかからなかった。兄さんの願いが一緒になければ、叶わなかった」

 同じ願いだったから、叶えられたんだ。


――ふたりで、一緒に、生きたい。


 弟の手が、クラウスの手を取った。

 クラウスも、その手を静かに、それでも確かに、握り返した。

 瞳を交わして、微笑む。微笑み合う。

 ルビーの瞳とサファイアの瞳。

 アナグラムの名前。

 分け合った命。

 同じ願いを、たたえて。


 ふたりで、歩いていく。

 ふたりで、生きていく。


 弟の光は、今もクラウスを照らし続ける。

 あたたかくて優しい、願いのほとりで。

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新月の夜は願いのほとりで ソラノリル @frosty_wing

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