6-5
降り注ぐ朝陽に、
冷たく澄んだ山の風が、兄の長い髪とローブを、微かに
神殿の階段の下まで、ルネたちは、見送りに来てくれた。巫女は――巫女だった老女は、ルネの後ろで、幼い子どものように、きゅっとルネの衣の端を握っている。
「どうか、元気で」
貴方たちの旅路の無事を祈っているわ。
「ありがとうございます」
ルネさんたちも、と兄も微笑を返す。
「クラウスさん」
兄を見上げ、ルネは微笑んだまま、意を決したように、口を開いた。
「私、これから、この人と、人の死に寄り添う仕事をしていこうと、思っているの」
生きていたくないと望む人と、生きていてほしいと願う人のあいだで。
「不幸せから解き放たれるために死を早めるのでなく、幸せを注ぎ満たされるために生を全うできるように」
辛苦の果ての死は、悲哀しか生まないから。
「命は救えなくても、心は救えるように」
死を望む心も、生を願う心も。
「……貴方も」
ルネの後ろで、ずっと
「人を生かすなら……貴方は、絶対に、死んでは駄目よ……人を生かしたいなら、貴方も生きて……人を生かしたなら、生かしただけ、貴方も生きなくてはいけないの……」
老女の言葉に、兄は、ただ微笑んだ。それは、首を縦に振る代わりの微笑だったのか、それとも、横に振る代わりの微笑だったのか、リュカには分からない。
兄と並んで、山を下りていく。
木漏れ日が、きらきらと光を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。