Chapter 6

6-1

 倫理なき魔法は、神の御業と見分けがつかない。


――魔法録 第6章



 * * *



 鬱蒼うっそうと夜空を覆う針葉樹の隙間から、皓々こうこうと月の光が射している。それは純白の石で造られた神殿を、一際神々しく夜闇に浮かび上がらせていた。

天満月あまみつつきの夜を迎えました」

 神殿の壇上に、真白の長衣をまとった銀髪の老女が立っていた。両手に小さなさかずきを捧げ持っている。足もとには、老女とは形の異なる白い衣装に身を包んだ年かさの男がひざまずいている。

「どうか、き選択を」

 老女が身をかがめ、杯を男に差し出す。男はうやうやしく一礼し、それを受け取った。立ち上がり、再び深く礼をして、神殿を出ていく。老女は静かに見送った。

 続いて、若い女性が入ってくる。同じく老女の前に跪き、老女はまた、杯を渡す。

「巫女様」

 杯を手に、女性は、ふっと視線を上げて老女を見つめ、淡く微笑んだ。

「本当に、ありがとうございました。この七日間、毎日ご飯が食べられて、温かいベッドで眠れて……私は、幸せでした」

 晴れやかに微笑む女性の瞳を受けとめて、老女も慈しみの笑顔を描く。

「どうか、善き選択を」

 そしてまた、次の人間が、老女のもとへ跪く。

 老女は静かに微笑み続けた。

 杯を渡したうち、何人が、明日の朝陽を見るだろう。

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