Cランクダンジョンと本当の居場所

 俺がBランクダンジョンから帰還したあの日から三ヶ月。相変わらずCランクダンジョンのクエストをこなしレベル上げを続ける日々。

 だが、モカは魔法使いレベル27、マリアンヌが剣士レベル28、アミがアイテム士レベル27。クレアは騎士レベル21になっていた。

 

「そろそろ頃合いだな。」

「ん? どうしたの、お兄ちゃん。」


 モカがCランクダンジョンの地下九階に出没するブルードラゴンを魔法で楽々と倒す。

 俺の最初の見通しでは一年はかかるはずだった。だが、クレアが夜のレベル上げに参加するようになってから、レベル上昇のペースが急激に上がっている。

 Cランクダンジョンのボスモンスターの推奨レベルは30。モカたちにクレアを加えればもう充分Cランクダンジョンを攻略できる状況だ。クレアはCランクダンジョンを攻略してもパーティに残ると言ってくれている。

 こんなに早くCランクを攻略してしまったらさすがに他の冒険者たちにおかしいと思われるだろうが、Bランクの俺が手を貸したと言えば無理な話ではない。


「あ、そうそう。今日は四人でお兄ちゃんの部屋行くからね。」

「ああ。」


 そろそろモカたちにも言わなければならなかった。


     ◇

 

 俺の部屋なのに、まるで自分たちの家のように振る舞うモカたち。

 キッチンではモカとアミが夜食の準備をしている。マリアンヌは俺の愛読書『冒険者の心得〜ドラゴンの倒し方編』をパラパラとめくっている。

 クレアはというと俺のベッドに寝転がり、はぁはぁと息を整えていた。さっきまで俺の下で乱れ狂い、俺の名前を何度も呼んでいたからな。


「お兄ちゃん。出来たよ。これは精がつくよ。」

「ああ。ありがとう。」


 俺はモカが作ったウナギの筒切り焼きを口にした。

 以前は一人ずつ俺の部屋に来るルールだったのに、クレアを抱いたあの日から全員で俺の部屋にやってくる日が増えていた。


「クレアさん。はい、水。」

「すまない、アミ殿。」


 下着姿のアミから水の入ったコップを受け取ったクレアが俺の横に座った。俺の肩に寄りかかるようにしてクレアが言う。


「アレス様。私、またレベルが上がった気がします。」

「そうか。」


 クレアにも俺の付与師スキルの効果で経験値かレベルが付与されて、レベルアップが速くなることは伝えていた。


「先輩ー。次、私だから早く来てよー!」


 裸になったマリアンヌがベッドの上から俺を呼ぶ。

 さすがに毎日四人を相手にするのはきついので休みの前日だけにしろと言ってあったが、結局俺は普通の日もクエストの後に誰か部屋に呼び出してはやっていた。

 モカたちの急激な成長はつまり、俺がやりすぎてるんだよな。スキルの付与は無自覚で、俺は発動をコントロールできていない。


「先輩ー。」

「マリアンヌ。すぐ行くから。」


 俺はベッドでマリアンヌの上に乗る。マリアンヌは俺をうっとりとした瞳で見ると、俺の首に手を回しキスをした。

 この生活が永遠に続くわけではないとわかっている。

 Cランクダンジョンを攻略すれば、モカたちはBランクへの挑戦権とサブジョブを女神から得る。

 それからは俺の手を離れ、それぞれ自分たちの冒険者としての道を歩むのだ。


     ◇


「今日からCランクダンジョンのボスに挑戦する。」

「え?」


 Cランクダンジョンの入り口で、俺の言葉を聞いた四人が俺に聞き返した。


「攻略できるまでクエストは受けない。」

「え? まだ先でもよくない? お兄ちゃん?」

「そうですよ、アレスさん。私、まだレベルが……。不安です。」

「先輩、いくらなんでも……。え? 私たち何かした?」


 モカたち三人が不安を口にする。


「そういうわけじゃない。そろそろ行ってもいいと思っただけだ。クレアもCランクダンジョン後もパーティに残ってくれる。Cランク攻略に懸念は何もない。」

「ああ。私のクエスト達成後、私は正式にモカ殿のパーティに入ろう。私はアレス様のものなのだから当然だ。」

「それはそうだけど……。」


 三人には以前から俺は引退してスローライフをすると言っていたからな。早すぎると三人は思っているのだろう。

 それは正直迷っていたが、今なら冒険者ギルドの職員を目指すのもいいと思い始めていた。それならば、俺が目指すべき目標はもっと先にある。


「Cランクダンジョンを攻略したからって、冒険者を引退するわけじゃない。俺には新しい目標が出来た。無理強いはしないが、それまでお前たちにも付き合ってもらいたいと思っている。」

「お兄ちゃん。」

「アレスさん。」

「先輩。」

「アレス様。」


 俺の目をまっすぐに見てくれる四人。俺は力強く頷いた。


「こんなところで立ち止まってグズグズしていられない。みんな、俺についてきてくれるか?」

「はい!」


 お前ら、これまで好き勝手やってきた俺にまだついてきてくれるというのか。モカたちがこんなにも頼もしく思えるなんてな。なんだろう? これが絆なのか? 追放の先に俺は本当の居場所を見つけたのか?


「よし、行くぞ。」


 Cランクダンジョンのボスモンスターはゴールドゴーレムだ。力が強く一撃で致命傷になることもある。だが、しっかり立ち回れば恐い相手ではない。

 今のモカたちなら倒せるだろうが、ボス戦では念には念を入れて俺も戦闘に参加しよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る