裏ダンジョンと勇者の闇落ち

「……俺もだよ、シエル。」

「アレスさん!!」


 シエルが俺の唇を奪う。

 シエルの強烈に柔らかい唇、久しぶりだ。俺はシエルに求められるまま、シエルとのキスに夢中になった。

 もうどうなってもいい。俺は死にかけて奇跡的にシエルに救われた。また救われたのだ。今はこのままシエルに応えたい。シエルの体を味わいたい……。



「あー、シエル君、アレス君。私もいるのだが……。」


 俺は賢者ユーリ様の声で我に返った。シエルの服はもう乱れまくっていたが、シエルが俺から離れて慌てて着衣を整える。


「……ご、ごめんなさい、ユーリ様。」

「ユーリ様、お久しぶりです。」

「やあ、アレス君。こんなところで会えるとはね。」


 ユーリ様もここにいるということは、エミリアはまだBランクダンジョンの攻略を諦めていなかったのだ。そりゃそうか。シエルが一人でダンジョンにいるわけがない。

 Bランク裏ダンジョンとシエルは言っていた。今期のBランクダンジョンは地下十四階のボスが不在で地下十五階に下りることができなかった。それはこの裏ダンジョンの存在のせいに違いない。


「エミリアは裏ダンジョンを攻略するつもりなんですね?」

「ああ。誰も未踏のままでは新しいマップに変更されないとわかったのさ。裏ダンジョンへの入り口はすぐに見つからなかったが……。」

「あの落とし穴がそうだったと。」

「その通りだよ、アレス君。」

 

 俺は周囲を見渡した。一見すると普通のBランクダンジョンのエリアに見える。ここはセーフエリアだろうか? ここにいるのは俺とシエルとユーリ様……。


「……エミリアは?」

「……。」

 

 シエルもユーリ様も俺の問いにすぐに答えない。俺の脳裏に最悪な事態が浮かぶ。


「まさか、エミリア……?」

「いや、そうじゃない。勇者殿は生きているよ。」

「では今どこに?」

「……アレスさん。落ち着いて聞いてください。勇者様はBランク裏ダンジョン地下十四階のボスに操られて……、地下十五階のボスになってしまったのです。」

「エミリアがボス? どうしてそんな?」

「裏ダンジョン地下十四階のボスは魔王の手下だった。勇者殿は心の隙間を突かれてしまったのだ。私たちは勇者殿と戦わなければならない。」


 まさかそんな、エミリアが闇落ちだなんて。いや、エミリアを倒すなんて出来るのか? それで本当にエミリアは解放されるのだろうか?


「……アレス君、正直私たちも迷っている。勇者殿はレイドボスに匹敵する強さだ。我々だけで助け出せるとは思えない。冒険者ギルドに助けを求めるべきではないかと。」

「しかし、それではエミリアは討伐対象です……。」

「アレスさん……。」


 シエルが俺の背中にそっと手を添える。まさかエミリアの身にそんなことが起こっていたなんて。その間、俺がやっていたことはなんだ?


「ところで、アレス君はどうしてここに? 一人でBランクに来たのかい?」

「……ええ。」


 俺はシエルとユーリ様にここまでの経緯、付与のスキルの本当の効果と俺のレベルが下がっていることを話した。


     ◇


「そうだったのか、アレス君。不正確なことを言ってしまって申し訳ない。」

「いえ、ユーリ様……。」

「賢者もただのジョブだ。万能ではないからね。」

「……はい。」


 ユーリ様が他人事のように言った。

 

「それでは、私の中にアレスさんの経験値やレベルがあるんですね……。」

「そういうことだ、シエル。」


 シエルが自分のお腹の下の辺りをさする。


「でも、どうして今、そんなにレベルが下がってしまっているんですか?」

「それは……。」

「アレスさん?」

「ええと……。」


 俺は白状した。



「アレスさん……。私と離れている間に、四人も他の女の子と……。ユーリ様も知っていたんですか?」

「え? 私? まあ……。」

「アレスさん、酷いです!」

「悪かった、シエル。どんな罰も受ける。」

「罰なんて……そんなこと出来るわけないじゃないですか……。アレスさん、まさか私との婚約を——」

「それは無い! 俺はシエルを愛している。だから、シエルが赦してくれるなら。どうか俺と結婚してほしい。」

「……はい、アレスさん。赦します。……神は重婚も認めてらっしゃいます。」


 シエルが俺に身を預け、俺はシエルを抱きしめた。

 

「ありがとう、シエル……。」


 これでシエルとの結婚は確定事項。逃れられない。

 モカたちになんて説明しようか……?



 俺の腕の中のシエルが言った。

 

「アレスさん。もしも可能ならですが、私に付与していただいた経験値とレベル。アレスさんにお返ししたいのですが。」

「え?」


 付与の返還? そんなことが出来るのか? 考えたこともなかった。

 だが、何故だろうか。俺の中で『出来る』という確信がある。もしも俺のレベルが戻るなら、俺はエミリアを助けに行くことができる。


「良いアイディアだ、シエル。やってみよう!」

「はい、アレスさん!」


 俺はシエルにキスをする。どういう方法で可能なのか、じっくり検証する必要がある。

 どんなプレイ?

 どんな体位?

 絶頂度はどれくらいだ?

 もしかして付与師のレベルと関係があるかもしれない。

 よし、出来るようになるまでとことんシエルとやってやる。


「アレスさん、これ使ってください!」


 シエルが縄を取り出した。

 数ヶ月ぶりのシエルとのプレイだ。これは燃えるぞ!


「シエル!」

「ああん! アレスさん! もっとぉ!」



「はぁ……、それでは私は二時間ほど席を外そうかね……。」


 俺たちを残してユーリ様はセーフエリアを出ていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る