勇者不在の勇者一行とその頃

 シエルと一晩やりまくった結果、俺はシエルから付与した経験値とレベルを受け取ることに成功した。原理はよくわからなかったが、気付いたら付与も返還も俺の意のままになっていたのだ。たぶん、付与師のレベルが上がったのだろう。

 これで女といくらやっても付与が勝手に発動して俺の経験値とレベルが付与されてしまう心配はない。

 今の俺は戦士レベル40まで戻っている。その代わり、シエルはメインの神官レベル48だったのが43、サブの巫女レベル27が13まで下がってしまった。


「すまない、シエル。」

「いいんです。レベルはまた上げればいいんですから。これからはアレスさんも一緒ですし苦ではありません。」

「ああ、そうだな……。」


 ユーリ様がげっそりとした顔で俺たちに声をかけた。


「やっと終わったかい? それではこれからのことを相談しよう。」

「はい、ユーリ様。俺はエミリアを助けに行きます。裏ダンジョン地下十四階のボス、魔王の手下を倒せばエミリアは解放されませんか?」

「それは無理だ。魔王の手下は勇者殿の体に取り憑き、一体となってしまっているのだよ。」

「そうですか……。」

「だが、私はひとつの可能性を見つけた。アレス君のおかげさ。」

「俺の?」

「本来、勇者殿の力であれば魔王の手下に取り憑かれたりしないはずなのだよ。勇者のジョブは呪いに耐性を持つからね。」

「それが出来なかったということは……。」

「ああ。勇者のジョブのレベルが足りないのだ。レベルさえ高くなれば勇者殿は自力で魔王の手下を撥ねのけることができるだろう。」

「つまり、俺がエミリアにレベルを付与して、エミリアのレベルを上げてやればいいんですね?」

「そういうことさ。」

 

 俺が闇落ちしたエミリアに付与を……。できるだろうか? いや、やるしかない! ここは勢いで乗り切れ! 正念場だぞ! 俺なら出来る!

 

「わかりました。やってみます!」

「頼んだよ、アレス君!」


     ◇


 その頃、俺は知るよしもなかったのだが、モカたちは俺を探してBランクダンジョンに足を踏み入れていた。


「カテリナさん。ありがとうございます。私たちもBランクダンジョンに入れていただいて。」

「いえいえ。私がアレスさんを止められなかったせいですから。」


 カテリナさんは戦闘用の装備に身を包み、モカとアミ、マリアンヌ、クレアのパーティを先導していた。

 マリアンヌが言う。

 

「でも、ほんとにこんなところに先輩いるの?」

「はい。先日、ここでアレスさんの目撃情報があったんです。」


 アミはまだメソメソとしているようだ。

 

「アレスさん……、どうして私を置いて……。」

「アミ殿。きっとアレス様は私たちに責任を感じて欲しくなかったのだ。」


 クレアがアミの背中をさすって慰める。

 カテリナさんが周囲に気を配りながら言った。


「でも、本当に驚きました。アレスさんのサブジョブが付与師で、そのスキルによって皆さんのレベルが上昇していたなんて。」

「私たちも、そのせいでお兄ちゃんのレベルが下がってたなんて思いもしなかったよ……。」

「先輩……。」

「アレスさん……。」


 クレアが落ち込む三人に声をかける。

 

「大丈夫、アレス様は強い!」

「うん。そこは心配してないよ。」

「みんなで先輩を迎えに行こう。」

「アレスさんにまたいっぱい撫でてもらいます……、絶対。」


 三人の目には強い決意が宿っていた。



 目撃地点はBランクダンジョン地下三階、推奨攻略ルートからは少し外れる。

 一時間ほど歩き、一行はそこまで辿り着いていた。

 何度かモンスターとも遭遇したが、モカたちが気付くよりも先にカテリナさんが一瞬でモンスターたちを切り刻む。


「ふーむ。しかし、地下三階。隅々まで探すのは大変です。もしもアレスさんが既に地下四階に下りてしまっていたら……。」

「それなら私たちも。」

「カテリナ殿。その可能性はあるのだろうか?」

「何か手がかりを探しましょう。私はあちらを。」


 本当は手分けをしたかったが、ここはBランクダンジョン。モカたちは四人一組で、あまりカテリナさんから離れすぎないように注意して手がかりを探すことにした。

 と言っても、モカたちのパーティとしての強さは、Bランクダンジョンの通常のモンスターとも油断しなければ戦えるレベルである。


「ねえ、モカ。なんだろ? あっちから声がしない?」


 最初に気付いたのはマリアンヌだった。


「声……。ほんとだ。男……ううん、女性みたいだけど。」

「ど、どうするの? もしも危険だったら……。」

「モカ殿、行ってみよう。他に冒険者がいるなら、アレス様のことを知ってるかもしれない。」


 不安を口にするアミに対して、クレアは積極的な行動を提案する。


「……うん。お兄ちゃんに少しでも繋がる可能性があるなら、私は賭けたい。行ってみよう。」


 モカはクレアの意見に同調し、リーダーとして声に近づいてみる決断をした。


「もちろん、危ないと判断したらすぐ逃げるよ。」

「うん。」


 ふいに後ろを振り返ってみるが、カテリナさんの姿を捉えることはできなかった。自分たち四人だけ……。誰かがごくりとツバを飲み込む。

 声に近づくにつれ、壁に投影された灯りと長い人影が目に入る。

 すっと声が止んで静かになった。気付かれた……?


「誰?」

「あ……、あの私たち、人を探してて……。」

「人探しですか?」


 モカたちの前に顔を出したのは、赤い髪の女戦士と銀髪のシーフ。


「あの……、背の高い戦士の男性なんですけど……。この階で見てませんか?」

「……さあ、知らないわ。」


 銀髪のシーフが無愛想にモカの問いに答える。

 赤い髪の女戦士に目をやると、慌てた様子で女戦士も答えた。


「わ、私も知らない……です。」

「そうですか……。」


 残念ながら手がかりでは無かったか。

 四人が落胆して来た道を戻ろうとした時、モカが赤い髪の女戦士が持っている剣を見た。


「……ちょっと待って。その剣、お兄ちゃんのだ。どこで見つけたの!?」

「はあ?」


 銀髪のシーフが、女戦士を庇うように一歩前に出る。


「それ、お兄ちゃんのなんです! 教えてください! どこにあったんですか!?」

「ふーん……。」

 

 銀髪のシーフは必死なモカの顔をマジマジと見ると、吹き出すように笑って言った。


「あなた、アレスの妹なのね? それはお気の毒さま!」

「お兄ちゃんに何をしたの!?」

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