探索パーティと訳知りシーフ
「お兄ちゃんに何をしたの!?」
自分は兄の名前を言っていない。それなのに、この銀髪のシーフは確かにアレスと言ったのだ。兄を知っている。そして、その兄の剣をこの二人が持っている。
モカは震える右手を必死で押さえつけて、杖を構えた。
「答えろ!!」
同時にクレア、マリアンヌ、アミも戦闘態勢に入る。
「……アレスさん……アレスさん……!」
「くっ、アレス様……!」
「先輩が……いや、そんなわけ……。」
最悪の事態を想像してしまったクレアとマリアンヌが苦々しい表情を浮かべ、アミは半泣きになっていた。
「あら、あの色男はずいぶんと慕われていたのね。」
「お兄ちゃんは今どこ!? 答えて!」
「ミラ……、やっぱり……。」
「黙ってなさい、シイタ。」
ミラと呼ばれた銀髪のシーフは何か言いたげな赤い髪の女戦士を制止すると、短剣を抜いてモカに言った。
「聞きたかったら私に勝てば? でもね。私、シーフレベル44よ。それでもやるわけ?」
「ぐっ……。」
レベル44……相手が兄よりも上のレベルだと知ってもなお、モカは引けなかった。ここでこいつを逃がしたら、一生、兄の行方を知ることは出来ない気がしたのだ。そんなことは死ぬよりもつらい……。
「みんな……、戦ってくれる? 私は負けたくない!」
「当たり前だよ、モカ!」
「モカちゃん、私も同じ気持ちだよ!」
「モカ殿! アレス様のために勝ちましょう!」
四人はフォーメーションを取った。相手は格上。でも何故だろう。モカは負ける気がしなかった。兄が自分の近くにいてくれる気がしたのだ。
銀髪のシーフも短剣を構えた。
「ふんっ! 四対二でも負けるわけないわ!」
「いいえ、四対一ですね。」
気付くと銀髪のシーフの後ろにいた赤い髪の女戦士は、カテリナさんによって一撃で倒されていた。
「シイタ!?」
「カテリナさん!」
カテリナさんがモカたちに微笑みかけて手を振る。
「頑張って、モカさん!」
「はい!」
力強い味方を得たモカは杖を構えて呪文を唱えた。
「みんな! こんなの、ゴブリンだと思って戦えばいいんだよ! プロテクション! スピードアップ!」
「そうか、それならいける気がしてきた!」
魔法で防御力の上がったマリアンヌが銀髪のシーフに斬りかかる。
「誰がゴブリンだ! 誰が!」
銀髪のシーフはマリアンヌの剣を短剣で受けるが、間髪入れずにクレアが胴を狙う。銀髪のシーフがそれも躱して一歩距離をとったところに、モカが炎の魔法を打ち込んだ。
「お兄ちゃんを返せ!」
「ちっ、雑魚が集まったところで!」
銀髪のシーフの蹴りでマリアンヌが弾き飛ばされ壁に背中を打ちつけられた。すかさずアミがフォローに入る。
やはりレベル差は大きい。モカたちは銀髪のシーフに決定打を与えられない。
「モカ殿。私の剣なら、きっと。」
レベル差を覆せる可能性があるのは上級ジョブのクレアだった。モカたちはクレアを中心にフォーメーションを組み直した。
「たああああ!!」
「……ちっ!」
クレアの一撃が銀髪のシーフの腕にかすり傷を負わせることに成功し、銀髪のシーフが数歩後ろに下がってモカたちから距離を取る。
「こいつジョブは騎士か……。面倒ね。」
銀髪のシーフはちらりと倒れている赤い髪の女戦士とカテリナさんの方を見た。
「……つーか、シイタを一撃で倒したあの女がヤバすぎる。気を配らないといけないのはこいつらだけじゃない。」
さすがに銀髪のシーフの表情から余裕の色が消えた。
「ファイア!!」
モカが魔法で銀髪のシーフを追い詰め、マリアンヌとクレアが剣で挟み込む。動きを止めたところでアミが持っていた目潰しを投げつけた。銀髪のシーフは目潰しをはじき返すが、その隙をついてマリアンヌが距離を詰める。
モカたちは今までで最高に連携が取れていた。しかし、それを一番見せたい相手が今は行方知れず。
絶対に自分たちが辿り着いてみせる。四人の気持ちは今ひとつになった。
「このっ! 格下のくせに!」
マリアンヌの剣に向けて短剣を振り下ろそうとした銀髪のシーフ。だが、マリアンヌは目を逸らさない。
わかっているからだ。
クレアがいると。
「はあああっ!!」
銀髪のシーフの後ろからクレアが会心の剣撃を繰り出した。当然だが、斬り殺さないように刃は当てていない。
「ぐああああ!!」
クレアの一撃で、ついに銀髪のシーフは倒された。
「……やった。私たち勝ったよ! お兄ちゃん! ……お兄ちゃん……。」
堪えきれず、モカが涙をこぼす。
「お見事です、モカさん。アミさん、マリアンヌさん、クレアさん。」
「私たち、やりました。カテリナさん……。」
カテリナさんは、赤い髪の女戦士をどこからか取り出した縄で縛り上げ、更には銀髪のシーフも縛った。
「さて、アレスさんはどこにいるんですか? 教えてください。」
「……ふっ、アレスなら死んだわよ! 落とし穴に落としてやったもの!」
「落とし穴……?」
「そんな……お兄ちゃん……。うぅ……。」
銀髪のシーフから聞かされた衝撃の言葉を前に、モカたちは泣き崩れている。
カテリナさんだけが冷静に受け止めていた。
「諦めるのはまだ早いです。現場に行ってみましょう。」
◇
カテリナさんが呼びよせた冒険者ギルドの職員に、赤髪の女戦士と銀髪のシーフを引き渡した後、カテリナさんと四人は銀髪のシーフから聞き出した落とし穴のある部屋を訪れていた。
「これが落とし穴ですか。」
「こんなところ落ちたら誰だって……。」
「下が見えない。真っ暗だ……。」
より絶望を深くしたモカたち四人。しかし、カテリナさんだけは笑みを浮かべて言った。
「これは、私たち冒険者ギルドの手落ちですね。まさか、こんなところにこんなものがあるなんて。」
「え?」
「これは落とし穴ではありません。裏ダンジョンへの入り口です。」
「裏ダンジョン?」
「ってことは? 先輩は?」
「生きてますよ。」
「え!? ほんとに!?」
「お兄ちゃん……!」
「アレスさん!」
「アレス様!! 生きてる!」
四人は一転、飛び跳ね喜びを隠さなかった。
「それなら、行こう! 裏ダンジョン! お兄ちゃんを追って!」
こうして、モカたちも俺を追って、裏ダンジョンに飛び込んだのだった。
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