ダンジョンの中心で愛を叫ぶ

追いついた四人と俺の婚約者

「シエル、レベルを貸してくれ。」

「はい! アレスさん!」


 俺はシエルを呼び寄せると舌を絡ませてキスをする。

 するとシエルのレベルが一時的に俺に移動して、俺は戦士レベル60になった。

 ランクB裏ダンジョン地下十四階。

 俺は宝箱から手に入れたフレイムソードで、インフェルノオオムカデを真っ二つにした。

 フレイムソードは炎属性の剣のためモンスターとの相性があるが、このようにレベル差で殴れば関係ない。

 シエルが俺に抱きついてもう一度キスをする。


「んん! アレスさん……!」


 俺はシエルに借りたレベルを返した。


 今の俺は、俺の経験値やレベルを相手に付与できるだけではない。一時的にだが、シエルからレベルを借りて自分自身のレベルに付与できるようになっていた。

 しかもキスだけでスキルを発動できる。

 制約はいくらかあるが、これならエミリアにレベルを付与して呪いから解放することも不可能ではないだろう。

 ハズレだと思っていた付与師のジョブにこんな使い道があったとはな。


「エミリア、待っていてくれ。これから助けに行くぞ。」


 俺はシエルとユーリ様に向かって力強く頷いた。

 さあ、決戦の時!



「あ、お兄ちゃん! いた! いたよ!!」


 俺たちがセーフエリアを出てエミリアの待つエリアに移動しようとした時、俺に向かって手を振る人影があった。


「……モカ!?」

「お兄ちゃん!!」


 なんでモカがBランク裏ダンジョンに? その時の俺は、モカたちが俺のことを追ってきていたなんて知りもしなかった。


「アレスさん! 私……会いたかった!」

「先輩! よかった!」

「アレス様。ご無事で何よりです。」


 俺に抱きつかんばかりに走り寄ってくるアミ、マリアンヌ。

 少し離れてその様子を見ているクレア。クレアは目を潤ませている。


「みんな、どうやってここに来たんだ?」

「カテリナさんが案内してくれたんだよ、お兄ちゃん。」

「カテリナさん?」


 そちらに目をやると、カテリナさんが俺に小さく手を振って微笑んだ。


「そうか……。みんな来てくれたのか。……俺なんかのために。」

「なんか、じゃないよ。私はお兄ちゃんがいないとダメなの。」

「私はアレスさんと別れるなら死にます。」

「あー。私も、先輩と離れたくないかな……。」

「アレス様。私はあなたのものです。お忘れなく。」


 モカ、アミ、マリアンヌ、クレアが俺を囲んで言った。


「ありがとう。」


 俺は四人に心から感謝の言葉を伝えた。



「さあ、帰ろう? お兄ちゃん。」

「待ってくれ、モカ。俺はエミリアを救いにいかなければならない。シエルたちと一緒に。」

「シエル……さん?」


 俺がシエルとユーリ様の方に目をやると、モカたちはそこで初めてシエルたちの存在に気付いたらしい。

 シエルが俺たちに近づいてきて自己紹介をする。


「はじめまして。モカさん、アミさん、マリアンヌさん、クレアさん、ですね。私はアレスさんの婚約者のシエルです。」

「婚約者って……?」


 モカたちがシエルの存在にざわついた。

 モカたちにはシエルと別れたと思われていたから、そうなるのは仕方がない。

 しかし、こんなところでモカたちに会うとは思わなかったので、先送りにして俺は何も考えていなかった。まさかの修羅場だ。

 ニコニコと微笑むシエルと、混乱した表情のモカたち……。


「あー、みんな聞いてくれ。俺は——」

「い、今は私がアレスさんの彼女です!」

「そ、そうだな、アミ。」


 アミが俺の言葉を遮り、俺に向かって一歩前に出て叫ぶ。

 

「では、いつまで!? アレスさん……はっきり教えてください。……わ、私と……け、結婚……するつもりは……?」


 気付くとアミの手には俺があの時渡した胴の短剣プラス1が握られていた。

 

「も、もちろん、俺はアミを愛している。結婚しよう。」

「アレスさん……!! 嬉しい!」


 短剣を手放したアミが俺の胸に飛び込んでくる。


「じゃあ、私はどうなの、お兄ちゃん!? 義兄妹なら結婚できるって言ったよね!?」

「それ、俺が言ったか?」

「言ってなくても、どうなの!? 責任は?」

「責任……当然、取る。モカも、結婚しよう。」

「お兄ちゃん!!」


 モカも俺に抱きつく。


「あのさ、私はまあ、セフレのままでもいいけど……先輩がもしも……したいって言うなら……。」

「マリアンヌ。わかった。結婚しよう。」

「先輩! いいの!? うぅ……泣きそう。」


 マリアンヌが泣きながら俺に身を預けた。


「あの……、アレス様——」

「ああ、クレア。クレアのことも俺は愛している。こんな俺だが、クレアも結婚してくれるか?」

「あ……ありがとうございます、アレス様。……実はお伝えそびれておりましたが、私がアレス様のパーティに加入した時点でアレス様は私の夫候補として王宮に申告されており、私と契りを結ばれた時点でもう覆せません。」

「え!?」


 そんな重要なことはもっと早く言えよ!

 

「ですが、アレス様から言っていただけて嬉しいです。」


 クレアが俺の頬にキスをした。

 俺は恐る恐るシエルを見た。シエルは「神は重婚を認めている」と言っていたが……。変わらず微笑みを絶やさないシエル。だが、目は笑っていない気がする……。恐い。


「シエルも……。」

「はい、アレスさん。幸せいっぱいですね。」

「ああ……。」

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