Dランクパーティとレイドボス
「お前ら、気合い入れろ。俺たちも参戦するぞ!」
「はい!」
アミがハイポーションを深手を負った戦士の男に向かって投げる。アイテム士のスキルで通常の効果以上の回復がされるはずだ。
「な、なんで、お前ら、こんなところに……。」
「勘違いしないでよ、ディアン。お兄ちゃんが助けるって決めただけだから!」
モカがディアンとグランドドラゴンとの間に立った。
「モカ、プロテクションを全員にかけろ!」
「うん! ……プロテクション!」
まずは防御力の向上を優先する。
「マリアンヌ。わかっているな。」
「任せて、先輩!」
マリアンヌはグランドドラゴンに剣撃を加える。しかし、その剣はグランドドラゴンの皮膚を軽く切り裂いただけ。
だが、ディアンにとっては衝撃的な出来事だったらしい。
「お、俺たちがいくらやっても傷一つつけられなかったのに……。」
マリアンヌが使ったのは剣士のスキル『ドラゴンキラー』だ。俺がダンジョンボス攻略のためにマリアンヌに取らせていた。それでもグランドドラゴンに対してはあの程度のダメージ……。
やはり、主力は俺ということか。
「うわああ!」
アミのハイポーションによって回復したディアンの仲間が、動けるようになった途端に戦線から逃げ出した。
「おい! お前ら! 待ってくれ!」
逃げ腰になっているディアンが仲間の男たちを引き留めようとするも、お互いの信頼度が足りないのか男たちは振り向きもしない。
ディアンは腰が抜けているのか立つこともできないようだ。
元から戦力としてあてにはしてなかったが、やはり俺たちだけで戦うしかないわけか……。
「モカ!」
「プロテクションの二重がけ、終わったよ!」
「アミ!」
「ハイポーションとエーテル、いつでも出せます!」
「マリアンヌ!」
「いつでもいいよ、先輩!」
「よし! 俺についてこい!!」
俺は盾と剣を構えて、グランドドラゴンに向かっていった。
グランドドラゴンの爪を盾で受け流す。かなりの衝撃だが、モカのプロテクションのおかげでダメージは受けない。俺は剣を振りかざし、グランドドラゴンの眼を狙う!
だが、グランドドラゴンは俺めがけて炎を吐き出した。
「この野郎……!」
さすがレイドボスといったところか。近距離からの炎。盾で防ぎきれなかった。アミがすかさずハイポーションを俺に投げかけ、俺の火傷を治す。
俺の陰から飛び出たマリアンヌが、グランドドラゴンに斬りかかった。
「うおおお!」
「ブリザード!」
マリアンヌの剣がグランドドラゴンの鼻先を傷つけ、グランドドラゴンが仰け反ったところを、モカが氷魔法で追撃をかける。そうだ、ドラゴンには氷魔法が有効……、自分で判断したのか。
「いいぞ、お前たち!」
俺は怯んだグランドドラゴンの眼を剣で突き刺した。
「グォォオオオオ!」
激高したグランドドラゴンの爪がマリアンヌを狙うが、俺が全て盾で防ぐ。今のマリアンヌたちにグランドドラゴンの攻撃が直撃すれば命も危ない。
「先輩!」
「大丈夫だ! 攻めるぞ!」
俺はドラゴンの注意を惹きつけつつ、潰した眼の側、グランドドラゴンの死角から攻撃を続ける。
合間にモカが氷魔法でダメージを与えて、アミがエーテルでモカの魔法力を回復させる。マリアンヌはその身軽さでモカが魔法で与えた傷跡を狙って攻撃を重ねていた。
「ギャアアアア!」
俺の剣がついに、グランドドラゴンの右腕を切り落とした。
「いけるぞ! だが、気を抜くな!」
俺は三人に向けて気を引き締めるように声をかけた。
モカの後ろで俺たちの様子を見ていることしかできないディアンが呟いた。
「……どうしてお前ら、そんなに戦えるんだよ……?」
「だって私たち、お兄ちゃんのこと、信じてるから。」
「アレスさんが言うなら大丈夫って信じられるんです。」
「ま、くやしいけどそうなんだよな。」
俺は剣を構えた。戦士のレベル40スキル『一刀両断』。使うなら今だ。
「とどめだ。」
俺の闘気をこめた剣がグランドドラゴンの首めがけて振り下ろされる。グランドドラゴンの断末魔の声が響く。
グランドドラゴンの首がごろんと転がった。終わった。
光の粒子になって消えていくグランドドラゴンの体……。レイドボスの最期だ。
「お兄ちゃん!」
「アレスさん!」
「先輩!」
モカ、アミ、マリアンヌが俺のところまで駆け寄ってきて俺に抱きついた。
「強かった!」
「うん、凄かったです。」
「いやあ、今のはやばかったね!」
「お前たちもよくやった。お前たちがいたから勝てたんだ。」
実際にレッドドラゴン討伐のための準備をしていなかったら、ここまで三人のレベルが上がっていなかったら、俺たちでグランドドラゴンを倒すのは無理だったと思う。
「あ、これってドロップ!?」
モカがグランドドラゴンのいた場所で何かを見つけて言った。
金色に輝く宝石の玉……。
「竜の宝珠か……! これはレアドロップだぞ。」
「え、やった!」
モカが手に入れた竜の宝珠をディアンに見せつける。
「どう? ディアン。もう私につきまとうのはやめてよね!」
「……はは……。わかったよ……モカ。お前の勝ちだ……。」
完全に戦意を喪失していたディアンをその場に残し、俺たちはダンジョンを抜けて冒険者ギルドに戻った。レイドボス討伐の報告のためだ。
意外にもモカたちは竜の宝珠を早々に売り払い、装備購入の資金に充てた。
「今の私たちだったらDランクダンジョンボスも楽勝じゃない?」
「おい、マリアンヌ。その通りだが、油断するなよ?」
「わかってるって、先輩。」
マリアンヌが俺の唇にキスをする。
「そしたら、いよいよCランクダンジョンだね、お兄ちゃん。」
「ああ。Cランクからはもっとモンスターも強くなる。本当はもう一人、前衛が欲しいところだが……。」
「ふふふ。私はお兄ちゃんがいれば、問題ないと思うけど。」
俺の上にまたがったモカが俺を見下ろし笑って言う。
「そうです。アレスさんがいたから私たちここまで来れたんです。だから……。」
「アミ……。お前たちは本当に可愛い俺の弟子だよ。一人前の冒険者までもう一息だ。」
「……はい、アレスさん。」
俺は、俺の胸に頬を乗せるアミの体を撫でた。アミの言いたいことはわかる。
その後のことだ……。俺は冒険者を引退してスローライフのつもりだった。
でも今、俺のベッドの上には生まれたままの姿の三人がいて、俺の体を求めている。
俺はCランクダンジョン攻略の前に、答えを出さなければならなかった。
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