俺、またなんかやっちゃいました?

今カノアイテム士と勇者の姉

 俺たちは危なげなくDダンジョンボスのレッドドラゴンを倒し、Cランクダンジョンへと上がった。

 モカたちが冒険者になって半年弱か。エミリアの時と比べたら全然遅いが、普通の冒険者としては著しい成長速度だった。

 元勇者パーティの俺がいるとはいえ、少女三人のパーティがここまで強くなるなんて何か裏があるんじゃないかと噂する声はあるらしい。

 もちろん裏はある。俺の『愛の付与』によるレベル上げチート。俺との夜のレベル上げで、三人のレベルは急速に上がっている。だが、これは当然誰にも使えるわけじゃないし、妙な噂になっても困るので秘密にするように三人には口止めしていた。



 俺は冒険者ギルドの仲間募集掲示板を眺めていた。

 今後の俺がどうなろうとも、モカたちのパーティには前衛がもう一人欲しい。

 やはり戦士か。でも、俺の個人的な心情として妹のパーティに男を入れるのは心配だし、女の場合、モカたちとの関係は清算すべきだろう。

 はぁ……、どうにも踏み切れないな。冒険者としての答えは出ているのに、俺は別の答えを見つけたいと思っている。


「アレスさん、ため息? どうしたんですか?」


 いつの間にか俺の横にはアミがいた。


「あ、いや……。」

「私はアレスさんの彼女です。ずっと一緒じゃなきゃイヤです。」


 アミが俺の服の袖を引っ張って言った。アミは俺の考えていることをわかっている。その上で、俺と離れたくないと主張する。


「ああ、わかってるよ……。」

「本当ですか?」


 アミの上目遣いにまいった俺は、アミのその丸い頭を撫でてごまかすしかなかった。


     ◇


「アレス君? 久しぶりね。」

「ビーナさん!?」


 俺が三人を連れて町の道具屋を訪れていた時、一人の女性が俺を見つけて声をかけてきた。それは勇者エミリアの姉、ビーナさんだった。


「大きくなったわね、アレス君。見違えちゃった。」

「……ビーナさんもキレイになられて。」

「ふふふ。お世辞も言えるようになったのかしら。」

「どうしてこんなところに?」

「ちょっと村で不足した薬を買いに来たの。いつもなら配達してもらうのだけど、たまには妹の顔も見たくなって会いに来たの。」

「エミリアにですか。」

「ええ。でも、今はダンジョンから戻ってないみたい。」

「……そうですね。」

「ごめんね、アレス君。エミリアがわがまま言ったみたいで……。」

「いえ、俺がふがいなかったせいです。エミリアのせいではありませんよ……。」


 四年ぶりに会ったビーナさんは見違えるほど美しくなっていた。ビーナさんは今、村の道具屋で働いている。

 ビーナさん。エミリアの姉。俺の初恋の人。そしてビーナさんは俺の初めての女性だった。エミリアが留守の時に、俺はビーナさんに誘われてビーナさんの部屋を訪ねた。ビーナさんは俺の恋心を知っていて俺を部屋に招き入れたのだ。結局、あの一回だけだったが……。


「ずいぶん逞しくなったよね、アレス君……。」

「ありがとうございます。」


 ビーナさんと話し込んでいる俺をモカたちが見つけて話しかけてきた。


「あ、ビーナさん、こんにちは!」

「ビーナさんって?」

「エミリアさんのお姉さんだよ。」

「へぇ、勇者のお姉さん?」


 アミがビーナさんをジロジロと警戒したように見る。


「むー……。」


 アミが俺の腕をつかんで引っ張った。


「アミ?」


 俺の腕にひっついているアミを見てビーナさんが言った。


「あれ、もしかしてあなたがアレス君の彼女さんかな? よろしくね?」

「……。」


 珍しいな。アミが挨拶を返さないなんて。


「おい、アミ。ビーナさんは道具屋をやってるんだ。アイテムの知識はなかなかだぞ。アイテム士なら、きっと勉強になることもあるはずだ。」

「……はい、アレスさん。」

「ふふふ。可愛い彼女さんね、アレス君?」

「いつもはこんなじゃないんですが……。」


 それから俺とビーナさんは懐かしい村での話に花を咲かせた。村には四年も帰っていなかったからな。三人は俺とビーナさんを遠巻きにして見ていた。

 ビーナさんは別れ際にこっそりと俺に耳打ちした。


「私が今日止まる宿。鳥の看板の……。知ってる?」

「え?」


 ビーナさんが俺の目を見て微笑む。

 あれ? もしかして俺、誘われているのか? あの日、エミリアがいない部屋でビーナさんと二人きりで起こったこと。俺の心に刻まれた場面がふいに蘇りドキリとする。

 でも俺には今、モカたちがいる……。


「ふふ。冗談よ。……アレス君、可愛い。」

「も、もう。やめてくださいよ、ビーナさん。」

「……本当はアレス君がエミリアのパーティを抜けたって聞いて、村に戻ってくるんじゃないかって思ったんだよね。でも、そっか。冒険者を続けてるのね。」

「はい。せめてモカたちが一人前の冒険者になるまでは。」

「うん、わかった。あの彼女さん、泣かせるようなことしちゃダメだよ?」

「はい。」


 俺はビーナさんを見送ると、三人のところに戻った。


「待たせたな。」


 俺を見る三人は何故かムスっとしていた。


「アミに聞いたけど、お兄ちゃん、ビーナさんと話してる時、顔が赤くなってたって。」

「ええ?」

「鼻の下が伸びてたよ、先輩。」

「そ、そうか?」

「アレスさん、あの人と昔、何かあったんですか?」

「いや、何もない……。」

「本当ですか?」


 俺はアミに詰め寄られてたじろいた。

 

「アレスさんの過去がどうでも、今の彼女は私です!」

「わ、わかってるから。」


 アミが「んっ」と言って俺に向けて両手を広げた。俺は周囲の目を気にして気まずく思いながらも、アミをぎゅっと抱きしめた。


「あ、それ、私も後で先輩にやってもらお。」

「お兄ちゃん、私にもね!」


 なかなか離してくれないアミと俺を見て、マリアンヌとモカが言った。

 もう、勘弁してくれ……。

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