Bランク冒険者とおめかし淑女

 Dランクダンジョンのレイドボス、グランドドラゴンを倒して手に入れた竜の宝珠を売った金はパーティで均等に分けていた。

 俺はいらないと言ったのだが、モカが四人で戦って得たものだからと言って強引に俺にも取り分を握らせた。そのため俺の手元には今、相当な額の持て余した金があった。

 モカたちはそれぞれ自分の装備を買うために使ったようだが、俺の場合、今の装備で充分通用するから必要ない。


「先輩っ。この後さ、一緒に剣を見てくれないかな? アドバイス欲しくて。」


 Cランクダンジョンからの帰り道、マリアンヌが俺にそう言った。


「新しい剣を買うのか?」

「うん。お金もあるし。」

「そうだなぁ……。」


 俺はマリアンヌの剣を見た。Cランクダンジョンに上がる前に買った鋼の両手剣。Cランク剣士の一般的な装備だ。Cランクダンジョンのモンスター相手なら充分だが……。


「それでも充分だと思うがな。」

「でも、先輩の剣は全然攻撃力が違うじゃん。レベルの差だけじゃないでしょ?」

「俺の剣はBランクダンジョンの宝箱で獲得したミスリルソードに攻撃力プラス10を付与してるんだよ。」

「なんかずるい。」

「ああ?」


 BランクダンジョンからはCランクダンジョンまでとは危険度の次元が違う。トラップもあるし、モンスターは格段に強くなり、各階にボスモンスターがいる。

 Bランクからが本当の命知らずの冒険者なのだ。俺の剣は真の冒険者の証と言ってもいい。

 だが、冒険者として生計を立てるならCランクダンジョンのクエストをこなしていれば充分で、冒険者ギルドに所属する冒険者たちはCランクダンジョンのボスを倒せた後もBランクダンジョンには上がらず、Cランクダンジョンに居座り続ける者がほとんどである。

 だから俺は、モカたちもBランクに挑戦しなくてもいいと思っていた。俺はクエストの戦果を持って笑い合っている三人を眺める。冒険者になって半年か。まだまだ三人は少女の顔をしている。


 

 しかし、良い装備が欲しい気持ちは理解できる。今のマリアンヌが持っている剣以上の装備となると、Bランクダンジョンの秘宝かオーダーメイドか。攻撃力や属性の付与という方向性もあるが……。

 俺が真剣にマリアンヌの今後の装備について考えているとモカが言った。

 

「っていうか、マリアンヌはお兄ちゃんと二人になりたいだけでしょ?」

「あっ、ちょっと、モカ!?」

「今日、マリアンヌちゃんの番だから……。」

「いや、剣のことアドバイス欲しいのは本当だからっ!」


 モカとアミに図星をつかれたマリアンヌが顔を赤らめて俺を見る。

 なんだよそれ。


「それなら、北町の方に行くか?」

 

     ◇


「ねえ、先輩。もしかして、この辺のお店って高いんじゃないの?」

「まあ、そうだな。」

「ええ?」

「せっかくだからな。」


 俺がマリアンヌを連れてきたのは街の北側、高級店が連なるエリアだった。Bランク冒険者にもなれば、こういう場所を利用する機会もできる。

 武器屋のショーウインドウにはオーダーメイドの高級装備が並ぶ。

 マリアンヌは物珍しそうにそれらを眺めては、値札を見て驚いている。


「さすがにこれは買えないよぉ。」

「ふっ。でもこういうのを見るのも勉強になるだろ。」

「うん!」


 マリアンヌの目が輝いている。こいつ、剣士としての向上心は本物なんだよな。

 Bランクの俺には馴染みの店も多い。俺は頼んでBランク向けの剣をマリアンヌに持たさせてもらったり、最近の流行などの話を聞いたりした。


 

 いつの間にかすっかり日が暮れてきていた。俺も久々で時間を忘れたな。


「マリアンヌ、そろそろ飯にしようか。」

「飯って、もしかしてここで?」

「そうだ。たまにはいいだろ。」


 マリアンヌと飲む時はいつも酒場だったからな。

 俺は最初からそのつもりで、そこそこの服に着替えてきていた。

 しかしいきなり連れてきたので当たり前だが、マリアンヌは冒険者風の軽装のままだ。


「その前に、服を買うか。」

「服?」

「その格好では店に入れないからな。」


 俺はマリアンヌを連れて行きつけの服屋に入った。ちょうど竜の宝珠を売った金がある。服と飯代くらい奢ってやろう。


「まあ、アレスちゃん。ご無沙汰。」

「マツさん、最近あまり来れなくて悪い。この子に服を見繕ってやってほしい。」

「あら、可愛らしい!」

「あ、どうも……。」


 マリアンヌがマツさんにおじぎをする。

 マツさんは男だが、その目利きは確かだ。マリアンヌにも高級レストランにふさわしいドレスを用意して着せてくれる。

 マリアンヌが試着室に入っているうちにマツさんが小指を立てて見せて俺に聞いた。


「アレスちゃん、この子ってこれ?」

「ああ、まあ。」

「それじゃ、サービスしておくわ〜。」


 俺に向けてウインクしてくるマツさんに俺はドキリとしたが、決してときめいたわけではない。

 少しして、見間違うほど美しく着飾ったマリアンヌが出来上がった。いつもポニーテールに結んでいる長い髪は解かれて風になびいている。胸元が開けていて、寄せて盛り上げたバストがイヤでも目に入る。


「なんか、すーすーする……。」


 マリアンヌはふわりとしたレースのスカートをずっと気にしている。

 普段動きやすい格好しかしてこなかったマリアンヌには、スカートは慣れていないのだろう。


「マリアンヌ、綺麗になったな。」

「なっ、先輩っ、……本当に?」

「ああ。綺麗だ、マリアンヌ。」

「は、恥ずかしい……。」


 マリアンヌの顔全体がリンゴのように赤くなる。

 俺はレディに接するように、マリアンヌの手を取った。


     ◇


「ふぅ、美味しかった。初めて食べたものばっかり。」


 マリアンヌの酔い方がいつもより上品に見えるのは高い酒を飲んだからか? それとも格好のせいだろうか?


「いつもは無理だが、たまには連れてきてやるよ。」

「うぃ。先輩、大好きっ。」

「はは、お世辞かよ。」


 俺の腕に捕まりながらヨロヨロと歩くマリアンヌ。

 このまま家まで連れて帰るのは大変だな。宿を取ろう。

 俺はマリアンヌと共に北町の宿屋に入る。



 宿の部屋で二人きりになったとたん、マリアンヌが俺にキスをせがんできたので、俺はそれに応えた。


「先輩、脱がせて。脱ぎ方わかんない。」

 

 手間が焼けるな。俺がマリアンヌのドレスの背中の紐を解いてやった。


「ふぅ……。ありがとう。楽になった。」

 

 マリアンヌがドレスのスカートを下ろしたとたん、俺の目に際どい布面積のそれが飛び込んできた。


「マリアンヌ。お前それ……。」

 

 そりゃあ、すーすーするはずだ。マリアンヌはレストランでもずっとこんな下着を着けていたのか。マツさんの言ってたサービスというのはこれだな。


「あっ! これは! ……お店にこの下着しか無いって……。」

 

 マリアンヌは自分の姿に気付いて恥ずかしそうに隠そうとしたが、俺はその手をどけさせた。


「マリアンヌ。よく見せてくれ。」

「うぅぅ……。先輩……、いつまで見るの?」


 俺の目の前には淑女に変身したマリアンヌの姿がある。

 いや、最高の夜になりそうだ。

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