女騎士とCランクパーティ
「あの、アレス殿。よろしいか?」
「ん? 何の用だ?」
金色の髪をなびかせた白い金属製の鎧に身を包んだ女だった。美しい顔立ち。鎧の下の体は出るところは出て、締まるところは締まる。完璧な造形をしていることを隠せていない。
その女の存在は冒険者ギルドには場違いのように思われた。
「ご、ごほんっ。……私はクレア。メインジョブは騎士だ。」
「騎士……!」
騎士は上級ジョブだ。通常は戦士か剣士の戦闘職が、サブジョブに神官などの補助職を女神から授かり極めることでクラスチェンジする資格を得る。
「あなたのパーティを雇いたい。これがクエスト依頼書だ。」
俺はクレアからクエストの依頼書を受け取り、内容を確かめた。
目的はCランクダンジョンの攻略。条件はクレアのパーティへの加入……。
「パーティに加入だって? 悪いが俺のパーティじゃないんだ。決めるのはリーダーの妹のモカだ。」
「そうなのか。それはすまなかった。モカ殿に会わせてもらえるだろうか?」
騎士のパーティ加入か。俺もちょうど前衛となる戦闘職を探していたところだった。騎士なら期待以上だ。通常なら諸手をあげて歓迎するところだが……。
俺はモカにクレアを引き合わせる前に確認しておかなければならないと思った。
「待て。いくつか質問させてほしい。騎士なら上級ジョブだろう? サブジョブを得ているならBランク以上の実力のはず。」
「普通はそうらしいな。だが、私は最初から騎士だった。……私は王国アリアベリーズ第七王女クレア。騎士のレベルは12だ。」
「王女だと?」
そういうことか。実は数日前から俺を監視するような気配を感じていた。そのため、モカたちにも注意を怠らないように言っていたのだ。今も俺たちの様子を覗っている鋭い視線を感じる。おそらくは、王宮の護衛。
「安心してくれ。ここには私一人だ。」
しかしクレアはそう言った。隠しているのか? それとも気付いていないのか?
「アレス殿、……どうだろうか?」
騎士……。王族なら最初から上級ジョブであってもおかしくはない。しかし、王女が普通の冒険者パーティに入りたいなんて話は明らかにおかしい。王宮にはもっと高いレベルの騎士たちがいるし、ダンジョンでレベル上げをする必要もないはずだ。
「なぜ、王女がダンジョン攻略に?」
「……それは言えない。私の身分を明かしたのはあなたを信頼してのことだ。」
「そうか、わかった。では別の質問をしよう。俺たちのパーティはCランクに上がったばかりだ。騎士ならもっと高いランクのパーティに入ることも可能だと思うが?」
「それは……。」
クレアは眉間に皺を寄せて思案しているようだった。少しの後、考えをまとめ終えたのか、クレアは俺の質問に答えた。
「アレス殿のパーティが急速に力をつけていると聞いた。騎士のジョブは上級ジョブのため、レベル上げに通常のジョブより時間がかかる。もしも、効率よくレベルを上げる方法を知っているなら、それを教え賜りたいと……。」
ふむ……、俺たちのパーティが急成長しているという噂を聞いてきたということか。しかし、それなら何故すぐに答えられない? 何を隠しているんだ?
俺はクレアの顔をじっと見つめる。俺に見つめられて、クレアの目線が泳ぐ。不安の色が表れて、完璧な美しい顔が崩れる。
「だ、ダメですか?」
「いや……。」
悪意があるようには見えないし、王族というのも本当だろう。あれは去年だったか、エミリアが勇者パーティとして王宮に招かれた時、俺もパーティのメンバーとして招待された。俺はクレアの顔を確かにあの時に見た顔だと思い出していた。あの時は煌びやかなドレスを着ていたはずだが。
「いいだろう。」
「やったぁ!」
「ん?」
「いや……アレス殿、よろしく頼む。」
クレアは俺に深々と頭を下げた。
◇
「というわけで、今日から私たち『戦場に咲く一輪の花』を雇ってくれたクレアさんです。Cランクダンジョンの攻略までパーティに参加してくれます。」
モカが他の二人にクレアを紹介する。
「よろしく。クレアだ。形式上は雇い主ということになるが、どうか普通の仲間のように接してほしい。王女というのも忘れてくれて構わない。」
パチパチパチと拍手するアミとマリアンヌ。
俺はクレアをモカに紹介するところまでをやり、最後の判断はモカに任せることにした。
モカはクエストの依頼内容と報酬を確認して受注を了承した。
「お兄ちゃん。このクエストは断れないってことだよね?」
「ああ。」
クレアにクエストを受けると返事をしたモカは、クレアと別れた後に俺に聞いた。
クレアは王女であり、騎士。そしてクエストの依頼書を持ってきた。このクエストは普通の冒険者ギルドのクエストとは違う。Cランクダンジョン攻略までパーティに加入という条件は異例だ。しかも期限は切られていないという。冒険者ギルドがクレアの素性や依頼内容の精査をしていないはずがない。それを踏まえてクエスト依頼書が発行されたということは、これは特別クエストなのだ。
俺は念のため、冒険者ギルドに確認を入れている。あいにくギルドマスターは不在だったが、案の定、特別クエストで登録されており俺たちに拒否権は無かった。
モカのやつ、そこまで理解しているとは見直したぞ。
「だって、あんな綺麗な人、普通に連れてきたら絶対に私たち反対するもん。クエストって言われたら断れないじゃん。」
「はぁ?」
「ずるいなぁ、お兄ちゃん。」
モカは頬を膨らませて不機嫌に言った。
こいつ、俺がクレアを気に入って連れてきたと思ったのか?
「おい、そうじゃないぞ、モカ。いいか、このクエストの依頼書を持っているということはだな——」
「はいはい。そういうことならクレアさんにはあれのことは言わないってことでいいの?」
「当たり前だろ。絶対にバレないようにしろよ。」
俺が三人と夜のレベル上げをしていることを知られたらどんな目で見られるか。王女のクレアに変な誤解をされたら、今度は国からの追放もありえる。
「クレアさんともレベル上げしたいのかと思った。」
「するわけないだろ。王女だぞ。」
だが、Cランクダンジョンに向かう道中、アミは明らかに意識して俺とクレアの間に立っていた。
マリアンヌはクレアの注意を他に向けようと話しかける。
モカはまだ俺を疑いの目で見るのをやめようとしない。
なぜだ……? 三人からまったく信用されていない気がする。
「アレス殿。」
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