オールマイティ騎士と監視の目
「アレス殿。」
俺の複雑な気持ちなど知るよしもないクレアは、普通に俺に声をかける。
攻撃的な三人の視線が痛い。
「なんだ、クレア?」
「最初のモンスター、私に任せてくれないか? まずは私の実力を見てほしいんだ。」
「ほぅ。」
ったく、色ぼけしてる三人と違ってクレアは至って真面目じゃないか。少しはクレアを見習わせた方がいい。
「よし、わかった。いいな、モカ?」
「……お兄ちゃんがそう言うなら。」
モカはまだブゥ垂れている。なんなんだよ? そんなんでクレアと連携できるのか? パーティの連携が取れていなければみんなの命を危険に晒すんだぞ。アミとマリアンヌの態度も良くない。後で説教だな……。
だが、俺が灸を据えるまでもなく、クレアの戦い方を見た三人は衝撃を受けたらしい。
クレアはおそらく王宮仕込みの剣術で隙の無い動きを見せ、Cランクダンジョンのコボルトを撃破していく。
「はっ!」
クレアの手から放たれた火球で大コウモリが火だるまになる。そして、受けたかすり傷を回復魔法で治療する。
「すごい……。」
モカたちはクレアの立ち回りを前に、呆然と立ち尽くしていた。
騎士のジョブは攻撃魔法も回復魔法も使える。クレア一人で見事、モカたち三人分の働きを見せたのだ。
クレアは騎士レベル12と言っていた。上級ジョブはレベルの上がりが遅いが、通常のジョブの二倍は戦える。つまり、上級ジョブのレベル12は通常ジョブのレベル24に相当する。モカたちの今のレベルは、マリアンヌ剣士レベル21、モカ魔法使いレベル21、アミがアイテム士レベル20。実力は完全にクレアが上だった。
「どうだった? アレス殿!」
「素晴らしい動きだった。」
「うふふふっ! ……やった、褒められちゃった……。」
「ん?」
「むっ、いや、なんでもない。」
「クレア、剣術は王宮で?」
「はい! じゃなくて、ああ。幼少の頃から兄たちに混じって習っていたのだ。」
「なかなかのもんだ。」
「ふふふふふっ!」
「大丈夫か?」
「あ、ああ、問題ない。つい、あの、その、久しぶりにモンスターと戦って嬉しくなってしまって。」
「そうか。」
王女でも日頃ストレスが溜まるのだろうか。まあ、剣の腕は相当のものだ。戦うのが好きでなければここまでにはなれない。
「おい、モカ、アミ、マリアンヌ! クレアを見習えるところは見習うんだぞ。わかったか?」
「……はーい。」
三人が不満のありそうな声で返事をしたので、俺は久々にこの台詞を言った。
「俺の言うことは絶対!」
「はーい!」
クレアが俺たちの様子を見て、また、ふふふと笑った。
◇
冒険者ギルドからの帰り道、俺の後ろをついてくる気配が二人分あった。
その気配はクレアについていた気配と同じだった。つまりは王宮の人間……。ずいぶん露骨になったじゃないか。
俺の後をつけてピッタリと離れない。だが、どうやら俺に危害を加えようというわけではないらしい。それならば余計なことをしてトラブルになるのは避けた方がいい。
俺は気付いていないふりをして自分の部屋に戻ったが、窓の外を覗いてみても気配は消える様子はなかった。
モカたちの方にいった気配はなかったから俺だけか。
ふん。まあ俺は勇者パーティを追放された身だ。大事な王女様を預ける人間として信用されないのは仕方ない。しばらくは三人を俺の部屋に呼ぶのは避けた方がいいようだ。しかし、まいったな。クレアは何も知らない様子だったが、これではプライベートも何もあったものじゃないぞ。
俺は翌日、クレアが来る前の時間に三人に伝えた。
「——というわけで、しばらくは無しだ。」
「えええ?」
「なに、監視といっても危険なものではない。」
「そうじゃなくて!」
「ん?」
モカが俺に掴みかかるように抗議する。
「今度の日は私の番だったのにっ!」
「……いつか埋め合わせはするから。」
「いつかって!?」
アミが手をあげて言った。
「はい! 私はアレスさんの彼女なので、部屋に行くのは不自然じゃないと思います!」
「アミ……?」
「それなら、私だって妹なんだからお兄ちゃんの部屋に行くのはおかしくないよ!」
「おい、モカ。」
「それだったら私もセフレとして——」
「セフレはダメだろ。」
「えー?」
三人をなだめすかすのは一苦労だった。ずいぶんいろいろ約束させられた気がする。
クレアのクエストはCダンジョン攻略までだ。もしも俺が今の見通しで一年はかかると言ったら、こいつら何をしでかすかわからないな……。
◇
その日、クレアとモカたちの連携は最悪だった。
「モカ! 一匹そっち行った!」
「オーケー、マリアンヌ! 私に任せて! ファイア……って!! 危ないっ。」
ザシュ!
モカが狙っていた武装ゴブリンをクレアが一太刀で斬り殺した。
Cランクダンジョン地下二階。
俺たちはクレアのレベルに会わせて地下四階まで下りようとしていたが、思うように進んでいなかった。その原因は四人の連携の悪さであることは明らかだ。
さすがに今のは俺も苦言を呈さないわけにはいかないだろう。
「クレア、モカが魔法を使おうとしてただろ。危うく事故になるところだった。」
「……アレス殿、すまない。」
「マリアンヌとモカも。クレアの方が近くにいたんだ。クレアを頼ってもよかったんじゃないのか?」
「う……、それは……。」
「なんだ、マリアンヌ。それは何だ?」
「ごめんなさい、お兄ちゃん。焦っちゃって……。」
「モカ。お前はリーダーなんだから、状況を俯瞰して見れるようになれ。」
「……うん。」
クレアはどうも一人での戦いに慣れすぎている。モカとマリアンヌはクレアを妙に意識してしまっているようだ。今まで同級生三人でやってきたチームに一人だけ年上のクレア、しかも王女が加わったのだ。ぎこちなくなるのは仕方がないが。
「モカ。クレアはお前の指揮下にある。自信を持って指示を出すんだ。いいな、クレア?」
「あ、ああ……。」
おや、俺の言い方がキツかったか? クレアが落ち込んでいる。しかし、美人は気落ちしている姿でも絵になるんだな……。俺は一瞬クレアに見とれてしまったが、こんな様子を見せたらまたモカにあらぬ疑いをかけられてしまう。
「クレア。言い方がキツかったなら謝るが、パーティに入るならリーダーに従うのは当然だ。」
「……はい。」
「モカの指示があるまで動かない。いいか?」
「……了解した。アレス殿。」
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