妹の友達の剣士とアイテム士
「レベル1?」
俺はモカに紹介されたレベル1の少女アミの顔を見た。まだあどけなさの残るどこか自信なさげな女の子。こんな子が冒険者に?
そもそも、村の外の野良のモンスターと戦うだけでも普通レベル3に到達する。初心者向けのEランクダンジョンの推奨レベルもレベル5からである。
「モカ、お前のレベルは?」
「私? 私は魔法使いレベル6だよ。」
「そうか……。」
レベル6なら一応冒険者の基礎は身につけているのか。俺は少し安堵した。
「しかし、なんでまた冒険者なんかになったんだよ?」
「そ、それは……。」
「え、だって今一番儲かる職業じゃん。」
モカの言葉を遮って、剣士の少女マリアンヌが答えた。
「儲かるだって?」
アイテム士のアミが小さな声で言った。
「わ、私、家が貧乏で、どうしても稼ぎたくて……。そしたらモカちゃんが冒険者になろうって誘ってくれて……。」
確かにダンジョンから冒険者が持ち帰るモンスターの素材や宝物は高く売れる。それだけで経済が成り立っている町もある。だがそれは高ランクのダンジョンでの話だ。高ランクダンジョンに入るにはジョブのレベルを上げなければならない。それは何年もかかるし、命の危険もあるし、報われるとは限らないのだ。そう、俺のように。
しかし改めて見てみるとこいつらの格好はなんだ?
俺は三人の少女をマジマジと見た。
魔法使いのモカは、魔法使いの初期装備のとんがり帽子にマント。その下はひらひらとした短いスカートだ。黒い髪と黒い瞳で不安そうに俺を見ている。俺が冒険者になって家を出てから会っていなかったが、腕も足も細いのは変わらないな。ついでにバストもあまり成長が見られない。
アイテム士のアミ。俺とは目を合わせようとしない。初期装備どころか普通の村人の服だ。茶色の髪を首元の長さで切りそろえている。持っているバッグの中にはおそらくポーションなどのアイテムが入っているのだろう。レベル1か……。小柄な割りには弾力のありそうな乳が主張する。シエルほどではないが。
剣士マリアンヌは長い髪を後ろで束ねていて、なぜか俺を舐めたような態度で見てくる。防具よりも武器に金をかけたのか、薄手の装備のおかげでその健康的な体のラインがよくわかる。マリアンヌだけレベルが高いのは、モンスターとの戦闘をマリアンヌが率先して担当してしまうからだろう。
三人とも自分なりに装備をアレンジしていて見た目は可愛いと言えるが、それは冒険者として意味を成さない。
「バランスが悪いな。しかも、その格好。冒険者を舐めているのか?」
「ええ?」
「冒険者ギルドのサポートが手厚くなったとは言え、モンスターとの戦闘は命がけなんだぞ。わかっているのか、モカ。そんなビジュアル優先のような装備で、低レベルの女の子だけのパーティがやっていけるほど甘くはないぞ。」
「……わかってるよ。それはここに来て痛いほどわかった。だからお兄ちゃんにパーティに入ってほしいの。」
「……。」
つまり、モカは俺に自分たちの指導をしてもらいたいということか? しかし……。
その時、俺たちのテーブルを男たちが囲んだ。
「おい、モカ! その兄貴はやる気ないってよ。いい加減、俺たちのパーティに合流しろよ。」
「ディアン……!」
なんだ、モカの知り合いか?
見たところ彼らも冒険者のようだが、装備を見るとDランクダンジョンを攻略中と言ったところか。タッパはそれなりにあるが筋肉がまだ若いな。
「もしかしてモカの同級生か?」
「そうよ、お兄ちゃん。私たちと同じように冒険者になったバカ男子ども。ディアン! パーティは組まないって言ったでしょ!」
「おい、そう言うなよ。俺とお前の仲だろうが。」
どんな仲だよ! 俺の妹に馴れ馴れしくするこの男に俺は少し苛立ちを覚える。しかも俺のこと無視してないか? 俺は戦士レベル42なのだが?
俺が怒りを抑えつつ黙っていると、ディアンと呼ばれた男がモカの腕を掴んだので、さすがに俺は切れた。汚い手でお前……!
「妹に触れるな!」
俺はディアンの腕を掴み返し、力を込める。
「いたたたた!! は、離せ!」
どんなにもがいてもDランクが俺の力を振りほどけるわけないだろう!
ようやくディアンがモカから手を離したので俺もディアンを掴んでいた腕を放した。ふんっ、俺の指の形に紫色になってるぜ。
ディアンたちは腕を押さえつつ冒険者ギルドを出て行った。あれは治療が必要だろうな。
「ありがとう、お兄ちゃん。やっぱり強いね。」
モカが俺の手を取って言った。
「これが冒険者の実力……。」
「へー、ちょっと見直したわー。」
アミとマリアンヌも、感心したように呟く。
ふふん、舐めてもらっては困るわ。しかし、あいつらも駆け出しの冒険者だったのなら、大人げなかったかもしれないと少し反省する。
「ねえ、これでわかったでしょ。私たちにはお兄ちゃんが必要なの。私たちを一人前の冒険者にして!」
やはり、モカは俺に自分たちを鍛えてほしいと思っていたのだ。しかし、問題もある。俺はパーティを追放された冒険者だ。普通、パーティを追放された人間をパーティに迎え入れたい者はいない。追放されるにはそれなりの理由があるからだ。
「だが、追放された俺がいることでモカのパーティまで白い目で見られるようになるぞ?」
「そんなの関係ないよ。少なくとも私はお兄ちゃんのことわかってるから。それに何より、ディアンなんかに負けたくないの!」
俺は他の二人を見た。
「私は、モカちゃんのお兄さんなら信用します。」
「うん。なんか面白そうだし、私もいいよ。ま、イケメンはイケメンだし。」
まあ、モカは言っても聞かないからな。このままこの三人を見過ごしたらいつかモンスターにやられるのは確実だし、それよりも悪い男どもの餌食にされかねない。せめて自分の身は自分で守れるようにならなければな。
「はぁ……、わかった。お前たちが一人前になるまでだぞ。そうしたら俺は引退してスローライフだ。」
「やったぁ!」
勇者エミリアのパーティには不要と切り捨てられた俺だったが、捨てる神あれば拾う神ありと言ったところか。もうしばらく冒険者を続けてみるか。
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