追放戦士と義妹の魔法使い
「ちょっと待ったぁ!」
特徴的なとんがり帽子。それは魔法使いの少女だった。
「その声まさか……、モカか?」
「そうだよ、お兄ちゃん!」
俺とエミリアの間に割って入った少女は顔が見えるように被っている帽子を上げて、俺の方に向き直る。
それは紛れもなく俺の妹のモカだった。妹と言っても父が再婚した義母の娘なので義理の妹だ。
「モカ。お前、どうして冒険者ギルドなんかにいるんだ? それよりもその格好は?」
「もう! 私も十六歳になったんだよ。だから、冒険者になることにしたの!」
「なんだって!? 冒険者は危ないからダメだって父さんが言ってただろ。っていうか、まさか今までの話を全部聞いてたのか?」
「聞いてたよ。……お兄ちゃん最低だね。」
「ぐあああ!」
エミリアに断罪されるよりも、シエルに振られるよりも、妹のモカに嫌われることのダメージがこんなにも大きいとは……! 俺は立ち直れないかもしれない。
「でもね、お兄ちゃん、安心して。お兄ちゃんが追放になっても、私たちのパーティに入れてあげるから!」
「は?」
俺にそう言ったモカは、次にエミリアを真っ直ぐ見据えて言った。
「というわけでエミリアさん。お兄ちゃんは私たちのパーティがもらいます。追放でも何でもお好きにどうぞ。」
「モカちゃん……?」
なぜかモカは勝ち誇った顔でエミリアを見ていた。村にいた頃はよくエミリアと二人でモカの面倒を見ていたものだが、まさかモカがエミリアに対してそんな口をきくようになるとは……。エミリアは突然の想定外の人物の乱入に困惑気味になっている。
「さ、行こ。お兄ちゃん。」
「ま、待ちなさい、アレス! 今なら、私に謝ってシエルと別れれば追放しないであげるわ!」
「エミリア?」
正直俺は心が揺れた。謝ればエミリアとまだ冒険が出来るのか? 今や、シエルには振られたも同然だろう。それならば……。
いやしかし、俺にはもうひとつ疑念があった。それは俺自身の力が勇者パーティにふさわしくないのではないかという疑念。それを見透かしたかのように、賢者ユーリ様が言った。
「いや、勇者殿。こうなってはアレス君にはパーティを抜けてもらおう。」
「え、ユーリ様? 私はそこまで——」
賢者ユーリ様は年齢不詳の女性だった。聞くところによると、ユーリ様は時の砂の魔法で不老を実現しているらしい。
ユーリ様はエミリアを制して続ける。
「アレス君、君はよくわかっているはずだよ。既に我々のパーティについてこれていない。対してシエル君は巫女のサブジョブを授かってから急速にレベルを伸ばしている。上級ジョブの聖女にクラスチェンジも可能だろう。しかし君たちは別れてからもギクシャクしないと言えるかな? どちらを取るべきかは明らかだ。」
たしかに、俺はここのところのモンスターとの戦闘では足手まといになってしまっていた……。今エミリアたちと攻略中のBランクダンジョンの九階ボス、冥界騎士エグゾディアに手も足も出なかった。このダンジョンの九階はまだ中層である。
冒険者のジョブにはメインジョブとサブジョブがあった。俺のメインジョブは戦士。メインジョブは条件を満たせば上級ジョブにクラスチェンジすることが出来る。しかし、その条件とは、女神に与えられるサブジョブとの組み合わせで決まる。俺が戦士レベル30になった時に女神に与えられたサブジョブは生産職の付与師だった。俺は落胆した。サブジョブは変更できない。これで、上級ジョブの騎士になれないことは確定、戦士どまりだ。それでも俺は諦めないで戦士のレベルを上げてきた。今の俺の戦士のレベルは42だ。
ちなみに、シエルはメインジョブ神官45、サブジョブ巫女25。確かにシエルはちょうど俺と付き合い始めた頃からメキメキとレベルを上げていた。
「すまない、アレス君。我々も必死なのだ。勇者のサブジョブはレベルの上がりが遅い。レベル上げのためのダンジョン攻略。目標はAランクダンジョンの宝物だ。いつまでもBランクの中層でくすぶってはいられない。だがはっきり言って君のジョブでは下層には下りられないし、Aランクダンジョンにも入れないだろう。」
「……。」
だからって追放? 理由変わってないか?
しかし、ユーリ様の言うことはもっとも過ぎた。エミリアたちの目標は魔王討伐。上級ジョブになれない者など足手まといでしかない。
何も言い返せない俺をその場に残し、勇者エミリアと賢者ユーリ様は冒険者ギルドを後にした。
こうして俺は勇者パーティを追放となってしまったのである。
◇
「元気出してよ、お兄ちゃん。」
「はぁ……。」
冒険者ギルドの待合所のテーブルで俺はモカに慰められていた。
「ああ、シエル……。」
もうきっとシエルとも元の関係には戻れない。エミリアたちはすぐに別の戦闘職の前衛を見つけてダンジョンの下層に下りるだろう。そしてBランクを攻略して、次はAランクに挑戦するに違いない。今の俺にはAランクダンジョンには挑むことすらできない。……なんか涙が出てきた。
そんな俺の様子を見て、モカの隣に座っている少女たちが口々に言う。
「な、泣いてる?」
「え、大丈夫なのこの人? まあ、モカの言うとおりイケメンではあるけど……。」
「もう、お兄ちゃん! 友達の前で恥ずかしいから彼女に振られたくらいで泣かないでよ。」
大の男、しかもメインジョブ戦士の俺が、少女三人に囲まれて泣いている様は異様だっただろう。でも、なんとでも言うがいい。今の俺は泣きたいのだ。
「いっそ、メインジョブも生産職に転職するか……。」
俺が冒険者になったのはエミリアのためだ。それが追放となった今、冒険者を続けることは俺にとって無意味だった。
「え、待ってよ! 私のパーティに入る約束でしょ?」
「どうせ、俺なんて……。」
「いやいや、戦士レベル42でしょ。充分すごいし、今の私たちにはお兄ちゃんが必要なの。」
微妙な顔をしていたモカの横の少女たちも頷いた。
「と、とりあえず、私のパーティ『戦場に咲く一輪の花』のメンバーを紹介するね? どっちも私の学校の友達でマリアンヌとアミ。マリアンヌが剣士レベル9。アミがアイテム士レベル1だよ。」
「レベル1?」
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