闇落ち勇者と魔王の手下

「や、やめろ、エミリア!!」


 エミリアから伸びた影が俺の手足を縛り、俺の体を宙に持ちあげた。


「さて、どうしてやろう? この影であんたの四肢を引き裂こうか? いや、そんなの面白くない。ねえ、アレス。どうして欲しい?」

「エミリア、こんなことはやめるんだ! お前は勇者なんだぞ!」


 エミリアが黙って俺を睨み付ける。

 エミリアの横の影が大きくなって、人型を形作っていく。全身が青く頭に角がある男……。これが地下十四階のボス、魔王の手下の姿か!?

 だが、魔王の手下は沈黙を守っていた。


「驚いた? こいつはもう私の意のまま。乗っ取り返してやったの。そうだ。こいつにあんたのお尻を掘らせるのはどうかしら?」


 くっ。俺の尻だと?


「やめてくれ、エミリア!」

「……待って? あの時、シエルとのプレイでやっていたあれって、まさかそういうこと?」

「なっ……。」

「ああ、ダメだ、ダメだ……。それではアレスは喜んでしまう……。」


 おいおい、本当にシエルとのプレイをエミリアに全て見られていたのかよ。今更ながら恥ずかしすぎるぞ……。

 いや、こういう時こそ冷静になるんだ、俺……。俺にとって一番ダメージがでかいのはシエルたちのネトラレだ。それだけは絶対に悟らせないようにしなければ……。


「……ネトラレ? ネトラレって?」

「まさか……!」


 エミリア、俺の心を読んだのか? ま、まずい!


「何がまずいの? ネトラレって、私が魔王の手下にシエルたちを奪わせるってこと? ふふふ、アレス……。やっぱりあの女の子たちが大事なのね……。」


 くそぉ! エミリア、そんなのは勇者のすることじゃない! 正気に戻ってくれ!!


「エミリア! 聞いてくれ!! お前は俺の憧れだった。お前の強さに。気高さに。俺は心を奪われていた! お前は俺の全てだった! 元のエミリアに戻ってくれ!!」


 俺の心を覗けるなら、俺の気持ちが本心だとわかるはずだ!

 今の俺はエミリアを本気で想っている。エミリアがいなければ俺の存在に意味は無いんだ。

 俺はエミリアを恋愛対象に見ていないと思っていたが、それは俺が無意識に自分の気持ちに蓋をしていたのだ。目を背けていた。勝手に諦めていたんだ。

 届いてくれ、俺の気持ち! エミリア!!


「アレス、あんた……。今さら遅いのよ……。」

 

 エミリアは冷酷にそう言い捨てると、影を操ってシエルの体を引き寄せようとした。

 ダメか、エミリア……。

 しかし、シエルの体はエミリアに届けられる途中で空中にとどまった。


「アレス君、すまない……。また私の読みが外れたようだね……。せめて、シエル君たちは守らせてもらうよ……。」

「ユーリ様!」


 地面に伏したユーリ様が魔法でシエルを守ってくれたのだ。シエルの体が光に包まれている。同じようにモカたちも光の中にいた。


「ユーリ様、さすがね……。ネトラレもダメか……。」

「エミリア! 俺はどうなってもいい。みんなは開放してくれないか!?」

「……いや、そうか。そうだわ。」

「エミリア! 頼む!」

「アレス、あんた、私のことを好きってことよね?」


 俺はエミリアの問いに驚いた自分に驚いた。俺がエミリアのことを好き……。そうだ、そういうことなんだ。俺はずっとエミリアを好きだったんだ。きっと他の誰よりも……。


「そうなのね! ははは、私が一番なのね、アレス!!」

「エミリア……。隠すことじゃないから言う。そうだ。俺はエミリアのことが好きだったんだ……。きっと最初から。だから、お前のために全てを捧げて、お前のために強くなろうとして、お前のために冒険者になった。俺はお前のために生きてきた。」

「そう! だったら、アレス!! そこで見ていなさい! あんたの大切な私が、魔王の手下の手に堕ちるところを!!」

「は!?」


 エミリアは口元を覆っていた影を外すと、隣に立っていた魔王の手下の顔を引き寄せて、あろうことか魔王の手下とキスをしたのだった。


     ◇


 俺は何を見せられているんだ?

 魔王の手下とキスをして十数秒間、微動だにしないエミリア。

 息を止めているのか次第にエミリアの顔が赤くなっていく。


「ぷ、ぷはぁ! ど、どう!? アレス!? 効いた!?」

「あ、ああ……。」


 キスだけ……。俺が知る限りエミリアは処女だ。俺とシエルとのプレイを全て見ていたと言っていたが、発想がウブすぎる。


「あ、あんた、全然効いてないじゃない!! 私にもっと過激なことをやれっていうの!?」


 エミリアのやつ、また俺の心を読みやがったな。

 俺がイメージしていたネトラレとは最低限はあれをしたりこれをしたり、場合によってはあんなことまで……。エミリアが他の男に抱かれる姿を想像する。ああ、もしもエミリアのあれがあんなことになってしまったら、俺は……。


「ちょっと、アレス! 私の体で、なんてことを考えてるの! やめなさい、変態!!」

「無理だ、エミリア。俺はやっとエミリアを好きだと自覚できた。故に当然、エミリアにも欲情する。男は常に目の前の女で欲情しているものなのだ。」

「やめろ!」

「俺は今、たまらなくエミリアを抱きたい。」

「口に出して言うな! うぅ……、アレスの卑猥な想像で私の頭の中が浸食される……!」


 漆黒のドレスの下に隠されたエミリアの体を見たい。触れたい。この手で抱きたい。


「ア、アレス、最低!!」

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