第一部の完結とエピローグ

「うん、パパ!」


 すーっと目の前の小さなエミリアの姿がぼやけてくる。

 まさかこれは夢?


     ◇


「アレス、やっと起きたの? もう何やってんのよ?」

「アレスさん、おはようございます。」

「アレス君、ずいぶん長く寝ていたようだね。」


 エミリア、シエル、ユーリ様。俺を取り囲む勇者一行のみんな。

 ここはどこだ? ……わかったぞ。ここはBランクダンジョンから近い、エミリアたちとよく泊まっていた冒険者のための宿屋だ。

 懐かしいな。ダンジョンで怪我を負った時はまずここで休んで体力を回復してから家路についていた。

 俺を心配そうに見つめるエミリアの顔。以前と変わらない。まるであの頃に戻ったみたいだ。俺がエミリアに追放される前の……。



 俺は自分の体に起きた変化に気付いていた。

 俺から何か大きなものが消えてしまったような喪失感。

 俺の付与師のサブジョブが消えている……。

 おそらく、魔王の手下から奪った心を読むスキルと他人を操るスキルも無くなっているだろう。

 あの夢はそういうことだったのか。この国の女神が俺からジョブとスキルを取り上げたのだ。


「俺がバカなことを考えたせいだな……。」

「ん? どうしたの?」

「いや、なんでもないさ。」


 夢の中で会った自分の娘たちも幻だったことに少しの寂しさを感じていた。もう一度会えるなら会いたいが、今度は別の名前を付けることにしよう……。

 そういえば、モカたちはどこだ?


「ねえ、アレス。それよりBランクの攻略のことだけど。」

「Bランク?」


 Bランクは攻略したはずでは? いや、あれは正確には裏ダンジョンだったから、まだBランクを攻略したことにはなっていないのか?

 エミリアが決意を込めて言う。


「そうよ! 私たち四人で次こそは攻略するのよ!」

「四人で……。」


 俺は嫌な汗をかきはじめていた。女神はいったい俺からどこまで取り上げた?

 まさか今までのことが全部無かったことになったのか?

 モカは? アミは? マリアンヌは? クレアは?



「あ、おはよう。お兄ちゃん。」

「……モカ!」

「お兄ちゃん、また気を失っちゃうからビックリした。そしたら寝てるだけなんだもん。ほんとに驚かせないでよ。」


 モカの後ろからアミが顔を出す。


「アレスさん、お願いします。」

「え?」


 アミが「んっ」と言って俺に向けて両手を広げたので、俺はアミを抱きしめた。なんだ、これか。よかった。モカもアミも変わったところは無いようだ。

 続けてマリアンヌとクレアも部屋に入ってきて言った。


「先輩、約束忘れないでよ?」

「アレス様、既にアレス様からプロポーズを受けたことはお父様には報告済みですので。」

「ああ……。」

 

 結婚の話も無くなってはいないようだな……。

 俺はほっとして、はぁーと長い息を吐くとベッドに倒れて天井を見上げた。

 なんだかわからないが終わったのだという安堵感に満たされていた。

 だが、また明日からは新しい俺たちの冒険が始まるのだろう。


     ◇


「そっか。私たちのレベルが下がったのはそういうことだったんだね。」


 俺はモカたちに付与師のサブジョブが消えたことを伝えた。

 モカ、アミ、マリアンヌ、クレアのレベルは俺が寝ている間に、俺がスキルで付与する前の適正レベルに戻っていたらしい。俺の付与師のジョブが消えて付与の効果も失われたのだろう。

 だが、俺とエミリアのレベルはあの最終決戦の後に上がっていた。俺は戦士レベル65、エミリアは勇者レベル48。付与に使っていた俺のレベルが戻ったとしても、明らかに俺が持っていたレベルの総数と合わない。果たしてこれは女神の気まぐれか、それともエラーか。



 あれから一ヶ月。

 俺とエミリアはBランクダンジョンを攻略し、Aランクの秘宝を手に入れて、いよいよ魔王討伐の旅に出る。

 

「悪いな、モカ、アミ、マリアンヌ。お前たちのレベルでは俺たちについてこれない。もう付与のチートも無いからな。」

「うん。待ってる。お兄ちゃん。」

「必ず帰ってきてください、アレスさん。」

「先輩なら楽勝だよね?」


 ふっ。モカたち三人は強がってはいるが、俺と離れるのが寂しいのか目を赤くしている。昨夜あれだけ愛してやったのにな。

 

「アレス様、そろそろ……。」


 クレアが後ろから俺に声をかけた。クレアの旅の支度はバッチリだった。さすが王宮のバックアップが行き届いている。

 

「え? ちょっと待って。なんでクレアさんがそっち側にいるの?」

「ふふっ。私はエミリア殿にぜひパーティに入ってくれとスカウトされたのだ。」

「ええ!? クレアさんだけずるくない?」


 そう。上級ジョブの騎士であるクレアは重要な戦力になるとエミリアは考えたらしい。

 これでエミリアと魔王討伐に旅立つ勇者一行のパーティは、エミリア、俺、シエル、クレア、ユーリ様の五人になった。


「こうなったら、私たちもすぐに強くなってお兄ちゃんたちを追いかけるから!」

「今はカテリナさんに教えてもらってますから、すぐです! アレスさん!」

「私も上級ジョブ取って先輩より強くなるから期待しててよね!」


 おいおい。元気を取り戻してくれるのは嬉しいが、変に張り切られてもな……。


「お前ら……。大人しく俺の帰りを——」

「私は歓迎するわ!」

「おい、エミリア?」


 エミリアが俺を押しのけて、モカたちの手を取って言った。


「レベルが上がったらぜひ来て! モカちゃん!」

「はい! エミリアさん!」


 勇者のスキル、パーティメンバーから協力を得なければ使えないそれは、確かにモカたちも条件に合うだろうが……。


「エミリア。俺は反対だ。」

「なんなの、アレス。私に意見するわけ?」


 エミリアと俺は対峙してお互いに一歩も引かなかった。


「ああ、勇者様、アレスさん、また……。二人とも落ち着いてください!」


 シエルが俺とエミリアの間に入って仲を取り持つ。

 俺たちがこうやってケンカをするのは日常茶飯事だった。別に嫌い合ってるわけではない。これが俺たちの関係。俺が本音でぶつかれるのはエミリアだけだ。エミリアもそう。なぜなら、俺たちは幼なじみだからな。


「次の宿で決着つけるわよ、アレス。」

「ああ、望むところだ。ひぃひぃ言わせてやる。」

「なっ! ひぃ……って、変なこと言わないでよ!」


 まあ、多少の関係性の変化はあったがな。



 俺たちの様子を少し離れて見ていたユーリ様がぼそりと言った。


「はぁ……。今回こそは魔王城まで辿り着きたいものだが……。」






 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 カクヨムコンに応募する第一部はここまでです!

 お読みいただきありがとうございます!

 もしも第二部を書けたらまたよろしくお願いします!

 面白かったらフォローと評価をいただけると励みになります!



 第二部予告

 いよいよ魔王討伐に旅立ったアレスたち勇者一行。最初に訪れたのは隣国グレラム。グレラムのダンジョンで、グレラムの女神からアレスが与えられたサブジョブはテイマー? そして女勇者エミリアはアレスに再び追放を言い渡す!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼なじみの女勇者になぜか追放を言い渡されたんだが【連載版】 加藤ゆたか @yutaka_kato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ