なんか足りないなと思っていたので、エピソードを追加しました。
コンテストの文字数はもう気にしなくてもいいので。
『おじ神様とハナ』
https://kakuyomu.jp/works/16817330669629767366
以下追加エピソード分をこちらにも載せておきます。
◇
ハナがわしのところに来ていくらか経ったころ、わしのほこらにまたやってきたものがあった。
それは若い狐の夫婦じゃった。
狐は木の実をほこらに供えるとわしに願った。
「神様。どうか無事に出産できますように。」
「神様、産まれるこの子たちが健やかに育ちますように。どうかお願いします。」
よく見るとメスの狐は腹がふくれておった。
わしのほこらに来る者は人間だけではない。山で暮らす動物たちもやってきてわしに願う。
……しかし、またこの願いかの。人間の願いにも多いのじゃ。
正直、わしの力の性質でどうにかなるものではないのじゃが……。
じゃが、何もしないというのものう……。
狐の夫婦が帰ったあと、わしはハナに聞いた。
「ハナ。人間は子どもが出来たら何をするのじゃ?」
「子どもが出来たら……? やだ……おじ神様。……子作りしないよ?」
「わ、わかっておる。わかっておるよ! ……純粋に聞いてみたくなっただけじゃ。」
むむむ。わしはまだハナに子作りを拒否されているのを忘れておった。
そういう意味で聞いたのではない。
ただ狐の夫婦に何かできることはないかと、人間の知恵を借りようと思っただけじゃったのに……。
「うーん。おじ神様、何か事情があるの?」
「そうじゃ。実は先ほどわしのほこらに狐の夫婦が見えての。」
「そういうこと? 私もよくは知らないけれど、栄養を取って安静にしてたりするんじゃないかな?」
「ふむ。栄養かの。それならわしでも何とかできるかもしれんの。」
草木を実らせるのならわしでも出来る。
さっそく狐の夫婦のところに行ってみるかの。わしはこの山に住む者の居場所はすぐわかるのじゃ。
「待って。おじ神様。私も行ってみたい。」
「んん?」
「見てみたいの。子どもが生まれるとこ。」
「そうかの? じゃが、ハナ。この場所から出る時には姿を変えねばならぬぞ?」
「うん。わかった。」
わしはハナに精霊が作った衣装を身に纏わせた。
たちまちハナの姿が一輪の野草に変わる。
「まあ、こんなものかの。わしが運んでやるぞい。」
「え? 私今、何になってるの?」
「花じゃ。ハナが花にの。洒落がきいとるじゃろ。」
「ええ? 自分で動けないじゃん。」
「そりゃそうじゃ。」
自由に外に出られるようになってハナに逃げられては困るからの。
さて、それでは行くかの。
狐の夫婦が住む洞穴の周囲は食べ物が豊富とは言えん状況じゃった。
これでは不安になってわしのところにも願いに来るか。
わしは周辺の草木に働きかけて木の実を豊富に作らせた。
これで狐の夫婦は木の実を食べたいだけ食べてもよいし、木の実につられてやってきた生き物を獲ってもよい。
わしにしてやれるのはここまでじゃな。
「すごい。おじ神様って本当に神様だったんだね。」
「なんじゃって? 今までなんじゃと思ってたんじゃ?」
「ただのおじさ……ううん。神様なのはわかってたけど、本当に願いごとを叶えているんだ、って目の前で見たから驚いたの。」
「そうじゃろ。わしのすごさがわかったかの、ハナ?」
「うん、おじ神様。……あっ。」
ハナが何かに気づき声をあげた。
見ると、ちょうど狐の夫婦の出産が始まるところじゃった。
妊婦じゃったメスの狐が苦しそうに息をしておる。
「ちょうど産まれるところじゃったか。」
「ねえ、おじ神様。私、もう少しここで見ていたい。」
「……ふむ。しょうがないの。」
ハナが心からそうしたいと願うなら、わしは無理に連れ帰ることはできんのじゃ。
そうしてわしたちはしばらくの間、狐の出産の様子を見守った。
「あっ! 顔を出してる! 産まれたよ、おじ神様!」
狐のメスの腹の下からひょこひょこと産まれたばかりの子どもたちが顔を出した。
狐の夫婦が子どもたちの顔をペロペロとしきりに舐めておる。
「無事に産まれたようじゃな。」
「わあ、赤ちゃんだ……。」
「そうじゃな。」
これでわしも充分に役目を果たしたことになるじゃろ。
さて、今度こそ帰るとするかの。
「……可愛いなあ……。私もいつか……。」
「ハナ。そろそろいいかの?」
「え!? いいって!? おじ神様! な、何が?」
「んん? そろそろ帰らんかの?」
「あ……うん。そうだね……。帰ろうか。」
ハナはまだ狐の子たちを見ていたそうにしておったが、さすがに疲れたのか帰り道は静かじゃった。
そういえば、ハナは人間じゃから狐と同じように腹から子を産むのじゃな……。
わし、カエルじゃったからな。腹から子が出る仕組みがよくわからん。
それもいつかハナに聞いてみないとの。