チート付与と女神のしわざ

「ああ、そうだな! みんな帰ろう!」

 

 地上に帰ったら、まあ、結婚は置いておいて、エミリアは俺をパーティに復帰させると言ってくれた。

 レベル付与でエミリアのレベルを底上げすればAランクもすぐ攻略できるだろう。そうなれば次は魔王討伐の旅立ちだ。

 俺は転送ゲートに入って地上に戻っていくモカたちを眺める。

 当然、魔王討伐にモカたちを連れて行くことは出来ない。危険すぎる旅だ。



 とは言っても、このスキルさえあれば、俺はいくらでもモンスターからレベルを奪って味方に付与できる。経験値稼ぎどころじゃない。あっという間に全員がレベル99の最強の軍団を作り上げることができる。魔王討伐なんて楽勝だ。

 さらに、俺が気に入らない奴からレベルを取り上げて、気に入った奴にレベルを付与したらどうだ? 俺が世界を意のままに操ることだって出来るだろ! ハハハ! こんなのチート中のチートじゃないか!

 

「お父さん、起きた?」


 ふいに白い光に包まれて俺は眩しくて目を開けた。

 俺は木造の家の中にいた。

 この家……そうだ、俺はモカたちと結婚してスローライフをこの家で始めたのだ。

 だんだん思い出してきた。

 小さな女の子が俺の手を取って言う。

 

「お母さんがお父さんを起こしてきてって。」

 

 女の子は黒い髪をツインテールに結んでいる。この面影は……。

 

「お兄ちゃん、ねぼすけなのは相変わらずなんだから。」

「モカ。」

 

 エプロンをつけて少し大人びたモカがキッチンから顔を出した。

 

「エミリアに起こしにいってもらったんだよ。」

「……エミリア?」

「なあに、お父さん?」


 俺がエミリアの名前を呼ぶと、その幼い女の子が返事をした。まさか……。


「エミリア?」

「そうだよ?」


 再びその女の子が不思議そうな顔で返事をする。


「お兄ちゃん、自分の娘の名前を忘れちゃったの?」

「え?」


 俺の娘? この子が?

 また別の背の小さな女性が、小さな女の子を連れて部屋に入ってきた。


「あ、アレスさん。おはようございます。」

「アミ?」

「そうですけど、どうしたんですか?」


 やはり大人になっていたがそれは確かにアミだった。

 アミにくっついていた小さな女の子が、俺に走り寄ってくる。


「お父さん、おはようございます。」

「お、おはよう。」

「ふふふ、エミリアったら、ちゃんと挨拶できたね。」

「エミリア? この子も?」

「そうですよ、アレスさん?」


 たったったと子供の走る足音が近づいてきて、扉がいきおいよく開いた。


「パパ!」

「こら、エミリア! 走るなって!」


 扉を開けて入ってきた小さな女の子と、その後ろを追いかけてきたのは髪を短く切っていたが間違いなくマリアンヌだった。


「あ、先輩。おはよう。」

「ああ……、おはよう……。」


 このマリアンヌの子の名前もエミリア?


「お父さん! 起きたの? みんなで朝ご飯だよ! お母さんも待ってるよ! 一緒にお祈りしましょ!」

「お父様。このエミリアがお皿を並べました。褒めてください。」


 また金髪の女の子が二人、部屋に入ってくる。この二人はシエルとクレアによく似ていた。


「もしかして、みんなエミリアなのか?」

「そうだよ? お父さんが私たちの名前をつけたんだよ。エミリアって。」


 いつの間にか、大人になったモカもアミもマリアンヌも部屋からいなくなっている。

 五人の小さなエミリアだけが並んで不思議そうに俺のことを見ていた。


「……エミリアは? エミリアはいないのか?」

「いるよ? ここにみんな。」


 いや、そうじゃなくて。あのエミリアは? 俺の幼なじみの。


「お父さん。そんなことより一緒に遊ぼ? そこにしゃがんで。目を瞑ってね。」

「いくよ。」


 なぜか俺は娘たちに言われたとおりにしゃがんで目を瞑っていた。

 五人のエミリアが手をつないで輪を作り、俺の周りをぐるぐると回り出す。

 

「かーごめ、かーごめ。」

「かーごのなかのとーりーはー。」

「いーつ、いーつ、でーやある?」

「よあけのばんにー。」

「つーるとかーめがーすーべったー。」

「うしろのしょーめん。」

「だあれ?」


 俺の周りを回り終わった五人のエミリアは、無言で俺の答えを待っていた。

 

「……エ、エミリア?」

「当たり! さすがお父さん!」


 ハハ……ハハハ……。何だこれ?

 部屋は消えて、白い空間で俺を囲む五人のエミリア。

 五人は俺に手のひらを向けて順番に言う。


「ねえ、お父さん。お願いがあるの。」

「お願い?」

「お父さん。私、欲しいものがあるんです。」

「欲しいもの?」

「パパ。私に貸して。」

「貸す?」

「お父さん。私に渡して!」

「渡す?」

「お父様。返してほしいんです。」

「返す?」

「それ……。」

「それ?」

「うん。それ。」


 五人のエミリアは俺を指差した。

 俺の手の上には三つの玉が乗せられていた。


「どれのことだ?」

「どれだと思う?」


 俺は俺の手の中で一番大きな玉をエミリアに渡した。


「それにするのね、お父さん。」

「他のはどうしますか、お父さん。」

「他の……?」


 他の二つは何だか良くないもののような気がして、娘たちに渡すのは気が引けたのだ。


「パパ。それ、私に貸して!」


 エミリアが俺の手から無理に二つの玉を取ろうとしたので、俺は地面に落としてしまった。

 二つの玉は割れた。割れた玉は地面に溶けるように消える。


「あーあ。エミリア! ダメじゃないの!」

「エミリア……、お父様にもしものことがあったらどうするんですか?」

「ごめんなさい……。」


 俺は泣きそうになっているエミリアに目線を合わせて頭を撫でた。


「いいんだ、気にするなエミリア。それより怪我はなかったか?」

「うん、パパ!」

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