義妹の魔法使いのパーティに入ることになったら
指導役戦士とEランクダンジョン
「モカ。本当にあの男とはなんでもないんだな?」
「しつこいよ、お兄ちゃん。何にもないって。」
「元彼とか。」
「違うってば! ディアンはただのクラスメート!」
「そ、そうか……。」
俺はさっそくモカたちのパーティの連携を見るためにEランクダンジョンに三人を連れてきていた。その道中で、俺はついモカに気になっていたことを聞いてしまったのだ。
義理とはいえ、小さい頃から可愛がってきた妹だ。いつか彼氏が出来ることは受け入れなければならないとわかっていたが、相手は俺が認めた男でなければと思っていた。冒険者になる男にロクな奴はいない。あいつは絶対にダメだ!
「大丈夫だよ、モカの兄さん。モカは彼氏できたことないもんなー?」
「ちょっと、マリアンヌ!? そんなこと言わなくていいから!」
「でも、本当にモカちゃんは、口を開けばお兄さんのことばっかりで……。」
「あー! ああー! アミ! それ以上言うな!」
「でも、モカってば、お兄ちゃんよりもカッコいい人はいないって、いつもいつも——」
「だ、だめー!!」
「う、もごご! こら! は、離せ、モカ! 息できな……!!」
「絶対に言うな!!」
モカがマリアンヌの口を押さえ、マリアンヌが苦しみ、アミがその横でオロオロとしている。まさか女子三人のパーティって、ずっとこんな感じか? 図らずも同じ性別構成だったエミリアのパーティは大人だったな……。
「はぁ……。これからモンスターと戦いに行くんだぞ。緊張感がなさ過ぎる……。」
それを聞いたモカとマリアンヌが言った。
「つっても、Eランクダンジョンでしょ。それも一階。楽勝じゃん。」
「お兄ちゃん。いくら私たちだって、地下三階までは下りたことあるんだよ? スライムなんか魔法で一発なんだから。」
このガキンチョども、この俺にいっちょ前に口答えとは生意気な。
「いやいや、アミはそうは思ってないようだぞ?」
俺に指摘されて、アミがびくりと体を震わせる。
俺はアミが戦いと聞いたとたんにガチガチに緊張しはじめたのを見逃さなかった。そりゃそうだろ。まだアミだけレベル1なんだから。
アミはマリアンヌとモカとのレベル差がつき過ぎている。だが、どうしてこうなったかは想像がついた。大方、モカとマリアンヌがモンスターを倒してしまいアミに経験値が入らないようになっているのだ。それで階層だけ進んでしまい、余計にアミがモンスターを倒せない。
「まずはアミのレベル上げだ。それに二人とも付き合ってもらうぞ。しばらくは一階から下には下りない。」
「えー?」
「文句言うな。俺の指導は絶対! 命にかかわることもあるんだぞ!?」
「……はーい。」
まったく、仲がいいんだか何なんだか。どうして今までアミのレベルを上げてやろうと思わなかったんだ?
その理由はすぐにわかった。
◇
ナイフを構えてスライムと対峙するアミ。
俺はモカとマリアンヌには待機を命じている。
「よし、今だ、行け!」
「えいやぁ!」
スライムに斬りかかるアミ。だが、アミのナイフはスライムの数歩も手前で振られる。当然、スライムには当たらない。
「ぐあっ!」
スライムの反撃を受けてアミは転び、後頭部を強打してしまった。
これは……あまりにも……。
「どんくさいな。」
「ひ、酷いです……。」
アミが涙目で振り向いて俺に抗議の目を向ける。
しまった。つい口に出してしまった。
アミを倒したスライムはその場を去ろうとしたが、別の初心者パーティの戦士に仕留められていた。スライム倒して「やったぞ」なんて微笑ましいな。俺にもあんな頃があっただろうか。
Eランクダンジョンの一階は初心者パーティで溢れかえっていた。スライム一匹でも争奪戦である。こんなに冒険者志望の奴が増えているとは知らなかった。そりゃ、さっさと下の階に下りたくなるよな。
「ちょっと作戦会議するか……。」
アミのジョブはアイテム士。補助職だ。本来は戦うよりも仲間の怪我や体力をポーションなどのアイテムを使って回復する役だ。戦闘が苦手でもダメとは言えない。戦闘でパーティの役に立てればそれも経験値になるはずだ。
「アミにはポーションを使った回復役をやってもらう。」
「……うぅ……。」
アミがまた泣きそうな顔をしたので俺は驚いた。ポーション使わないで何のためのアイテム士だよ?
「あー、アミは今ポーション持ってないよ……。」
「え?」
モカが気まずそうに言った。アミがぼそりぼそりと答える。
「だって、ポーション……高くて……補充できなくて……。うち、貧乏だから……。」
「はぁ?」
アイテム士がアイテム買えなくて務まるわけないだろ!
って、この子に怒ってもしょうがないよなぁ……。俺はこいつらを一人前にするって約束してしまったし……。
「……わかった。ポーションは俺が買ってやるから。」
アミが一人前になるまでにいくらかかるんだよ……。俺のスローライフのための資金なのに……。俺だってもう高ランクダンジョンには潜れないんだぞ?
いや、これは投資だ。こいつらが一人前になって一緒にCランクダンジョンを踏破できれば、そこそこの稼ぎになるはずだ。それを退職金代わりにして引退だ。よし、それで行こう!
「よし、お前ら! ついでに皮の鎧も買ってやろう。そんなヒラヒラの服でこの先のモンスターは倒せないぞ!」
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