足手まとい戦士と最強バーサーカー
「さあ、参ろうか。」
余裕の表情でBランクダンジョンに足を踏み入れるギルドマスターとカテリナさん。俺は背負う荷物の紐を握り締める手に力が入る。
「地下五階までのマップは完成済み。エミリア君たちは地下十一階より下に進められていないと報告を受けているが、十一階から十三階は他のチームに任せてある。私たちは地下十四階のマップ作成から始めよう。」
下層に下りることになると覚悟はしていたが、地下十四階! 推奨レベルは49だ! ちなみにBランクダンジョンは地下十五階まである。戦士レベル42までしか上げることが出来なかった俺にはBランクダンジョン下層は未知の領域だった。
「ぐおおお……。」
地下九階。俺の目の前で、九階ボスの冥界騎士エグゾディアが塵となり消え去ろうとしていた。カテリナさんが剣で数回斬りつけたかと思うと、ギルドマスターがその大剣を構えてスキル攻撃を放つ。それであっけなくエグゾディアは崩れ落ちた。
俺たちは各階のボスモンスターを倒しながら地下十四階を目指していたが、ほぼ素通りといっても過言ではない進み方だった。ここまで俺は何もしていない。
「強い……。」
「ふふふ、ありがとう。アレスさん。」
カテリナさんが俺に笑いかける。その体には傷ひとつ付いていないどころか、汗すらかいていない。
彼らがエミリアのパーティに入ってくれればどれだけ心強いものかと思うが、残念ながらエミリアとはレベルが離れすぎている。
勇者のスキルの弊害だ。エミリアはあくまで自分と同等レベルの強さの仲間とパーティを組まなければならない。そうしなければ勇者のスキルによる魔王討伐はできないのだ。しかし、ふと嫌な想像が俺の脳裏をよぎった。まさか、エミリアも失敗してしまうのではないか? 先代勇者のように……。
「アレス君、大丈夫かね? 疲れたかな?」
「いえ、ギルドマスター。俺は大丈夫です。……ここまで戦闘に参加すらできていないので。」
「はっはっは。それはすまなかった。急ぎ足で来たからね。それももう少しだ。」
「もう少し……。」
「ふふふ。地下十四階についたらお昼にしましょう。私、お弁当作ってきたから。」
これから先は更に険しい道になるというのに、もう少し? お昼だって? ギルドマスターとカテリナさんの笑顔が怖い。俺も二人に合わせて笑顔を作ってはいたが内心ではビビっていた。
しかし、ギルドマスターが言ったとおり、二人は地下十階から地下十三階も難なく突破して、俺たちは一時間もしないうちに地下十四階に到達したのだった。
◇
「ここからは慎重に行こう。なるべく全ての道を通る。トラップにも注意だ。」
「はい。」
ここがダンジョンの中なのか?
地下十四階はまるで地上のように草木が生い茂り、まるで森の中。天井が空のように明るかった。だが、確かに道が存在する。この道の先には地下十四階のボスモンスターが待ち構えていて、地下十五階に下りる階段があるはず……。
ギルドマスターとカテリナさんの強さはこの階でも圧倒的だった。
草むらや木々の上から襲いかかってくるモンスターたちを、ギルドマスターとカテリナさんは雑魚のようにあしらって進んでいく。足手まといでしかない俺は、ひたすら周囲の観察とマッピングに集中した。
「ふむ。分かれ道か。」
「どうしましょう?」
「今回の目的はあくまで全エリアの探索だからね。どちらも進むというのが答えだが、ボスモンスターに辿り着く『正解』を引いてしまうと面倒だね。ここは二手に分かれようか。」
「はい、ギルドマスター。それではアレスさんは私と一緒に右の道に。」
「わかりました。カテリナさん。」
「では、行き止まりになったらここまで戻り待ち合わせとしよう。」
俺はカテリナさんと右の道へ。ギルドマスターは一人で左の道へと進んだ。ギルドマスターはあの強さなら一人でも楽勝でBランクダンジョンを攻略できる。心配する方が失礼だろう。
カテリナさんも俺の助けなど借りずに、二刀流を操って一人でモンスターを狩って進んでいく。俺、なんでついてきたんだろうな、これ……。
モンスター狩りに飽きたのかカテリナさんが俺に話を振ってきた。
「そういえば、アレスさん。冒険者ギルドでは冒険者のレベルの上昇時期とダンジョンの進行度の統計を取っているんです。」
「ええ、知ってます。」
それがダンジョンの各階における推奨レベルの提示の根拠となっているのは有名だった。
「ほとんどのパーティはその統計から外れることはないのですが、勇者エミリアさんのパーティはある時から乖離が目立つようになりました。」
「乖離?」
「アレスさんとシエルさんのお二人です。Bランクの地下九階を攻略したあたりから……。何か心当たりはありませんか?」
「心当たり……。」
もちろんあった。俺とシエルが付き合いだした頃だ。そのせいで俺の付与師のスキル『愛の付与』の効果でシエルのレベルが急激に上昇した……。
「あるんですね?」
俺の方に振り向いたカテリナさんの目が鋭く光る。ごまかすことはできないだろう……。だが、俺のスキルのことが冒険者ギルドに知られたらどうなるんだ? 発動に条件はあるが、他人のレベルを上げることが出来るスキル。冒険者ギルドがそのまま放っておいてくれるとは思えない。
「心当たりはあります……。でも今は言えません。」
「言えないんですか……?」
せめてモカたちを育て上げるまでは。
もちろんこんなスキルを使って上げたレベルなんてチートだが、冒険者としての強さに偽りはない。モカたちは確実に成長している。
モカたちが俺の手を離れた後ならば俺はどうなってもいい。たとえ冒険者ギルドの奴隷になろうとも……。
「話せる日がいつか来る、と?」
「はい。女神に誓って。」
女神がどういうつもりで俺にこんなスキルを授けたか知らないが、使い方は俺に決めさせてもらう。
「……ところで、ちょっとこのフロア、暑くないですか?」
「え? そうですか?」
「ちょっと脱いじゃおっかなぁ、なんて思ったり。」
「カテリナさん?」
「アレスさんも、暑かったら脱いでもいいんですよ?」
「いや、あの……。」
目の前でスルスルと服を脱ぎだし、暑いからなんて理由で脱ぐのは不自然なくらいまでカテリナさんは肌を露出させた。カテリナさんの形のよい丸い乳房が俺の目に飛び込んでくる。
カテリナさんは俺の手を取ると、その柔らかい膨らみに俺の手のひらを押し当てた。
「待ってください、カテリナさん! ここ、ダンジョンの中ですよ!?」
「大丈夫ですよ。この辺のモンスターは私が全部倒しましたから。安全です。」
この人、俺のスキルに気付いてるわけじゃないよな? 今ここでカテリナさんとやったら確実にバレる。
「アレスさん、特別にレベルの件は黙っていてあげますよ。その代わり……。」
俺はカテリナさんに押し倒される形になってそのまま組み敷かれた。抵抗できない。ペロリとカテリナさんが舌で自分の唇を舐める。万事休すか……!
「何をやってるんだね……君たちは?」
「ギ、ギルドマスター……!」
間一髪、俺はギルドマスターに助けられた。
「どうしてここに?」
「いや、私は道を真っ直ぐ進んでいたら君たちに遭遇したのだよ。どうやら道は繋がっていたらしいね。いや、しかし、若いっていうのは、なんというか……。」
ギルドマスターは呆れたという顔で俺たちを見る。今回ばかりは俺のせいじゃないのだが。
「チャンスだと思ったのに……。」
服を着たカテリナさんが残念そうにそう呟いた。
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