友達の兄と年下の彼女
「よし。今日からクエストを受けるぞ。」
実は俺は既にいくつか見繕っていた。ランクDダンジョンの上層にいるモンスターからドロップするアイテムの収集。レベル上げのついでに達成できるクエストだ。
「お前たちに受けてもらうクエストはこれだ。」
俺は用意していたクエストを三人に見せた。毒芋虫の討伐とドロップアイテム『毒毛針』を三十個集めること。
「えー? 毒?」
「ちょっと、先輩。これは引くんだけど。」
「アレスさん……。私もこれは……。」
三人が露骨に嫌な顔をする。まあ、そうなるよな。これは想定内の反応だ。
「いいか、お前たち。人が嫌がるクエストは競争率が低い。しかし、報酬も高い。毒芋虫はDランクダンジョンの地下一階に生息する比較的倒しやすいモンスターだ。これはコスパの良いクエストなんだぞ。もちろん、クエストの達成には俺も手を貸してやるつもりだ。」
「そうは言われても……。」
「つべこべ言うな。俺の言うことは絶対。」
「……はーい。」
よしよし。いつもの調子が戻ってきたな。
Dランクダンジョンは地下7階まである。Dランクダンジョン攻略の推奨レベルは18だ。モカたちのレベルはまだ全然低い。こいつらのペースなら半年はかかるだろうが、ここは焦らずにレベル上げをしながら進んでいけばいい。
こうやって俺たちはクエストをこなして金を稼ぎつつ、モンスター討伐でレベル上げを進めていった。
◇
「あの……アレスさん。」
「ん? どうした、アミ?」
クエストも順調に達成していって金に余裕が出来たので、明日は休みと決めていた。
「明日なんですけど。」
「ああ。」
「私、暇です。」
「そうか、俺も……。」
そういや、俺も何もすることは決めてなかったな。……はっ、そこで俺は気付いた。もしや、アミはデートに誘われたいと思っているのか? そういえば忘れかけていたが、俺はアミと付き合うことになったんだった。
「あー。アミ……。」
「はい!」
「どこか、遊びにいくか?」
「はい!!」
少し離れたところから、モカとマリアンヌが、じとーっとした目で俺たちを見つめていた。なんだよ、そんな目で見るなよ……。お前たちがアミを止めなかったから、こうなってるんだぞ。
◇
休日。俺はアミの買い物に付き合う約束をしていた。クエストのおかげで収入が増えて、アミは自由に出来る金が増えたらしい。そういや、家が貧乏だって言ってたっけ。
「こんなにたくさん買い物が出来るなんて夢みたいです。」
「そうなんだな。」
「洋服に、靴に、可愛い小物。どうです? これ似合いますか?」
アミは商店が建ち並ぶ大通りで、買ったばかりでさっそく着替えたワンピースの裾をつまんで広げてみせて俺に聞いた。
「ああ、可愛いよ。」
それは本心から出た言葉だ。実際にアミは可愛いと思う。っていうか気付くと今までも何度か口に出していた。でもそれは、どちらかというと小動物的な。
アミが俺に近寄ってきて頭を差し出す。俺はいつものようにアミの丸い頭をよしよしと撫でた。アミは満足そうに笑う。
それから俺たちは適当に歩きながら、いろんな話をした。
「私の家は貧乏で、私が稼がなければいけなくて。でも、アレスさんのおかげで冒険者になれて、今はこんなに稼げてる。」
「アミが頑張ってるからだ。」
「あ、もちろん、アレスさんのこと、尊敬してて。アレスさんは強くて、逞しくて、優しくて、頼りになって……すごい好きで。だから、付き合えたのも夢みたいで。」
「そうか……。」
「あ、あの……アレスさん!」
「なんだ、アミ?」
「こっちの方って、あれ……ですよね……?」
「ん?」
気付くと俺たちは町の外れ、連れ込み宿が立ち並ぶ一角に来ていた。この町はダンジョンに隣接したダンジョンで成り立っている町だ。冒険者たちが多く立ち寄り生活していて、当然そんな冒険者の相手をする女たちを紹介する店も存在する。ここはそういうエリアだった。
「あ、いや、その……これは間違いだ。引き返そう。」
「待ってください、アレスさん。」
アミが俺の服の袖を引っ張って俺を引き留めた。
「私の家は貧乏で、もしも冒険者になれなかったら、もしかしたら私もこういうところで働かなくちゃいけなかったかもしれなくて……。」
「アミ……。」
「アレスさんは、こういうお店を使ったことあるんですよね?」
それは当然ある。冒険者の若い男だったら憧れの場所だ。初めて大きな収入が入った時は真っ先にここで使うことを考えた。もちろんエミリアたちには隠れて通っていたし、シエルと付き合ってからは来なかった。実は、追放されてモカたちのパーティに入ってからも数回来ている。
アミの真っ直ぐな目で見つめられると、一気に後ろめたい気持ちになるな……。
「いいんです。アレスさんも男の人だから。私もわからない歳じゃないです。」
アミが俺の腕を引き寄せる。アミの着ている薄手のワンピースが、アミの胸の形をそのまま俺の腕に押しつける。
「でも、今は私が彼女だから。もしも、アレスさんが我慢できなくなった時は、私がいますから。」
「アミ、お前……。」
「アレスさん。どうか……私の初めてをもらってください。」
俺の腕にアミの心臓の鼓動が伝わってくる。アミは頬を染め、精一杯の勇気を振り絞っている。俺にはアミをこのまま帰すことはできなかった。
こいつ、こんなに可愛かったっけ? 小動物じゃない。俺は今、アミを女として意識してる。めちゃくちゃにしたい気持ちが抑えられない。
「アミ、本当にいいんだな?」
「……はい。」
俺はアミの肩を抱いて宿に入った。
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