よくわからないけれど彼女ができたみたいです

勘違い戦士とアイテム士の告白

 早朝からコソコソと酒場を出てマリアンヌと別れ、俺は自分の部屋に戻ると、水を飲みまたベッドに倒れ込んだ。

 やってしまった。

 マリアンヌは忘れろと言っていたが……、果たして俺はこれから普段通りに接することが出来るだろうか?

 今日一日休みにしておいてよかった。ゆっくり頭を冷やすんだ、俺。



 ……コンコン。

 と、誰かがノックする音で俺は目を覚ました。

 いつの間にか寝てしまっていたのか。時刻はまだ正午をまわったあたり。


「あー?」


 俺は頭をかきながら部屋のドアを開けた。


「アレスさん、大丈夫ですか? 頭痛いですか?」

「え!? アミ?」


 俺はその意外な訪問者に一瞬ドキリとした。まさか、今朝のことがバレたわけじゃないよな? っていうか、なんで俺の部屋を知ってるんだよ?

 アミの後ろからモカが顔を出して言う。

 

「昨日、随分飲んでたもんね……。」

「モ、モカ?」


 なんで、モカまで?


「……。」


 よく見ると、二人の後ろにマリアンヌも気まずそうな顔で立っている。

 俺がマリアンヌに視線をやると、マリアンヌはモカとアミに気付かれないように無言で首を横に振った。……よかった、二人にバレたわけではないみたいだ。


「今日は休みだろ。なんでお前たち、ここに?」


 なるべく平静に、いつものように話す。


「それは……。だって、アミが……その……急に……。」


 なんだか今日のモカは歯切れが悪い。

 

「アレスさん! あの……私……!」


 アミがずいっと一歩、前に出る。

 マリアンヌは不自然なほど何も言葉を発しない。

 なぜか緊張しているアミと、落ち着きのないモカ。無言のマリアンヌ。このなんとも言えない空気。なんだ?


「もしかして、俺のこと心配して来てくれたのか。それなら、ありがとな。……でも、大丈夫だから。今日はせっかく休みなんだから、みんなゆっくり休めよな。俺も休むから。」


 沈黙。

 急にアミが俺の服を掴む。

 

「ア、アレスさん! あの……私……!」

「どうした? アミ?」


 アミは深呼吸をした後、叫ぶように言った。


「ア、アレスさん! 好きです! 私と付き合ってください!!」

「はぁ!?」

「どうしても、我慢できなくなって! 今日はモカちゃんとマリアンヌちゃんに、一緒に来てもらって! 二人には前から相談してて!」


 堰を切ったみたいに続けるアミ。俺の服を掴んだその手は震えていた。

 俺はモカを見た。モカは真剣な顔で俺の出す答えを待ち構えている風だった。俺はマリアンヌの方も見た。マリアンヌは手を横に振って自分は関係ないというアピールをしている。

 アミが俺のことを好きだって? 全然気付かなかった。

 いや、それよりも、これはどう対応するのが正解なんだ?

 アミは真面目だし、思い込んだら一直線というところがある。もしも俺がアミを振ってしまったら、アミはパーティを抜けると言い出すかもしれない。いや、冒険者もやめてしまう可能性が高い。

 では、俺がアミとの交際を了承したら? アミはモカとマリアンヌに事前に相談していたと言っていた。今朝、マリアンヌがアミには絶対に言うなと言っていたのはアミの気持ちを知っていたからだったのだ。

 ということは、モカもマリアンヌも、アミの気持ちを応援している立場ということだろう。三人のパーティを崩壊させず、彼女たちの友情を崩さず、この場を丸く収めるには了承するしかない。


「お前の気持ちはわかった、アミ。付き合おう。」

「ほ、本当ですか、アレスさん! 私、嬉しい!!」

「ええ? お兄ちゃん!?」


 俺は勢いよく抱きついてきたアミをなんとか受け止めた。

 なぜかモカが肩を落としていた気がするが、俺はアミに抱きつかれてバランスを崩しかけてそれどころではなかった。二日酔いの体には辛すぎる。



「それじゃ、また明日。アレスさん。ふふふ。」

「ああ、また明日な……。」


 幸せいっぱいといった笑顔のアミと、その後ろのモカとマリアンヌの表情が対照的だった。

 あれ? これで正解だったよな?


     ◇


 翌日、俺たちは冒険者ギルド受付で待ち合わせていた。

 それはもちろんDランクダンジョン探索の手続きをするためと、クエストの受注のためだ。冒険者はEランクダンジョンを攻略すると、冒険者ギルドが仲介するクエストを受ける資格を得るのだ。

 クエストはダンジョンにまつわるものから、まったく関係無い近隣の村の警備、旅ゆく商人たちの護衛、モンスターの討伐など様々だった。

 できることなら、これから探索するダンジョンに関係するクエストを受注したい。クエストは金になるが、そればかりに囚われているとダンジョンの攻略が疎かになってしまう。その点、ダンジョンに関するクエストの受注なら一石二鳥と言うわけである。



「アレスさーん!」


 アミが俺を見つけるなり駆け寄ってきたが、あと一歩というところで立ち止まった。


「本当は抱きつきたい。ですけど。ここはギルドなので我慢します。」

「ああ。そうしてくれると助かる……。」


 アミは気遣いのできる子だ。俺も出来るだけいつも通りでいよう。もしかしたらそのうちアミの気が変わって、自然消滅するかもしれないしな。


「ごめん、お兄ちゃん。」

「いやぁ、みんな待った?」

 

 遅れてやってきたモカとマリアンヌも、もういつもどおりのように見える。

 昨日はどうなるかと思ったが、これならなんとかなりそうだ。


「よし。今日からクエストを受けるぞ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る