落第付与師と賢者様
あの日からのアミの活躍は目覚ましかった。
今日のクエストは暴れウサギの毛皮集めだ。モカが魔法で暴れウサギを追い詰めたところを俺とマリナンヌとアミが剣で仕留めていく。
アミは後方での支援だけでなく、格下の相手には武器を使って戦闘にも参加するようになっていた。それもあってかレベルも上がっていき、ついにはマリアンヌを抜いた。
「よし、これで十匹!」
マリアンヌが最後の一匹を倒し、クエストは終了だ。
ドロップした暴れウサギの毛皮を袋に詰める。これだけ集めるとなかなかの重量だ。これは俺が持つとするか。
袋を抱えようとしている俺のところにモカがやってきて言った。
「ねえ、お兄ちゃん。そろそろ地下二階に下りない?」
「そうだなぁ。」
俺たちはまだDランクダンジョンの地下一階を拠点にしていた。地下二階の推奨レベルは13だ。今のモカたちのレベルは、モカが魔法使いレベル11、マリアンヌが剣士レベル13、アミはなんとアイテム士レベル15になっていた。
たしかにレベルで言えば地下二階は余裕だろう。今まで下りていなかったのは丁度いいクエストが無かったからだ。まさかこいつらのレベル上げが順調に行くとは思っていなかったので、上層にいるモンスター討伐のクエストをいくつかまとめて受けてしまっていた。
「今受けているクエストを全部片付けたら、しばらくクエストはやめてダンジョン探索するか。」
「うん! そうしようよ!」
そう言ったとたん、モカの瞳が輝いた。
そうだよな。同じモンスターを倒すだけの作業は面白くないもんな。特にモンスターから取れる素材の採集クエストは、魔法で吹き飛ばしてしまわないようにモカには我慢を強いてしまっているとも感じていた。そういう意味ではよく言うことを聞いてくれている。
「先輩、おつかれ!」
「おう、マリアンヌもよくやった。最後の剣撃は見事だったな。」
「えへへ。」
マリアンヌは相変わらず褒めると調子に乗るが、戦闘で油断することが少なくなってきたと思う。
みんな確実に成長している。これならDランクダンジョン踏破の日も案外早いかもしれない。
「ねえ、先輩。また飲み会やろうよ。」
「そうだよ、お兄ちゃん。クエストで稼いだお金でぱーっとやろうよ。」
「また、先輩の奢りでさぁ!」
「いやいや、お前らも冒険者の稼ぎが出来たんだから、いつまでも俺にたかろうとするな。」
「いいじゃん。先輩が年上なんだし!」
「そうそう。お兄ちゃん、妹にお金出させる気なの?」
モカもマリアンヌもダンジョンの帰り道でいい加減なことを言い合っていた。まったく、冗談なのか本気なのかわからん。
まあ、しかし、今は稼いだ分は自分の装備に使いたいのかもしれないな。マリアンヌもモカも今はDランク冒険者用の装備である鉄の鎧と、魔道士のローブを着ていた。
「ふふふ。」
アミも二人の少し後ろを歩きながら、二人につられて笑っている。アミが着ている装備もDランク冒険者用の革製スーツである。俺が選んでやった装備だ。ぴったりと体に合ったサイズで、アミの体の曲線がよく出ている。
俺はアミにそっと近づいて、小声で指示した。
「アミ。今夜も俺の部屋に来い。」
「あ……はい。」
アミは頬を赤らめて返事をする。
おそらく、モカもマリアンヌも俺とアミが既にそういう関係になっていることは知っているだろう。あえて話題にはしないが。
いや、何も後ろめたいことなんかあるものか。俺とアミは付き合ってるのだから、これは当然の成り行きだ。
その夜、灯りを消した俺の部屋で。
「アレスさん……。」
ベッドで仰向けになった俺の上にぐったりと体を重ねるアミ。お互いの汗が混じり合う。アミの体温が直に感じられる。
俺はアミの頭を撫でた。
◇
「やあ、アレス君。元気かね?」
「ユーリ様。」
俺はモカたちのパーティで冒険者をやる傍ら、週一で親方の元に通って付与師の修行を続けていた。今日も親方の工房に顔を出そうとしたところ、ユーリ様に呼び止められた。
ユーリ様は勇者エミリアのパーティに所属する年齢不詳の賢者の女性だ。ユーリ様の持つ知識と知恵は素晴らしく、俺がエミリアのパーティにいた時からパーティの要というべき存在だった。俺がエミリアのパーティを追放される最終的な判断もユーリ様によるものだったが、俺はユーリ様を恨んではいない。まだ何も知らなかった頃のエミリアと俺は、ユーリ様のおかげで大きく成長させてもらったと思っている。だが、それもこれもユーリ様の目的はただひとつ。すべては魔王討伐のためだ。
「どうされたんですか? なぜ俺のところに? エミリアたちのダンジョン探索は順調なんですか?」
だから、ユーリ様がパーティを抜けた俺を訪ねてくるなんて違和感があった。魔王討伐のため、一番効率のよい選択をするのがユーリ様のはず。今はエミリアのBランクダンジョン攻略が第一目標のはずだ。
「いや、なに。少し世間話をしたくなっただけだよ。アレス君、付与師の修行は順調かい?」
「ええ、まあ……順調とは言いがたいですね。」
「やはり、そうか。」
「え? ユーリ様は何かご存じなんですか?」
実際、俺の付与師の修行はまったくと言っていいほど駄目だった。武器にも防具にも初級レベルの付与すら満足に出来ない。それなのに俺の付与師のレベルは今15に上がっていた。これは親方が「意味がわからん」と頭を抱えてしまうほどのことだった。
ユーリ様は俺の質問に答えずに続けて言った。
「ところで、アレス君。君はパーティのアイテム士の子と関係を持ったね。」
「うっ。そんなことまでわかるんですか?」
「はは。別に君を責めようというのではないよ。若くて結構なことさ。」
俺はわかっている。ユーリ様が無目的に世間話などするお方ではないことを。
付与師とアミ、何の関係が……?
「アレス君。付与師のスキルには、稀に人体に作用するものがある。わかるかい?」
「まさか……。」
「そのまさかだ。私は今、確信したよ。君は関係を持った女性に、経験値かレベルを付与するスキルを持っているんだ。」
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