不安な彼女と余裕の女騎士

「アレスさん、今度の休みですけど。」


 アミが自然に腕を絡ませて言う。

 

「ああ。約束だったな、アミ。」


 アミが言っているのは以前に約束させられたデートのことだった。俺がBランクダンジョンに行くことになったので先延ばしになっていた。

 と言っても、買い物をして軽く食事をするだけだ。俺はアミのファッションショーに付き合ってアミを褒める。アミが行きたいところに丸一日付き合ってやる。それだけでアミの機嫌は良くなる。


「楽しみにしてますからね。」

「わかってるよ。」


 アミを満足させたら、今度は俺が満足するまでアミを可愛がってやる。

 それがいつものデートだった。


     ◇


 一時間くらい迷っていたアミのファッションショーは、俺が最初に褒めた青いワンピースで決着したらしかった。


「どうでした? アレスさん。」

「どれもアミに似合っていたし、可愛かったと思うぞ。」

「えへへ。」


 アミが頭を差し出したので、俺はその丸い頭を撫でた。

 この後はアミが行きたいと言っていたケーキ屋か。


「あ……。」

 

 アミがふいに立ち止まった。

 アミの視線の先を見るとクレアが歩いていた。アミはクレアを見つけて立ち止まったのだ。俺もアミに合わせて立ち止まった。

 先日の一件の後、俺はモカたちの前で宣言した。クレアもモカたちも全員俺の女だ。誰が何番目だということはない。全員平等に愛している、と。

 モカとマリアンヌは、「まあ、そうなったか」という感じで受け入れていたが、アミだけは違った。明らかにクレアに対しての対抗意識が再燃していた。クレアはそんなこと気付いてすらいない様子なのが幸いだったが。

 そうしているうちに、クレアの方も俺たちを見つけたらしい。


「アレス様、アミ殿!」


 クレアが笑顔でこちらに走ってやってきた。クレアはいつもの鎧姿ではなく上等な服に身を包み、文字通り全身を弾ませてきた。


「クレアさん……。」

「ふふふっ。アレス様、デートですか?」

「ああ、アミと約束でな。」

「いいですね。」


 クレアは俺とアミを見て微笑んだ。

 俺の腕を掴むアミの手に力が入った気がした。


「クレアさんは、今日はどちらへ?」

「いや、私は特に予定もなくブラブラと。」

「それならクレアさん。私たちこれからケーキを食べに行くんです。クレアさんもどうですか?」

「いいのか、アミ殿?」

「おい、アミ?」

「クレアさんも仲間ですから。」

「では、お言葉に甘えて。」


 クレアはそう言うと、腕を組んでいる俺とアミの半歩後ろを歩いてついてくる。



「これは美味しい! アミ殿はこういうのに詳しいのだな。連れてきてもらってよかった。」


 俺たちは三人席でケーキを囲んでいた。


「はい、アレスさん。あーん。」


 アミはクレアの前で俺にケーキを食べさせようとする。いつもはこんなことしないだろ。これはさすがに俺も恥ずかしいのだが……。


「アレスさん。あーん。」

「あ、ああ……。あー……ん。」


 アミが諦めそうもなかったので、仕方なく俺はアミのフォークを口に入れた。


「ふふふ。二人は仲が良くて羨ましい。」


 その様子をクレアは笑って見ている。クレアに他意は無さそうだった。本当に俺たちの様子を微笑ましく思っているのだろう。

 クレアは第七王女。異母兄弟が上に六人、下に九人いるらしい。愛した男には他に女がいる。そんなの当然だとクレアは受け入れている。

 クレアからは王女としての余裕が感じられた。

 しかしその態度がアミを不安にさせているのだ。

 アミが唐突に俺に聞く。


「……アレスさん。この後はいつもみたいに休憩するんですよね?」

「え? ……ああ。しかし、クレアもいるしな……。」

「アレス様。それなら私はここでお暇しますよ。これ以上、二人の邪魔をするのは悪いですし……。」

「いいえ!」


 アミがクレアの腕を掴んで言った。


「クレアさんも一緒に来てください!」

「ええ!?」


 クレアが困惑した目で俺を見る。さすがにこれは暴走のしすぎだ。


「私がどれだけアレスさんに愛されているかクレアさんに見てもらいます!」

「おい。アミ。」

 

 アミのやつ、勝手に一人で空回りするなよな。俺にクレアを抱かせたのはお前たちだろうが。

 クレアが俺の顔を見て首を横に振る。そりゃそうだろ。そんなことしたってアミの不安は消えやしない。

 しょうがない。言ってやるか。


「アミ。お前な、いい加減にしろ。今日はお前とのデートなんだぞ? せっかくの二人の時間を無駄にする気か?」

「え……アレスさん……?」

「クレアは関係ないだろ。今日俺はお前と過ごしたいんだ。」

「うぅ……だって、アレスさん……。」


 泣き出したアミの頭を俺は撫でた。クレアは静かに笑顔を作って俺に手を合わせて謝る素振りをすると店を後にした。きっと自分が声をかけなければと思ったのだろう。クレアにはあとで礼を言っておかないとな。


「アミ。お前の不安なんて消し飛ばすくらい、今日はやるから覚悟しろ。」

「ぐすっ……。はい、アレスさん……。」


     ◇


 いつにも増してアミは献身的で、今日の俺は最高に燃えた。


「私が一番気持ちいいんですよね?」

「そうだ、アミ。」

「クレアさんよりも。」

「ああ。」

「モカちゃんやマリアンヌちゃんより……。」

「ああ。」

「アレスさん、優しいですね。」

「……アミが可愛いからだ。」

「……えへへ。」


 まったく、今日は何度アミの頭を撫でたかわからなかった。

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