どうやら俺、指導役の才能があるみたいです

ベテラン戦士と新米剣士

 その日、モカが待ち合わせに遅刻して、モカを待つ間、俺とアミとマリアンヌはなんとなく世間話を始めていた。

 

「兄弟ですか? 妹が一人います。」

「じゃあ、アミはお姉さんなのか。」

「お姉さん? えへへ。そうですね。」

「マリアンヌは?」

「私は姉ちゃんが二人だよ。私が三姉妹の一番下。」

「へえ、そうなのか。上の二人は何歳なんだ?」

「あ、モカの兄さん。姉ちゃんに興味持ったの? 残念だけど二人とも結婚してるからねえ。」

「何が残念なんだよ。ちょっと聞いただけだろ。」

「そ、そうだよ、マリアンヌちゃん。アレスさんは別にそんなこと一言も言ってないじゃない。ね、アレスさん。彼女とかはまだ別に……。」

「なんでアミがつっかかってくるのさ。」

「つーか、マリアンヌ。モカの兄さんって呼び方はやめろ。これでも俺は冒険者の先輩なんだぞ。もっと敬意を持てよ。」

「はーい。わかりました、アレス先輩。」


 絶対に本気で俺のこと先輩だと思ってないだろ、こいつ。



「ごめん、遅くなった! これ、着方がわからなくて、手間取っちゃって。」


 待ち合わせに遅れてきたモカが着ていたのは、俺が買った皮の鎧だった。なんと、アミに続いて、やっとモカも……。


「モカ、お前も着てくれたのか。やっと俺の指導が通じたんだな。うれしいぞ……。」


 やばい。ちょっと涙目になる。おっと、最近涙腺が弱くていけない。


「アミに負けるわけにいかないからね……。お兄ちゃん! 今日からは私にも戦いを教えてよね!」

「よし、任せておけ!」


 俺の指導の甲斐あってか、モカもアミも俺の言うことを聞いてくれるようになってきた。最初はどうなるかと思っていたが、俺のパーティ育成計画も軌道に乗せられるかもしれない。あとは、マリアンヌだけだが……。



 レベルEダンジョンの地下三階。よし。モカとアミの連携で危なげなくゴブリンを倒せている。

 対して、マリアンヌは一人でゴブリンを次々と倒していく。先日、冒険者ギルドで確認したら剣士レベル10に上がっていた。マリアンヌだけならもうレベルEダンジョンの地下五階のボスに挑めるレベルだった。しかし、冒険者パーティというのは一人だけ強くても駄目だ。いつか行き詰まる時が来るだろう。


「マリアンヌ。こっちに来て、モカとアミを守れ。俺が前衛の戦いを教えてやる。」

「ええ? 私のジョブは剣士なんだよ? 戦士の戦い方が参考になるかな?」

「ああ?」


 確かに剣と盾でどっしりと守りながら戦う戦士と、攻撃こそ最大の防御と考えて剣のみで戦う剣士とでは戦闘スタイルが違いすぎる。だが、今のマリアンヌのレベルではそれ以前の問題だというのに。


「マリアンヌ、こっちに来い。俺の言うことは絶対だ。」

「……はいはい、先輩。わかりました。で、そっちに行けば、アミみたいに私にも手取り足取り教えてくれるってこと? やーん、ドキドキしちゃう!」

「ちょ、ちょっと、マリアンヌちゃん!?」


 マリアンヌはくねくねと体をくねらせふざけた。舐めやがって。これはわからせる必要があるな。

 

「いや。」

「ん?」

「剣を構えろ。俺が稽古をつけてやるって言ってるんだ。」

「え? あれ? お、怒ったの? 先輩?」

「怒ってなどいない。剣を構えろ。」


 俺は盾を置き、剣だけを持ってマリアンヌに対峙する。

 俺はマリアンヌが剣でうけられるように手加減して斬りかかった。狙い通りに俺の剣をうけたマリアンヌの剣を、俺は絡め取って弾く。そして剣先をマリアンヌに突きつけた。


「これで一回死んだな。」

「くそっ。も、もう一回!」


 ふむ。普段はふざけてはいるが意外と根性あるんだな。冒険者として一人前になりたい気持ちは本気なのだろう。俺はモンスターとの戦いを想定した前衛の立ち振る舞いをマリアンヌに教えることにした。


「ほら、脇があいてるぞ。それではモンスターがすり抜けて後ろのアミが攻撃を受ける。ほら、どうする?」

「ちっ。なら、こうだ!」

「よし。次はこう。モンスターが二体来た。」

「に、二体は無理……!」

「そういう時は、モカの魔法の射線を開けるんだ。どう移動すればいいか。」

「こ、こうか?」

「そうだ、いいぞ。」

「そ、そう? へへ。」


 ったく、ちょっと褒めたくらいで調子に乗りやがって。しかし、本当にマリアンヌの動きは良くなってきていた。つーか、俺の指導が良いってことじゃないか? 実は俺、冒険者の指導役の方が向いてるのかもな、なんて。


「よーし。今日はここまでにするか。」

「はぁ、はぁ。」


 マリアンヌが息を切らし、大の字になって寝転がっている。ここはまだダンジョンの中なのに緊張感がないやつだな……。アミがマリアンヌにポーションを使っていた。


「そして、明日からは地下四階に下りることにするが、俺は一切手出しをしない。」

「えぇ? どういうこと、お兄ちゃん?」


 モカとアミが不安そうに聞いた。まあ、ここまで俺が手を貸してきたからな。急に手を離されればそうなるのもわかる。

 だが、モカが魔法使いレベル8、アミはアイテム士レベル7になっていた。それにマリアンヌの剣士レベル10が加わったパーティなら、地下四階は自力で充分戦えると俺は踏んだのだ。


「もちろん、万が一危なくなれば俺が助ける。しかし、最終的にはお前らだけの力で地下五階のボスを倒さなければ冒険者として認められないんだぞ。それに俺は、今のお前たちなら大丈夫だと思っている。」

「お兄ちゃん……。」

「アレスさん……。」

「先輩……。」


 いや、よくここまでやったよ俺。一人前の冒険者まではまだ道のりは遠いが、レベルEダンジョンを踏破すればもう初心者ではない。それがもう目の前に来ているのだ。


「あともう少しだ。頑張れよ。」

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