Cランクボスと戦士のスキル

 まずは地下十二階。ボスのフロアを目指す。

 マリアンヌが前衛を務めモンスターを打ち払い、モカが魔法で補助する。クレアとアミが戦闘と回復に立ち回る。地下十階までは何度も来たことがあり危なげがない。

 


 Cランクダンジョンを攻略すれば、モカたちもサブジョブを得られるだろう。どのジョブになるかは女神のご機嫌次第だ。俺みたいに将来性のないサブジョブを与えられる者も少なくない。まあ、そういう奴はCランクダンジョンで冒険者を続けるか、メインジョブのレベルを上げてBランクに上がるか、引退するかだ。

 モカはメインジョブ魔法使い。サブジョブには出来れば補助職がいい。神官になって回復魔法を使えるようになれば攻守どちらも出来るし、上級ジョブの賢者への道も開かれる。

 マリアンヌもサブジョブには補助職の方が向いているだろう。神官なら上級ジョブは騎士、魔法使いなら魔法剣士だ。

 アミの場合、補助職でも戦闘職でもいい。アミならどんなジョブでもスキルを伸ばせると俺は思っている。そうそう、サブジョブにはメインジョブでは選べないジョブ……、例えば弓使いなどもあるな。道具を使うジョブはアイテム士と相性が良さそうだ。

 まあ、どんなジョブになろうが受け入れるしかないけどな。この国の女神は気まぐれだが、一度与えられたジョブを変更できた者はいないのだ。



 そんなことを考えているうちに、俺たちは地下十二階。Cランクダンジョンのボスモンスター、ゴールドゴーレムのエリアに辿り着いた。

 だが、モカたちに恐れはない。

 そうだ。お前たちならやれる。

 ゴールドゴーレムはその図体をゆっくりと持ちあげるように立ち上がる。


「プロテクション! スピードアップ!」


 モカが補助魔法を全員にかける。

 魔法がかかり終わると、前衛のマリアンヌとクレアがゴールドゴーレムに斬りかかった。

 ゴールドゴーレムのパンチは威力はあるが遅い。魔法で速度が上がったマリアンヌとクレアなら余裕で避けられる。


「やあ!!」


 ゴールドゴーレムの背後を取ったマリアンヌが、剣士スキル『二度斬り』をきめた。ゴールドゴーレムの体を削り取る。

 ゴーレムは土属性だが、ゴールドゴーレムはそれに加えて雷属性の攻撃に耐性があり弱点が少ない。細かく削っていくのがセオリーだ。


「えいっ!」


 アミがゴールドゴーレムに対して眠り玉を投げた。ガクリと膝をつくゴールドゴーレム。そうだ、そのアイテムを使えば一瞬だが動きを止めることができる。

 その隙にマリアンヌとクレアが斬りかかり、モカが風の魔法でゴールドゴーレムを切り刻む。ゴーレムに炎の魔法は効果がない。



 まあ、後はこれの繰り返しだな。

 地味な戦闘に思われがちだが、ゴールドゴーレムにダメージを与えられるだけの攻撃力。攻撃を避けるか、それに耐えられるだけの耐久能力。これらはジョブに熟練していなければ身につけることができない。

 それに加え、冒険者としての能力と適切な対応ができるかという判断力が求められる相手だ。

 今、ゴールドゴーレムと互角にやり合えているモカたちは、充分にCランクを突破して女神からサブジョブを得る資格があるだろう。

 よくぞ、ここまで育ってくれたものだ。俺が面倒を見始めてまだ一年経ってないよな? モカたちにも元から才能があったのかもしれないな。



 ゴールドゴーレムの動きが鈍くなってきた。体を立たせるのがやっとといったところだ。

 そろそろ俺の出番のようだな。


「よし、トドメは俺に任せろ。」

「うん、お兄ちゃん!」

「アレスさん、お願いします!」

「先輩、やっちゃえ!」

「あぁ、アレス様の剣技が見られる!」


 俺は愛剣のミスリルソード攻撃力プラス10を上段に構えた。

 戦士レベル40のスキル技『一刀両断』。ゴールドゴーレムの堅い装甲でも斬ることができる。

 これで終わりだ!!


「……。」


 ……ん? どうした?

 俺はスキル『一刀両断』が発動するのを待った。だが、一向に発動する気配がない。おかしい。なぜスキルが発動しない?

 その異常事態に混乱した俺は、自分が置かれている状況を完全に忘れていた。


「お兄ちゃん!?」


 俺はゴールドゴーレムの真っ正面で、間抜けにも棒立ちになっていたのだ。格好の的である。

 次の瞬間、渾身の力で俺を横から殴りつけるゴールドゴーレム。俺の体は数メートルは吹き飛ばされた。もの凄い衝撃が俺の頭を直撃した。

 鈍い痛みと生暖かい感触が俺の頭部に広がっていく……。


「いやああああ! アレスさあああああん!!」

「え? え? え? なんで!? 先輩!?」

「お兄ちゃん!! やだっ! やだよぉお!!」

「アミ殿! はやくポーションを!! ああっ! 回復魔法が追いつかない!!」


 薄れる意識の中で俺は四人の声を聞いた……。

 まさか、Cランクごときで俺、死ぬのか?


「モカ、撤退! 撤退だよ! はやく先輩を!」

「うん! 撤退!! 転送ゲート使うよ! ……ああ、クレアさん、アミ! お兄ちゃんを助けて……!」

「うぅ……アレスさんの血が止まらないよ……。」

「アレス様! アレス様! 気を確かに!」


 モカ、アミ、マリアンヌ、クレア。こんな俺のために一生懸命になってくれるのか。ごめんな……。

 俺は意識を失った。

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