Eランクパーティと初めてのダンジョンボス

「悪かった。」


 俺の言葉を聞いた三人は微妙な顔をした後、一瞬の間を置いてから笑って言った。


「ほら、やっぱり変だもん、お兄ちゃん。」

「先輩。なに気弱になってんの? 熱もあるんじゃないの?」

「そんなアレスさんも私、あの……。」


 うーむ。そんなに可笑しかったか? 確かにこいつらの言うように、今日の俺は普段どおりではないようだな……。


「わかった。帰ろう。……ありがとな。」


 でも、モカたちの優しさが身に染みたのは本当だった。


     ◇


 それからモカたちがレベルEダンジョンの地下五階に下りられたのは二週間後だった。

 最初のダンジョン挑戦から数えて一ヶ月。俺が助けなければならない場面も何度かあったが、まあ、これなら及第点だろう。ちなみに、俺とエミリアのパーティは五日でレベルEダンジョンを攻略している。


「本当に今日行くの、マリアンヌ?」

「ああ、行こう。」

「え、でも、もうちょっとレベル上げてから……。」

「いや、大丈夫だって。」


 自信たっぷりのマリアンヌと自信なさげなモカ。アミが俺の方をチラチラと見る。

 俺はあえて、三人には助言をしない。

 マリアンヌ剣士レベル11、モカ魔法使いレベル10、アミ、アイテム士レベル9。パーティの平均レベルは10。地下五階のダンジョンボスに挑む資格は充分にあると言える。



 地下五階の最奥。そこには試しの間と呼ばれる広い空間がある。

 そこに居座るのはレベルEダンジョンのボスモンスター、オークだった。

 オークは冒険者たちがやってくるのを待ち構えている。こいつは他のモンスターとは少し違う。ダンジョンが生み出した特別なモンスターなのだ。

 

「開けるよ。」

「うん。」


 マリアンヌが試しの間の扉を押した。その先の空間の中央にオークはどっしりと構え、侵入者たちを見据えていた。


「こ、恐い。アレスさん……。」


 アミが俺の方を振り返る。俺はアミに頷いてみせ、大丈夫だ、自信を持てと無言で伝えた。アミは俺に頷き返すと再びオークに向き直った。

 モカが呪文の詠唱を始める。

 オークはゆっくりとその巨体を起こして三人に近づいた。

 戦闘開始だ!


「てやぁ!」


 マリアンヌの剣がオークの皮膚に傷を付ける。……浅い!

 すぐさま体勢を立て直したマリアンヌに向けてオークが持っていた棍棒を振りかぶった。


「ファイア!」


 モカの炎の魔法がオークの顔にぶち当たる。

 隙を見てマリアンヌが再びオークに向かって剣を振るった。今度は弱い足の腱を狙うつもりのようだ。


「ぐおおお!」


 マリアンヌの剣は見事にオークの右足の腱を切り裂き、オークのバランスが崩れた。更に休む間も無くモカの魔法が追撃を食らわせる。


「私たち、戦えてる! いけるよ!」


 マリアンヌが少し余裕の笑みを見せてモカとアミにそう言った時、背後からモカの魔法攻撃を耐えきったオークが急接近して、マリアンヌの足を掴んだ。逆さ吊りにされるマリアンヌ。バカ、油断しやがって! 俺はとっさに腰の剣に手をかける。


「マリアンヌちゃん!」


 その時、アミが袋から何かを取り出し、オークに向かって投げつけた。その何かはオークの顔面あたりで急に弾けて強烈な光を発した。

 あれは炸裂玉だ。はは、アミのやつ、いつの間にあんなものを用意してたんだ。マリナンヌが怯んだオークの手を剣で突き刺してオークから逃れると、三人は体勢を立て直した。アミがマリアンヌの足の様子を確認し、念のためポーションを使う。


「もう一度、今度は油断しない!」

「うん! 勝てない相手じゃない!」

「モカちゃん、マリアンヌちゃん。私、足手まといじゃないよね?」

「当たり前じゃない、アミ!」

「ああ、アミ。さっきは助かったよ!」

「……うん! みんなで勝とうね!」


 オークに向かっていくマリアンヌ。

 それを魔法で援護するモカ。

 アミが再び炸裂玉でオークの視界を奪う。


「うおおお!」

「いけ!」

「いっけえ!」


 マリアンヌの剣がオークの首を正確に捉え、そして見事に切り落とした。


「やった! やった!」


 抱き合って喜ぶ三人。

 はぁ……やったのか、あいつら……。俺はいつの間にか強く握りしめていた腰の剣からようやく手を離した。息をするのさえ忘れていた。


「やったよ、お兄ちゃん!」

「アレスさん! 私たち勝ちました!」

「見てたよね、先輩! 私の剣がトドメを刺したんだよ!」


 モカ、アミ、マリアンヌ。みんな、俺に笑顔を向けている。


「ああ、よくやったな。お前たち。」


 正直、感動して涙が出そうだ、俺。


「モカは魔法のタイミングが的確だった。よくマリアンヌをサポートできていたな。マリアンヌはオークの動きをよく見て立ち回れていたと思う。足を掴まれたときはひやりとしたが……。そこはアミの機転が素晴らしかった。アミがいなかったら勝てなかったかもしれない。……ほんとに、お前たち……。」

「え、あれ、お兄ちゃん。もしかしてまた泣いてる?」

「ア、アレスさん……!」

「なんだよ、先輩。そんなに嬉しかったの?」

「……そうだよ。俺はお前たちがここまで成長してくれて嬉しい。」


 泣いたっていいだろ。今更、こいつらの前でカッコつけてもしょうがないからな!

 全然俺の言うことを聞かない生意気な奴らだったのに、今はこんなに可愛く見える。


「とにかく、今日は帰ったら飲むぞ。祝勝会だ!! もちろん俺が奢る!」

「うん!」


 ダンジョンボスを倒すと、入り口まで移動できる転送ゲートが現れる。

 俺たちはボス攻略の証を手に入れて、転送ゲートで地上へと戻ったのだった。

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