幼なじみの女勇者になぜか追放を言い渡されたんだが【連載版】

加藤ゆたか

幼なじみの女勇者に追放を言い渡されたんだが

幼なじみの女勇者と癒やし系神官

「アレス! あんたを追放する!!」

「なっ、なぜだ!?」


 俺の目の前で女勇者エミリアは高らかに宣言した。

 聞き間違いではない。アレスは俺の名だ。

 俺は耳を疑った。心当たりがまったく無かったからだ。



 冒険者ギルドの受付兼待合所にいた冒険者たちがいっせいに俺たちの方に視線を向けるが、その目は冷ややかだ。


「理由を教えてくれ! エミリア!」

「理由? わからないの!?」

「ああ! まったく心当たりがない!」

「アレス! あんたって男は、ほんとに昔から……!」


 俺は突然のことで冷静さを失っていたと思う。それも仕方がない。俺とエミリアは同じ村出身の幼なじみだ。

 幼い頃に勇者のジョブに目覚めたエミリアは、その役目を果たすことを周囲から期待されて育った。

 ある時、エミリアは俺にだけ不安を打ち明けた。


「私、勇者だから。世界を守らなきゃ。……でも本当は怖い。」

「じゃあ、エミリアのことは俺が守るよ。俺がエミリアを守る騎士になる。」

「えぇ? できるの、アレス? だってアレス、私よりも弱いじゃん。」

「なっ……。強くなってみせる。見てろよ、エミリア!」

「はいはい。頑張ってね。」

 

 あの日、俺はエミリアを守る騎士になることを誓った。

 だから四年前、十六になったエミリアが魔王討伐のため修行の旅に出ることになった日——。


「アレス。私のパーティに戦士のジョブが必要なの。……なってくれる?」

「ああ、エミリア! 俺に任せてくれ!」


 俺をパーティメンバーに選んでくれた時は本当に嬉しかった。エミリアが俺を認めてくれたと思ったからだ。

 それから何度かメンバーチェンジはあったが、俺はエミリアの横に立ち続けるためならどんな努力も惜しまずやってきたつもりだ。

 おかげでエミリアとは幼なじみ以上の信頼関係を築けていたと思っていたのに……。


「教えて欲しいなら土下座して謝りなさいよ!」

「土下座だって!?」


 こいつ、何を言ってるんだ!? 幼なじみに強要するものではないだろ! 俺はエミリアがここまで怒る場面を見たことがなかった。

 いったい俺は何をしてしまったというんだ? 確かに最近の俺は力不足でエミリアたちについていけていなかった。はっきり言って足手まといになっている自覚はある。

 でもだからって、土下座させられて、追放だなんてあんまりだ!

 

「エミリア、お願いだ。教えてくれ。」

「ふん。わかったわ、アレス。ヒントをあげる。昨夜、あんたが何をしたか! 胸に手を当ててよく思い出しなさい!」


 エミリアが俺の胸のあたりを指で突き刺すようにして言った。

 昨夜だと?

 俺はエミリアの横で俺たちのやり取りを不安そうに見守っていたパーティ仲間の神官シエルを見た。シエルは俺と目が合うなり、俺と同じことに思い当たったのか頬を赤らめる。


「まさか……。」

 

 俺はシエルと付き合っていた。もちろん、エミリアには内緒である。エミリアはパーティ内恋愛禁止をうたっていたからだ。しかし、年頃の男女が昼夜一緒にいて何も起きないはずがない。

 あれは今攻略中のBランクダンジョンの九階のボスとの戦闘の後……。

 俺は戦士としてみんなの盾になるべく前衛に立ったが、九階ボスの冥界騎士エグゾディアの激しい攻撃に堪えきれず深手を負ってしまった。結局、エグゾディアはエミリアと賢者ユーリ様の魔法によって倒された。

 俺は絶命寸前のところで、シエルの回復魔法に救われた。

 シエルは町の宿屋に着いてからも、ずっと俺の横について回復魔法をかけ続けてくれたのだ。

 もう少しで死ぬところだった……。俺はシエルの前で情けないことに泣いてしまった。それは役に立てなかった自分自身のふがいなさもあったし、死の恐怖にかられてしまったショックからでもあった。

 

「……男が泣くなんて情けないよな?」


 こぼすように俺がシエルにそう聞くと、シエルは首を横に振って俺を抱きしめた。


「そんなことありません。私はアレスさんの本当の強さをよくわかっています。アレスさんは強いですよ。でも、今は……好きなだけ泣いてください。この部屋には私しかいませんから。」

 

 俺より二歳年上のシエルは白に近い黄色い髪、長い睫毛、美しく青い瞳で優しく俺を見つめてくれる。厳粛な神官の服では隠せないシエルの豊満な体が俺を優しく抱く。俺はシエルが許してくれるのをいいことに、その胸に顔をうずめた。シエルの匂いに包まれて、俺はようやく落ち着きを取り戻した。


「すまない、シエル……。もう少しこのままいさせてくれ。」

「いいですよ。」

「……俺は俺を嫌いになるところだった。」

「ダメですよ。自信を持ってください。好きになってください。みんな、アレスさんのことが好きですよ。」

「俺はシエルが好きだ。」

「ふふふ。どうしたんですか、急に? もちろん私も好きですよ。」

「シエル……。」


 俺がシエルの腰に回していた手をさわさわと動かすと、シエルは少し身をひねったが特に逃げるようなそぶりは見せない。

 きっとシエルはその身で俺の心も癒やそうとしてくれているのだ。

 まるで聖母のようだ。俺はシエルの優しさに甘えた。

 俺はシエルの匂いをめいいっぱい吸い込む。シエルの服の下に手を入れる。俺はシエルの服を脱がす。シエルは小さな声で「あっ、ダメです、ダメです」と言っていたが強く抵抗してこなかったので、しっかり最後までやった。

 事後、シエルは俺に言った。


「……ダメって言ったのに……。」

「そんな……、てっきり俺は……。」

「……責任、取ってくれますか?」

「あ、ああ……。」


 俺とシエルは結婚を前提に付き合うことになった。

 それからの俺とシエルは、ダンジョンから帰るたびに宿屋の一室を借りてプレイを重ねていたのだが……。



「女性の悲鳴があんたの部屋から聞こえてきたって通報があったのよ!」


 確かに昨日の宿の壁は薄い気がしたが……。


「す、すまん、エミリア。隠していたわけじゃないが、俺とシエルは付き合ってるんだ。」

「シエルと付き合ってる……? じゃあ、昨日の声は?」


 シエルが顔を真っ赤にして頷く。


「……どういうこと?」

「そういうプレイだったんだ。」

「プレイ?」


 再び冒険者ギルドの受付兼待合所にいた冒険者たちがいっせいに俺たちの方に視線を向けた。耳まで真っ赤にしたシエルは、いたたまれず杖で顔を隠した。


「……で、でも、言ったよね? 私のパーティ『フィーチャリングエミリア』はパーティ内恋愛禁止だって。勇者パーティなんだよ? 恋愛にうつつをぬかして魔王倒せると思ってるの?」

「だが、俺たちは……。」

「だがじゃない。やっぱり、あんたが悪い!! シエルを辱めたんだ!」

「待ってくれ! 俺とシエルは真剣なんだ。頼む、シエル。シエルからもエミリアに言ってくれ。俺たちがどれほど愛し合っているかを、詳細に。」

「しょ、詳細にですか!?」


 冒険者ギルドの受付兼待合所が静まりかえる。みんながシエルに注目している。


「あの……アレスさんはいつも部屋につくなり私を縛って……、ってやっぱり無理です!! アレスさんのバカ! もう知りません!」

「シ、シエル!」


 涙目のシエルは冒険者ギルドを飛び出していってしまった。

 取り残された俺をエミリアが冷たい目で見下ろす。

 

「……あんた、最低。やっぱり追放だわ。でなけりゃ土下座よ!」

「そ、そんな……。」


 俺にエミリアの非情な決断が下されようとした時、一人の少女が俺とエミリアの間に割って入って言った。


「ちょっと待ったぁ!」

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