臨時パーティとセーフエリア
「わかった。下の階に下りるまでだな。」
「じゃあ、よろしく。アレス。」
ミラがフッと笑う。おや、性格と目元はキツめだが、意外と可愛い顔をしているな。
「よろしくお願いします、アレスさん。」
シイタもそう言うと人懐こそうに笑った。シイタは体格がよく、胸も尻もそこそこ大きい。
「さっさと行くわよ、シイタ、アレス!」
「あ、待って、ミラ!」
シイタが慌ててミラの後を追う。ミラは俺たちに声をかけるとさっさと先に行ってしまう。この臨時パーティのリーダーはミラということか。仕方がない。大人しく従うか。
「二人だけでこの国に来たのか?」
「そうよ。女二人だけで悪い?」
「いや、そうは言ってないが……。」
「あ、私たち昔から一緒で……。ね、ミラ。」
「シイタ。余計なこと言わない。」
「あ、うん……。」
ミラはマップを見ながら歩く。冒険者ギルドで買ったマップだろう。地下三階のボスまでまっすぐ向かうなら半日くらいだが。
「ミラ。何か探しているのか?」
ミラはわざと遠回りをしているように見えた。
「……宝箱よ。悪い?」
「いや、そういう目的があるなら従う。」
出来れば俺はさっさと下の階に下りたいが、慌てても仕方がない。それに出来れば万全の体調で戦いたいから、アイテムの補充と休憩は入れたいと思っていたところだ。確かこの階の宝箱の中にはエクスポーションがある。あれがあれば骨折くらいのダメージなら直せる。
二人のレベルはわからないが、俺で言うと今のレベルでボス攻略は正直ギリギリだった。
しばらく立ち止まりマップとにらめっこしていたミラが言った。
「この先にセーフエリアがあるみたいね。今日はそこで休みましょう。」
「ああ。」
モンスターが出ないセーフエリア。ダンジョン内の冒険者にとって貴重な安らげる場所である。
「ふぅ。」
セーフエリアの利用者は俺たち三人だけみたいだ。
俺は他の冒険者と顔を合わせないためにセーフエリアの利用を避けていた。こうやって気を休めるのも久しぶりだ。
「あ、アレスさん。これどうぞ。」
シイタが温かいスープを俺に差し入れてくれた。普通、よく知らない相手から食べ物をもらうのはリスクがあるが、臨時とはいえ同じパーティの仲間を疑うのもな。それにシイタに悪意は感じない。
「ああ、ありがとう。もらうよ。」
「ふふふ。ありがとうございます。」
「どうした?」
「いえ、あの人たちはもらってくれなかったので。」
「そうか。」
あの人たちというのはあの男三人か。
俺はスープに口を付けた。久々の食事だ。温かくて美味い。
「美味しいよ。」
「よかったです。」
シイタがまた人懐こそうに笑う。
ミラは少し離れたところでおこした火の番をしていた。
シイタが俺の横に座る。
「アレスさんはどうしてソロで?」
「……ソロが一番経験値の効率がいいからな。」
「なるほど。」
シイタが自分の分のスープが入ったカップを持って、真剣に俺の話を聞こうとする。
「じゃあ、アレスさんは他に仲間はいないんですか? 女の人とか?」
「んー……。」
どこまでこちらの情報を正直に話していいものか……。この様子のシイタはともかく、ミラの方は俺とは距離を取っている。他国から来た冒険者なら、ここでの目的を終えればもう会うこともないだろうが……。
「まあ、今は独りだな。」
「なるほど、なるほど。」
不必要にモカたちのことを言うのもリスクだろう。
まだ俺からいろいろ聞きたそうにしているシイタに対して、ミラはさっさと横になり俺たちに声だけかける。
「私、もう寝るから。」
「あ、おやすみなさい、ミラ。」
シイタがミラに対して返事をする。
「そうだな。俺も休むとするか。」
ここ、セーフエリアならモンスターを警戒する必要はない。
俺も横になった。
「あ、アレスさんも、おやすみなさい……。」
◇
パチパチと焚き火の方で薪が音を立てている。
「アレスさん……、アレスさん……。」
俺が横になってからまだ小一時間も経っていない。シイタが俺の名を呼びながら、俺を起こす。
「どうした?」
「いえ……。実は、まだお話ししたくて。」
「……シイタも休める時に休んだ方がいいぞ。わかっていると思うが、Bランクダンジョンは一瞬の油断が命取りになる。」
「あ、はい……。」
シイタがちらりとミラの方を見た。ミラはこちらに顔を向けていないが既に寝付いているようだ。
「あの……ミラは寝ています。」
「ああ。」
「あの……アレスさん……。」
なんだ?
俺がシイタの真意を測りかねていると、シイタは服を脱ぎだした。シイタの大きめのバストがあらわになる。
「おい? シイタ?」
「あの……、助けてもらったお礼です……。こういうのどうですか?」
「どうってお前。」
「私、魅力ないですかね?」
「いや……。」
本心を言えばシイタのバストは強敵で、すぐにでも手に触れたいし抱きたい。だが、俺が今Bランクダンジョンにいる目的はレベル上げのためだ。俺が今ここでシイタを抱いてしまったら、せっかく俺が貯めた経験値をシイタに付与することになる。今までの努力が無駄になってしまう。
俺が動けないでいるうちに、シイタは下の服も脱いでしまった。
「……やめろ、シイタ。服を着てくれ。決して、お前が魅力的じゃないわけじゃないが。」
「アレスさん、抱いてくれないんですか?」
「……俺は……抱かない。シイタ、こういうことは簡単にやることじゃない。もっと自分を大事にしてくれ。」
くそっ。違った場所で出会っていたならな……。俺はシイタの裸を見ないように目を背ける。理性的になれ、俺。
「あら、残念。感じてる時のシイタは可愛いわよ。」
突然背後でミラの声が聞こえて俺は振り向いた。
いつの間にか起きていたミラが俺たちの方を見て笑っている。
「勇者一行の戦士アレスか。噂とは違って意外と硬いのね。」
「ミラ、お前……!」
俺のことを知っていたのか。
そして、ミラが短剣を持っていることに俺は気付いた。俺はとっさに剣に手を伸ばす。
「本当はバカ男がシイタとやってるところをズブリと後ろからやるのよ。それが私たちの手口。本当ならあの三人が今回の獲物だったのだけど、アレスが逃がしちゃったから。」
「ミラ、ごめんなさい。」
「いいのよ、シイタ。さあて、アレス。あなたはいい男だから殺さないであげるわ。」
「……それはどうも。」
「その代わり、荷物と装備は置いていってね。」
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