第15話 魔族、襲来②

「「「――――ッ!?」」」


 小窓の外から、まるで喉が張り裂けんばかりの悲鳴が聞こえてくる。

 明らかに――それは、人間が最期に発する断末魔だった。


「な……なんですか!? 今のは――悲鳴!?」


 あまりに突然のことに、俺たち3人は驚いて身体を強張らせる。

 だが事はそれで終わらなかった。


 悲鳴は続く。

 それも1つ、3つ、5つ――あっという間に数え切れない人数の叫び声が木霊するようになり、そのどれもが恐怖と苦痛を滲ませている。

 声は、おそらく街の住人たちのモノだ。


 収容所の外で――街の中で、〝なにか〟が起きている。

 そしてその悲鳴は、まるで〝なにか〟から逃げているかのようだ。


 直後――――ドンッ!という爆発音が鳴り響き、牢屋の中まで衝撃が伝わってくる。


「これは……!」


「! きゅーん!」


 突然、金色モフモフが声高に鳴き声をあげた。

 そして、頭部の水晶が赤色に輝く。


「カーくん、その色は……まさか……!」


 リリーは金色のモフモフが発する何らかの信号を理解したらしく、青ざめた顔をする。

 俺は急いで小窓へと駆け寄り、外の様子を確認した。牢屋の小窓からでは街の様子はほとんど伺えないが――夜空の一部が明るく光り、紅く染まっているが確認できる。


 これは――火の手が上がっている。

 それもかなり大規模に。

 おそらく燃えているのは家屋の1つ2つではないはずだ。


 詳しくはわからないが――かなり不味いことが起きているのは間違いない。

 俺がそう思っていると、


「――ゆ、【勇者】様! リリー・アルスターラント様はいらっしゃいませんか!?」


 1人の警備兵が息を切らし、顔面蒼白で通路を走ってくる。


「なにごとですか! この騒ぎは一体――!?」


「ま――――〝魔族〟ですッ! 街の中に、魔族が現れましたッ!!!」


 警備兵は喉が張り裂けそうな声色で、そう叫んだ。

 それを聞いたリリーの表情が一変する。


「そ……そんな馬鹿な! この街は、まだ封鎖区画には入っていないはずですよ!? 魔族の出現地域からは離れているはず――!」


「し、しかし、街の中は既に異形の者共で溢れております! 衛兵たちが迎撃に当たっていますが、奴ら相手にはとても……っ!」


「……!」


 リリーの顔が焦燥に染まるが、それも一瞬だった。彼女は俯き、少しだけ沈黙する。

 そんなリリーを心配するように、金色のモフモフとチャットが顔を覗き込む。


「きゅ~ん……?」


「り、リリー様……?」


「……チャット、『ラオグラフィア』に至急増援を要請してください。間に合うとは思えませんが、【神器使い】を送ってくれるはずです。それから――〝記録レコード〟の準備を」

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