第38話 模擬戦闘訓練①
――聖歴1547年/第2の月・
―――時刻・昼前
――――レギウス王国/レギーナ城/ラオグラフィア本部内
――――――ダークナイフ使いの勇者『ラクーン』
「大丈夫か、リリー。顔色が優れないぞ?」
「きゅーん」
「いえ……なんというか、昨日の疲れが残っているような気がしまして……」
『レギーナ城』の廊下を、くたりと肩を落として歩くリリー。
彼女は朝からこんな感じだ。
そのため、金色のモフモフは彼女の頭に乗っている。
昨日――というと、あの〝ぱーてぃー〟とかいう大人数が集まって食事をした疲れか?
たしかに、俺も他の誰かと食事をしたことなどないから違和感はあったな。
それにテーブルを囲んだカタリーナや他のシスターたちから、ひっきりなしに質問攻めにあって大変だった。
……そういえば、俺が質問に答えていく度にリリーの顔が赤くなっていったのは覚えてる。
しかし別に変なことは言ってないはずなのだが。
俺が
話したことといえば、アルニトでリリーに言われた言葉とか、俺はリリーために生きると決めたとか、一生リリーと共に歩んでいくとか――それくらいなのだが、シスターたちはえらく大盛り上がりだった。
反対に、最後の方はリリーはテーブルに顔を突っ伏したまま起き上がらなくなっていた。
まったく、女というのは不可思議な生き物だ。
――さて、そんなことがあって一夜が明け、俺たち2人はコリンに言われた通り再び『ラオグラフィア』を訪れていた。
向かう先は『
さっそく、俺たちは部署にやってくる。
「こんにちは、やってきましたよコリンさん」
「お~、こんにちはですよ~お2人とも~」
すぐに挨拶を返してくるコリン。
今日は彼女以外にも、複数名の『
皆忙しなく仕事をしているようだ。
「待っておりましたよ~、特にリリー様は~グッドタイミングですね~」
「? そうなのですか?」
「はい~丁度
そう言って、コリンはカウンターの下から〝ある物〟を取り出した。
それを見たリリーは驚きの声を上げる。
「これは――〝
「そうなのですよ~、丁度今日が入荷予定日だったのですね~」
見ると――それは、小さな宝石の付いた耳飾り《イヤリング》だった。
宝石は細長い角柱型をしており、ガラスのように無色透明で、キラリと光を反射する。
「〝
「あ、そっか、ラクーンは知らないかもですね。まず一般には流通しない物ですから……」
「そうそう~レア物なのですよ~。でもラッキーですね~、最近【神器使い】が多数登録されたこともあって~今回は多めに入荷したのですよ~」
たった今カウンターに置いた
どうやら俺の分、ということらしい。
「これは、もう着けてもよろしいのですか?」
「勿論ですよ~、
どうぞどうぞ、と手を動かすコリン。
それを聞いて、リリーはワクワクした様子で
耳に穴を開けなくても取り付けできる物らしく、すぐ両耳に着け終わった。
すると――つい今まで無色透明だった宝石に、〝色〟が付いていく。
そしてあっという間に染まりきってしまった。
宝石を染めた色は――〝白〟。
「おお~、リリー様は白色ですね~。イメージ通りの色ですよ~」
「ふふ、ありがとうございます。〝白〟、ですか。少し安心しちゃいました」
「?? これはなんだ? どういう仕組みなんだ?」
困惑する俺。
これまで宝石などという金持ちの道楽に興味を抱いたことはないが、石の色が変わるという現象はとても不思議に見えたからだ。
「この石は、人体に身に着けると色が変わる性質があるんです。その理由はまだ解明されていませんが、この色にまつわるジンクスはとても多いんですよ」
「例えば~〝赤〟に染まれば英雄的な武勲を上げ~〝青〟に染まれば悪運を遠ざけ~〝緑〟に染まれば仲間を支える柱になる~、とされていますよ~。ちなみに〝白〟は~神聖な色として長寿を表すらしいのですよ~」
「なるほど、長寿か。それは良いな」
たしかに〝白〟はリリーらしい色だ。
長寿というのも縁起がいい。
所詮は迷信に過ぎないとしても、それが人の精神に与える影響は侮れないモノがある。
いずれにしても、彼女が長生きしてくれるのは俺としても喜ばしい。
「さあ、ラクーンはどんな色になるでしょうか。早く着けてください」
「ん……そう急かすな。どうせ俺は――」
〝黒〟とか〝灰色〟みたいな色になるんだろうな――そう思いながら、
すると、
「あれ……? この色……」
「おや~これは~」
「きゅ~ん」
リリーとコリン
残念なことに、俺の両目は横にはついていない。
だから自分で自分の耳を見るなど、鏡でもなければ不可能だ。
「な、なんだ? 何色になったんだ?」
「これは~アレですね~間違いなく~」
「はい……〝紫〟ですね。この色は
――〝紫〟。
意外な色名が出た。
どうにも、俺が両耳に着けた
「珍しいですね~〝
「そうですね、基本的には〝赤〟〝青〟〝緑〟〝黄〟〝黒〟〝白〟の6色のいずれかになるはずなのに」
「はあ……そうなのか」
珍しいと言われても、別に嬉しいとも悲しいとも感想が出てこない。
〝
「〝紫〟というと~一般的には高貴とか神秘を意味しますが~どうなんでしょうね~」
「フン、どちらも俺には程遠い言葉だな。わからんのならどうだっていい。それで、この〝
「いえ、ちゃんと用途はありますよ。例えば――」
そこまで言いかけて、リリーは口を閉じる。しかし、
『――こんな感じに』
彼女の口から発せられていない言葉が、俺の頭の中に響き渡った。
「――!? これは……!」
『〝
――これは凄い。
素直に驚いてしまった。
今まで様々な暗器を使ってきたが、こんな物があるとは聞いたこともない。
とてつもなく便利だ。
それだけ離れた相手と頭の中だけで会話できるとは、暗殺者ギルドの手に渡ればさぞ悪用されてしまうだろうな。
「なるほど……これは大した物だな」
「ふぅ――ですが、相手と通信するためには条件もあります。まず、〝
「それから~とっても貴重で高価な代物なので~なくしたり壊したりすると~大変なことになりますよ~エンペラーは大激怒しちゃいますよ~」
「わ、わかった、大事にしよう」
この女が大激怒する様はあまり想像できないが、あまり怒らせてはいけないと俺の本能が告げる。
触らぬ神に祟りなし、ということにしておこう。
「これで~お2人にはしっかりと渡しましたよ~。あとラクーン様には~この
最後にコリンは、俺に
小さな銀色のプレートに俺の情報が彫り込まれ、首から下げられるようになっている。
俺はすぐに
「その
「うむ、助かる。あとは俺に追加の説明があるんだったか」
「あ~、それなのですが~予定が変わりまして~」
コリンは少しもったいぶったように言うと、続けてリリーの方を見る。
「リリー様は~この後ご予定がおありですか~?」
「? いえ、急ぐほどのモノは……」
「そうですか~では丁度いいですね~。――ご両人には~この後『ラオグラフィア』の〝模擬戦闘訓練〟を~受けて頂きますね~」
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