第39話 模擬戦闘訓練②
――聖歴1547年/第2の月・
―――時刻・昼前
――――レギウス王国/レギーナ城/ラオグラフィア・訓練場
――――――ダークナイフ使いの勇者『ラクーン』
結論から言おう。
俺たちはいきなり、〝模擬戦闘訓練〟に参加させられることになった。
というのも、元々コリンは俺に〝【神器使い】の生存性及び戦力の向上ために定期的な戦闘訓練に参加してもらう〟といった感じの内容を話そうとしていたらしい。
だが、その模擬戦闘訓練で教官を担当する人物が予定よりも早く
無茶苦茶な話だが、世界各地に飛ぶ教官も【神器使い】も本来それくらい多忙なんだとか。
そんなワケで、俺たちはレギーナ城の敷地内にある訓練場へと向かっている。
ちなみに、リリーのペット?の金色のモフモフはコリンに預けてきた。
「やれやれ……まさかいきなり訓練をやらされるとは思わなかったな」
「そ、そうですね……こ、心の準備が……どうしましょう、緊張してきました……」
「リリーは元から『ラオグラフィア』に所属していたんだろう? なら、訓練は受けていたんじゃないのか?」
「いえ……私が登録したのはラクーンのひと月ほど前なので、本当に最低限の訓練しか受けてはいないのです。私の
ああ……なるほどな、そういうことか。
俺よりも遥かに【神器を扱えていたにも関わらず、戦闘そのものはまるで素人だったのがようやく理解できた。
【神器使い】が全部で108人しかいないとはいえ、全くの素人を現場に行かせるとは『ラオグラフィア』という組織も底が知れるな。
……まさかとは思うが、リリーなら俺を説得できると知って送り込んだ……ということはあるまい。
考えすぎだろう。
「フン……いくら訓練とはいえ、無茶はするなよリリー。もし困ったらすぐに言え。俺が教官とやらを殺す」
「ぶ、物騒なのは止めましょうね……。――あ、着いたみたいですよ」
話している内に、俺たちは開けた場所に辿り着く。
そこは地面の砂が均され、古びた鎧を着た訓練用
普段は近衛兵や騎士団などの訓練に利用されているのだろう。
そして――そこには既に、俺やリリーと同じ
――如何にも冒険者といった装いの、動きやすい
――『レギウス王国』の騎兵隊、その所属を表す
――頭からつま先まで身軽そうな黒装束で覆った、性別不明の者。
――
――後頭部にまとめ上げた髪、見たことのない朱色の甲冑、そして腰に差した反りのある剣が特徴の、東洋風な顔立ちの男。
彼らの視線が、一様にこちらに向けられる。
皆、年齢はおそらく10代後半~20代後半。
その立ち姿から見るに、ほとんどの者は戦闘経験者か、または殺しを経験している者だ。
「あ、あのっ、【神器使い】の皆様でしょうか!? 初めまして、リリー・アルスターラントと申します! こちらはラクーン! 今日の訓練、一緒に頑張りましょうね!」
「「「…………」」」
無言で返されるリリー。
彼らとて、慣れ合うためにこんな場所まで来たワケではない、ということだ。
彼らの無言のプレッシャーに、リリーはすっかり涙目になってしまう。
「うぅ……」
「――――やれやれ、そんな調子では他の【神器使い】に舐められるぞ、ひよっこシスター」
その時――俺たちの背後から女性の声がした。
その声に釣られ、背後へと振り向く。
「マ――マスター! マスター・ヴァレンタ! あなた様が教官だったのですね!」
女の顔を見たリリーは喜びの声を上げる。
女は褐色肌で長い赤髪を大雑把に結わえ、鎧の類は身に着けず肌が露出するような軽装をしている。
年齢はおそらく20代半ば。
腰には
「知り合いなのか、リリー?」
「はい、私に〝
ああ、この女がそうなのか。
リリーの顔を見た褐色肌の女も、口元に笑みを浮かべる。
「久しいな、アルニトでの活躍は聞いたぞ。マトモに訓練もしていないのに、初陣で高等魔族を倒すとは大手柄じゃないか」
「いえ……確かに魔族は退けましたが、あまりに多くの犠牲を出してしまって……。それに高等魔族を倒したのは私ではなく、彼なんです」
「ほう……?」
褐色肌の女は、興味深そうに顎に指を当て、俺を見てくる。
……この女、背後で声を上げるまで全く気配がなかった。
それだけじゃない、油断しているように見えて、立ち振る舞いに一切の隙がない。
かなりの
そしてなにより――この場にいる全員と、同じ
「ふーん……なるほ――ど!」
直後――褐色肌の女は唐突に、俺の股間をわし掴みにしてきた。
あまりにも予想外の行動に、俺は迎撃のために間合いから離れる。
もし
「貴様――!? なにをする!」
「いやなに、色白な肌をしていたものだから、ちゃんと付くモノが付いてるか確認してやっただけだ。ほらシスター、いつまでも顔を赤くしてるんじゃない。生娘じゃあるま――ああいや、生娘だったか」
褐色肌の女は一息吐くと、仕切り直すように俺たち7人の【神器使い】を見渡す。
「さて、自己紹介が遅れたな! 私はヴァレンタ・ウインド! 貴様らひよっこを教育する『
高圧的に、威圧的に、俺たちに立場を宣言する。自分が上であり、こちらが下だと。
その様子はまるで手慣れており、他者の上に立つ経験を積んできたと一目でわかるものだったが――
「……ケッ、『
冒険者風の青髪の男が、不愉快そうに舌打ちした。
「アンタも【神器使い】なんだろ? なら俺たちと同格じゃねえか。歳だってそれほど違わねーのに、偉そうにすんじゃねーよ」
「ほう、威勢がいいな。装いからして……お前は元冒険者か?」
「元、じゃねえ! 今も冒険者だ! 俺は『ゼーミュラー大陸』をあちこち渡ってきて、実戦の経験なんて腐るほど積んでる! 今更、
「おい、それくらいにしておけ」
すると、今度は
彼女はおそらく騎兵隊の出身者だ。身なりも小綺麗で、育ちの良さを伺わせる。
「あん? なんだよ、文句でもあんのか」
「流浪の冒険者では知らぬだろうがな、あまりあの方を舐めない方がいい。彼女は〝魔族狩り〟を専門に研究する戦術家であり、常人対魔族を想定して発足した『王国聖騎士大隊・独立対魔族特化猟団〝
「ッ、ンだとぉ……!?」
いよいよ頭に血が上り始めた青髪の男とは対照的に、ヴァレンタは上機嫌でニコニコと笑う。
「なんだ、詳しいじゃないか」
「ええ、あなたは有名人ですから。……あの戦闘狂集団を統率できるのは、あなたを除いて他にいないでしょう」
「そうでもないぞ? 今は立派にイカレてくれた奴を後釜に据えてある。それに――お前らもすぐにそうなる」
ヴァレンタは不敵な笑みを崩さぬまま、まるで演技する役者のように少しずつ歩き始める。
「しかし……貴様らは運がいい。優しい私に、魔族との戦い方を手取り足取り教えてもらえるのだからな。とはいえ――私の実力を知らぬままでは、腑に落ちまい。おい、そこの青虫」
ピッ、とヴァレンタは青髪の男を指差す。
「は……? あ、青虫って、俺のことか!?」
「そうだ貴様のことだ、この青虫め。ああいや、この言い方はむしろ青虫に失礼だな。アオミドロとかアオウミウシとか……ああもう面倒だから童貞でいいや。おい童貞野郎」
「ど、童貞ちゃうわ! 俺にはクリード・ハーシーズって立派な名前があんだよ!」
カンカンに怒って怒鳴り散らす
しかし対照的に、ヴァレンタの言い草を聞いた他の者たちはクスクスと鼻で笑う。
――どうやら、それが余計にクリードの神経を逆撫でしたようだ。
「な……舐めやがって……! このクリード様をここまでコケにした奴は、テメエが初めてだぜ……ッ!」
「そうかそうか、それは随分と温室育ちなのだな。いいぞ坊や、私が貴様の初めてをもらってやろう。だから――悔しければ、私に一太刀入れてみるがよい」
「ぶ――――ぶっっっ殺すッ!!!」
クリードは完全にキレた表情で、右手を前に突き出す。
「――〝
彼の手に金色の光が握られ、それは〝長剣〟へと形を変えた。
「クソ女が……この【バスタードソード使いの勇者】をコケにしたことを、たらふく後悔しやがれッ!」
【バスタードソード】の神器
種類:刀剣
全長:1.2m
重量:3kg
神 格:B ■■■■
攻撃力:B ■■■■
攻撃範囲:B ■■■■
攻撃速度:C ■■■
生存率:C ■■■
クリードの〈加護〉:『
クリードの〈神技〉:『
強烈な斬撃を狭い範囲に浴びせる。攻撃対象が強敵であるほど威力が上昇する。
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