第31話 神技②
チャットの口から出たその単語を聞いて、俺は首を傾げる。
「〝
「まあ順番に話すんで、ゆっくり聞いてほしいっス。〝
「理解が難しいかもしれませんが……【神器】はただの強力な兵器ではありません。所有者の特性によってその在り方を変え、【神器使い】が最も能力を発揮できるように自らを
リリーの補足を聞いて、なるほどと少し納得する。
以前の所有者がどういう能力を得ていたのかは定かでないが、俺と同じ《
ただ純粋に戦うだけなら、もっと強力な技があるはずだからだ。
俺は俺自身が――
――ということは、その〝
そう思っているとチャットは言葉を続け、
「まず〝
「例えば、【モーニングスター使いの勇者】である私の〝
気が付けばシラ~っとした目で見ていた俺たち2人に、バタバタと両手を振って弁明するリリー。
敬虔な
いや、
ともあれ、〝ぐすん〟と涙ぐむリリーに俺は話題を逸らさざるを得なかった。
「……とにかく、〝
「それはまだわからないっス。〝
「そう、か。まあ
「…………フ、フフフ……フヘヘヘ……!」
俺が言いかけるや、不穏な笑い声を上げるチャット。……正直、この後彼女が何て言うか手に取るようにわかってしまう。
「YO・KU・ZO! 聞いてくれましたぁッッッ!!! では、説明しよう! 〝
狭苦しい馬車の中で颯爽と立ち上がり、明後日の方向に人差し指を掲げるチャット。
ああ……言いたくて仕方なかったんだな。
「必殺技っスよ、必殺技! 一撃必殺! 究極奥義! 起死回生の一発逆転! こんなにロマン溢れる言葉が、他に存在しますか!? いや、決してない! 断じてない!」
「うん……そうだな……凄いな……」
チャットの迫力と弁舌に押され、もう止める気力さえ湧いてこない。
俺は諦めて、大人しく彼女の話を聞くことにした。
「そう、〝
「すまん、俺にもわかる言葉で話してくれるか? それから無駄な誇張はいらん」
「リリー、馬車が揺れるから落ち着いて話して。とにかく座りましょう?」
「えっ、あ、ごめんなさいっス……」
我に返り、〝しゅん〟と腰掛けるチャット。
俺は片手に顎を乗せ、
「簡潔でまとめると、〝
「ハイ……ソノトオリデス……。ぶっちゃけ、おにーさんは高等魔族を〝
「私も〝
「なるほど、変幻自在な大重量の鉄塊を振り回して、
そういえばアルニトでリリーを助けに入る直前、巨大な地響きが街を揺らし、空まで届く砂煙が中央交差点で巻き上がった。
アレがリリーの〝
とても常人の成せる芸当ではない。
故に、だからこそ〝
「俺の【神器】は強襲向きの〈
「〝神々を信ずる者は永久の命をもち、神々に従わぬ者は命を見ず、却って神々の怒りその上に留まるなり〟――これが人間に与えられた奇跡の力であればこそ、我々は魔族に屈してはなりません。神々に感謝と祈りを捧げましょう」
目を瞑り、胸の前で両手を組むリリー。
……俺には信仰も、神に祈りを捧げる気持ちもよくわからない。
祈ったって飯にはありつけないし、命が助かるワケじゃない。
人を殺して生き永らえ、最期の最期に都合よく神へ祈る奴をあの世に送る。
これまでの俺の人生はそういうものだった。だから神など信じたことはなかった。
――けど、【神器】を手にしてから、リリーと会ってから、少しだけ考えが変わった。【神器】のお陰で命を拾って、その神力を己が身で体感したのも大きい。
今なら神の存在を疑わない。
でもそれ以上に――生きる希望が持てた気がするのだ。
俺の人生を明るく照らして、導いてくれる人が現れた気がするのだ。
そういう意味では、俺が信じてるのは神なんかじゃなくて――
「――お、やっと見えましたよ【勇者】様方! 長旅も終わりでさぁ!」
その時、馬車を操る御者が大きな声を上げた。
真っ先にチャットがその声に釣られ、馬車前方の穴から顔を出す。
遅れて、リリーも顔を出した。
「ようやくっスか!? ――おお、見えてきたっスよぉ! 愛しの王都が!」
「ええ、これで家に帰れますね。ほら、ラクーンも見てください」
リリーに誘われ、俺も馬車の行く先へと目を向ける。
長い長い街道の先。
そこにあるのは――途方もない広さを誇る、白い大都市。
地上に描かれた
だがそれ以上に目を引くのが――城にぴったりと沿うように直立し、天空まで伸びる〝巨大な樹〟。
それはさながら柱のように雲の上まで伸び、先端はまるで確認できない。
そんな光景は幻想的で、
「……見えますか、ラクーン。ここが『
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