第47話 神器使いたちの閑談

――聖歴1547年/第2の月・下旬レイト

―――時刻・夜中

――――レギウス王国/レギーナ城/城内廊下

――――――バスタードソード使いの勇者『クリード・ハーシーズ』


「お……終わった……疲れた……」


 ようやくあの戦闘狂『監督官チーフ』の訓練を終えた俺は、他の4人と宿舎に向かって歩いていた。

 時刻も既に遅く、城の中も薄暗い。

 近衛兵も夜勤でない者はとっくに就寝している頃合いだ。


「チクショウ、あのクソ女め……こんなボロボロになるまで訓練させやがって……絶対いつか泣かせてやる……」


「仕方あるまい。結局最後まであの方に刃を届かせられなかったのは、私たちの実力不足に他ならん。恨み節を言うのは間違いだぞ」


 俺の愚痴に、相変わらずクソ真面目なコメントを返すアイリスタとかいう騎兵女。

 コイツも大概に戦バカだ。

 マジでウザい。


「だからってなぁ! 仕合で負かされる度に、城の外周10周とかやらせるヤツがいるか!? 【神器】で身体能力が強化されてなきゃ、太陽が昇ったって終わらねぇぞ!」


「フン、軟弱者め。それだから童貞だなどとバカにされるのだ」


「なっ、ンだとお!? んなこと言ったら、どうせテメーだって処女だろうが鎧女!」


「は、はあ!? 貴様、それが誇り高い淑女に対する物言いか!? 恥を知れ、この変態! スケベ! 童貞野郎!」


 ギリギリと歯を食いしばって睨み合う俺たち。

 やはりコイツと俺とは犬猿の仲らしいな。

 いつか白黒ハッキリつけてやる。


「……されど、ヴァレンタ殿の実力は本物だ。そして彼女に認められた灰色髪の男も、鋭い殺気を放っていた」


 唐突にサツキが口を挟んでくる。

 彼の言葉にカマノスケも賛同し、


「左様でござるな。あのラクーン某という男、只者ではござらん。個人的に、拙者とは近しいモノを感じたでござるが――それにしてもランク〈E〉の【神器】で、ランク〈A〉の神器パリィングダガーを持つ『監督官チーフ』に一太刀入れるなど……にわかには信じられぬなぁ」


「ムフー」


 そうだよね、とばかりにチャドが鼻息で肯定する。

 っとに、どいつもこいつも……


「お前らなぁ、なんでそんな呑気なんだよ! アイツは〝暗殺者アサシン〟だっつったんだぞ!? 人殺しのくせに【神器使い】とか、認めらんねぇだろ! イカサマやったに決まってらぁ!」


 声を大にして、俺は叫ぶ。

 俺は認めねぇ。

 あんな薄汚い人殺しの、しかも格下の【神器】を持ってる奴の方が、俺より強いなんて――!

 そう思っていると、


「…………おい、なんだって? 〝暗殺者アサシン〟の【神器使い】――今そう言ったか?」


 背後からそんな声が聞こえた。低い男の声で、この場にいた5人の誰でもない。


「あぁん……!? そうだよ! そんなの俺は――――ふぐッ!?」


 ――直後、いきなり俺は大きな手で口元を掴まれる。

 そしてそのまま掴み上げられ、完全に身体が宙に浮いてしまう。


「ああ……そうだな、赦せねぇよ・・・・・。世の害悪たる犯罪者が、あろうことか【勇者】を名乗るなんてなぁ? 罪を犯したクソ野郎は……首を落とされるべきだろうがよ」


 薄暗い闇の中で、俺はそいつ・・・の姿を見た。


 チャドとほとんど変わらぬ6フィート190cm程度の身長。

 だがその身体は異常なほど鍛えられた隆々とした筋肉を持ち、それを見せつけるように上半身には革の胴着レザーベストのみを羽織っている。


 そしてなにより――――その頭には、頭部を完全に覆い隠す〝紅い十字架装飾の大兜グレートヘルム〟が被られていた。


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