第11話 【神器】④

 私は近くの看守さんへ顔を向けると、


「看守さん、この牢屋を開けてくれますか? 中へ入りたいので」


「え? い、いや、しかし……」


「お・ね・が・い・し・ま・す♪」


 満面の笑みで、看守さんにお願いする。

 ちょっと凄んだ感じで、【神器使い】特有の武闘オーラを全開にしながら。


「ヒェ……!? か、かしこまりました!」


 看守さんは怯えた様子で、急ぎ牢屋の鍵を開けてくれた。

 私はツカツカと中へ入っていくと、


「よいしょっと。では、失礼しますね」


「……は? おい、なにをする!? やめ――うおおおおおおおおおッ!?」


 ラクーンを垂直に立たせ、ぐるぐる巻きにされていた鎖を持つと――その端を持って、コマの要領で彼の身体を回した。

 ジャラジャラと鎖がほどける音と共に、ギュイーンと豪快に回転するラクーン。

 そのまましばらく高速回転を続けると――あっという間に、彼を拘束していた鎖が解けた。


「う……お……うっぷ……」


 回転が止まったラクーンは目を回して顔面蒼白になっており、フラフラとしている。

 そんな彼をむんずと掴んで、ベッドの上に座らせると――


「――はい、これで面と向かってお話できますね」


 彼と向かい合うように、ちょこんとベッドに座る私。

 ちょうど顔と顔が向かい合う位置で、手を伸ばせば互いに触れ合えるほど近い。


「む……う……」


 流石に照れた様子で、目線を逸らすラクーン。

 ようやく、感情らしい感情を見せてくれた。


「は、はは……相変わらず無茶するっスね、リリー様は……」


「きゅーん……」


 チャットやカーくんは呆れた表情をするけど、私は気にしない。ちょっとくらい無茶できないと、修道女シスターは務まりませんもの。


 さて、と私はラクーンの顔をまじまじと見やる。

 ――確か、情報によると彼の年齢は17歳だったかしら。

 だとしたら私と同い年だけど、こうして間近で見るともっと幼く見える。

 顔立ちが童顔なこともあるけど、歳の割に背が低くて身体の線も細い。

 おそらく長年に渡って栄養失調が続いたことが原因だろう。

 でも、だからなのか――


「ふふ……こうして近くで見ると、可愛らしいお顔をしているのですね、ラクーンは」


「か、可愛い、だと……? お前は、俺が怖くないのか……? 俺は何人も人を殺した暗殺者アサシンなんだぞ……!?」


「勿論。だって私には、あなたが本当は優しい人だってわかりますから」


 私は自らの胸に手を当て、ゆっくりと話し始める。


「私には、人の心がわかるんです。その人がどんな人なのか、本当は優しい人なのか、本当は怖い人なのか……。こうして話している相手の〝人となり〟が、私にはなんとなくわかるんですよ」


〝心を読める〟ワケじゃないので、何を考えてるのかまではわかりませんけど、と私は言い加える。


 私には昔からこの能力があった。他者の性格――というより本質が見える。

 今目の前にいる人は、どんな人間なのか?

 どういう性格をしていて、今どういう感情を持っているのか?

 その人の人となり、人柄、人間性――その人が〝どんな人〟なのか、正確に把握できるのだ。


 この能力のお陰で、人付き合いで得をしたこともあれば困ったこともあった。

 でも今では、神々は私に与えたもうた恩恵だと思っている。

 この力をなにかのために役立てるべきだと、そう思う。


「だから、私にはわかります。あなたは優しい人だって。本当は……暗殺者アサシンになんてなるような人じゃないって」


「……」


「どうか、話を聞いてくださいませんか? ……いえ、あなたには聞く義務があります。そして私と共に人間を、〝世界〟を救わなくてはならない。それがあなたにとっての償いであり――【神器じんき】を授けられた【神器使い】の運命なのですから」


 彼なら――この人なら、きっとわかってくれる。

 私はそう信じて、彼の眼をじっと見つめる。


 しばし、彼は私と目を合わせてくれていたけれど――――大きく息を吸ったかと思うと、そのまま「はぁ~~~」と長いため息を口から漏らした。


「……お前らの言うことは、まるで意味がわからない。だいたい、その【神器じんき】やら【神器使い】ってのは一体なんだ? 何故、どいつもこいつも俺のことを【勇者】と呼ぶ?」


「え?」


 私は目を丸くして、思わず聞き返してしまう。

 話を聞く気になってくれたのはありがたいが、まさかそういう返しが来るとは思っていなかったからだ。


 しかし――彼の発言に驚いたのは、なにも私だけではなかった。

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