エピローグ 未来への契り

「白斗さん、改めてお願いしてもよろしいですの?」


「改めて…?」


 そろそろ学校も一学期が終わるのではという中、美弦が改めてと置いてから俺に何かをお願いするつもりのようだ。

 改めてということは過去にもお願いした結果何かの理由で俺が断ったということだろうか…


「はい、私の家にいらして欲しいんですわ」


「…え?」


 美弦の家…


「もちろん断ったりしないが、どうして改まる必要があるんだ?」


 美弦の家に行くということなら前にも一度行っているし、幼馴染だからと言って異性の家に行くのは緊張するだろうからと気を遣ってくれていると言うのであればそれまでだが、美弦はそんなことを気にするタイプでもないことは俺が一番分かっている。


「以前白斗さんが私の家にいらした時の理由をお覚えですの?」


「え…あぁ、確か美弦の両親にご挨拶に…って!まさか!?」


「はい、正式に婚約をしたいので少し無理を言ってでも都合を合わせていただきまして、早速終業式の次の日にお会いしてきただきたいんですの」


「こんなに早く…!?」


「ご都合が合いませんでしたの…?」


「そうじゃなくて、心の準備が…」


 美弦の両親なんておそらくは物心が付いてない時以来会った事がない、この国の中枢である天霧財閥を支える2人、普段は忙して会うなんてとてもじゃないができないだろう。

 そんな人たちと会話…普通に緊張で心臓が持つかどうか不安になる。

 本気で。


「そんなに怖がらずとも大丈夫ですのに、二人とも白斗さんが考えていらっしゃるほど畏怖されるような方々ではありませんわよ?」


「それはそうにしても…そもそも美弦の両親じゃなくても婚約者の両親とその娘の婚約者として会うなんて普通に緊張するんだ」


「ごほっ…」


「え…!?」


 美弦が少しではあるが突然咳き込んだ。


「どうした?大丈夫か?」


「気にしないでくださいまし…まだ白斗さんに直接と表現されることに慣れていないだけでしてよ…」


 本当に健康そうで安心した。


「白斗さんが素敵すぎてこれから生けていけるか不安ですわと一応最先端技術を扱えるお医者様に聞いてみましょうかしら…」


「やめろやめろ!絶対に心配ない!」


 そんなことに最先端技術を扱えるお医者さんの時間を奪ってしまうのは大変申し訳ない。


「…話を戻しまして、私の両親に会っていただけますか?」


「…さっきはいきなりで動揺したが、いつかは美弦の両親にも挨拶に行かないといけないとは思ってたんだ、だから…会う、むしろ会わせてくれ」


 これは美弦の婚約者フィアンセになった俺に対する、最初の大きな試練だ。

 そこから逃げていては美弦の婚約者なんて務まらない。


「流石ですわ白斗さん、接吻させてくださいまし」


 え?と俺が困惑する間も与えずに美弦は有言実行してきた。

 日は移り変わり、終業式。


「─────ますが、これは終わりではなく、新しい未来に備える期間であり、皆様の将来のための時間だということを再認識した上で皆様自身が新しい自らの可能性と出会えることを願います、天霧美弦」


 何故か美弦が一学期を締める言葉を言っている。

 もちろんこの後で生徒会長も締めの言葉を言うとは思うが、正直美弦のスピーチが台本も無いのに完璧すぎて生徒会長は大分肩が重いだろう。

 そんな中でも生徒会長はしっかりとハキハキした声で締めの言葉を皆に伝え、終業式は終了した。


「白斗さん!」


「ん…」


 美弦が俺に対して何かを激しく求めるような目で見てくる。


「…スピーチすごかったな?」


俺はあまり中身はない褒め方にはなってしまったがなんとなく褒めてみる。


「え、そんなことないですわよ〜!あの程度のこと全然褒めてくださらなくてもよかったでしたのに〜、褒めていただけるなんて嬉しいですわ〜!」


 さっきものすごく物欲しそうな目をしていたのにいざ褒めてみるとこの舞い上がりようだ。

 これが可愛い…ということなのだろうか、もちろん今までも見た目が綺麗だとかかっこいいとかすごいとかは思っていたことは数え切れないほどあるが、可愛い…と思えるのはおそらく、俺と美弦の関係性がからだろう。


「それはそれとして、明日!朝お迎えに上がりますわね!」


「あぁ」


 …とうとう明日。

 美弦の両親に会う日だ。


「…改めて、今までありがとうございました、


「…え?」


 俺たちは婚約してこれからだ、という時に美弦は何故かお別れの挨拶のようなことを言い出した。

 …まさか美弦は俺と婚約することが決定したら海外留学でもするつもりで、明日が高校生の内に美弦と一緒に居られる最後とか、そういう今にも泣き出しそうな話じゃないよな?


「そしてこれからも…よろしくお願いしますわ、


 美弦はそう言ってとびきりの笑顔で微笑んだ。

 …正直今でも美弦の婚約者なんて俺に務まるのだろうかと不安には思っているが、それでも。


「あぁっ!驚かせるな!…こちらこそ、これからもよろしく」


 美弦となら、どんな苦難でも乗り越えられる気がする。

 この笑顔を…忘れないで、美弦とともに生きていこう。

 俺たちが未来でも…こんな笑顔をしているはずだと信じて。


「未来永劫、共に楽しく生きましょう…約束ですわ!」


「もちろんだ!」


【完】



【あとがき】


 更新が遅れたりしたこともあった中、ここまで読んでくださっている貴方へ…本当にありがとうございました。

 詳しくは近況ノートの方で後に語らせていこうと思いますが、ただ一つ…数ある作品の中からこの作品を読んでくださり、本当にありがとうございました。

 この作品はここで完結という形になってしまいますが、神月自身はまだまだ小説を描いていこうと思いますので、是非気になる作品があれば読んでいただけると幸いです。

 本当にありがとうございました。

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幼馴染の財閥令嬢が俺のことを無理やり婚約者に指名してきた 神月 @mesia15

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