第22話 不安
ゴールデンウィークが終わり、今日で学校が再開した。
約1週間も休んだ後での学校というものは、非常に気だるいものだ。
そんな気だるい中、美弦と一緒に教室に入ると、教壇前に異様な人集りができていた。
「な、なんだ…?」
「おそらく時間割に変更でもあったのでは無いでしょうか」
確かにそれなら人集りができてもおかしくはないが…様子を見るに、何か盛り上がっているようだ、やや男子生徒が多いようだ。
「握手してもらってもいい?」
「え、いや…今日はそういうのじゃ無いのじゃないっていうか、プライベートだからそういうのは…」
「肌めっちゃ綺麗〜!どんなスキンケアしたらそんなすべすべそうな肌になるの〜?」
「ていうかめっちゃ良い匂いだよな」
「お前それは気持ち悪いって…」
見物人の言葉から推測するに、どうやら綺麗な人が来ているらしい、それも握手を求められていることから学校の有名人なんだろうか。
そんな思いを胸に俺は背伸びしてそこに誰がいるのか見てみる。
美弦は俺よりも少し背が低いためおそらく背伸びしても見えないのか、俺のことを複雑な目で見ている。
「あ…!あれは…」
俺がその先に見たのは、俺たちに沙藍と名乗った1つ年下の後輩だった。
結局沙藍とはあれ以降ゴールデンウィーク中に会うことはなかったな。
「なんですの?何が見えたのんですの?」
「あの旅館で会った後輩の─────」
「あっ!空薙先輩!」
沙藍は背伸びした俺に気づいたのか半ば強引に俺の方に近づいてくると、俺の手を取って俺のことを廊下に連れ出した。
「え…え?」
俺は状況が理解できなかったが歩幅を合わせ、一緒に廊下に出た。
「先輩!またお話ししたくて沙藍来ちゃった」
「来ちゃったって…え、この前のお礼で一件落着ってことじゃなかったのか?」
「そうだけど…どうせならもっと仲良くなりたいなって思っちゃって!」
一度助けただけなのに何故ここまで好意的に接してくれるのかはわからないが悪い気はしない。
「わかった、まぁこれからよろし─────」
「白斗さん、そろそろ席についておいた方がよろしいですわ」
美弦があの教室の人集りから抜けたのか、廊下の方に出てきた。
「そうか、わかった…悪い、そろそろ時間らしいから俺は行く、君も早く自分の教室に戻った方がいい」
「君じゃなくて沙藍!今度君なんて呼んだら怒るから!」
沙藍は強く言うとこの場を後にした。
…なんだろうか、同一人物であることに疑いようは無いが、少し今日あったあの沙藍は旅館の時に会った時とは何かが違ったような気がする。
席に着くと、隣の席の美弦から話しかけられた。
「先程は大丈夫でしたの?」
「大丈夫って…何の話だ?」
「何か言われたり行動されたりしましたの、ということですわ」
美弦が何を気にしているのかわからない。
あの沙藍という少女が不審な行動を常に行うような人ならそれを疑うのもわかるが、そういった感じでも無いことは誰の目にも明らかだ。
「特に何もされてない、美弦の方こそ、なんでそんなことを気にするんだ?沙藍は俗にいう不良ってわけじゃ無いだろ?」
「それはそうなのですけれど…女性、じゃないですの」
あぁ、恋する乙女だから俺が美弦以外の女性と話すだけでも少し気になることがあるとかっていう話と関連の話か。
「言っておくと、別に俺は話した女子全員のことが好きになったり興味を持ったりするわけじゃない」
「わかっていますわ、それでも少し不安になってしまうんですのよ…ですから早く私と婚約していただけると話が早いんですわ、そうしていただければ白斗さんが確実に私のものに…」
美弦は何かを小さく呟いたが、俺には聞こえなかった。
「そんなに不安がらなくても大丈夫だ、婚約はまだ受け取っていないが少なくとも俺が美弦のことを好意的に思っていることだけは間違いないと今ここに表明しておく」
不安がっている美弦には必要なことだと判断し、俺はそう告げる。
「そう…ですわよね、お気遣いありがとうございますですわ」
一応は納得してくれているようだが、それでもどこか腑に落ちないと言った様子だ。
これに関しては時間で解決するしかない…か。
「白斗さん、もし私が1ヶ月1億円をお渡しすると言えば、ずっと私のそばに居ていただくことは可能ですの?」
「…え、え?1億!?は、は!?」
潮らしくなったかと思えば、今度は突然全体を見ることができないほどスケールが大きな話をしてきた。
「何を急に…?」
「…答えてくださいまし」
1億…確かに大金だ。
そんなにお金があれば、上手くやりくりするともしかしたら一生お金に困らなかったりする可能性もある。
だが…
「そんなお金でやり取りする関係じゃないだろ?」
「…そうですわよね」
幼馴染がそんな関係性であって良いはずがない。
「…いっそのこと白斗さんがお金で動いてくださるような方なら私の不安も拭えて楽だったのかもしれませんわね」
「それは─────」
「ですが、白斗さんがそんな方だからこそ、こんなにも好きになれたのかもしれません」
美弦は満面の微笑みを俺に見せた。
…その笑顔を見た俺の心の中で、何かが小さく変化していることに気づいた。
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