第21話 女同士

 昨日の夜、彼女を探してみましたが見つからなかったので私は大人しく白斗さんの隣で眠りに着きましたわ。

 そして本日はこの旅行付近の観光名所を周り、白斗さんは真新しいものを見つけたと喜んでおられました。

 …私も喜んでいるお姿の白斗さんを見て微笑ましい気持ちになっていましたが、やはり白斗さんに好意を抱いているであろう彼女のことが気になって仕方なく、あまりいつものように集中して白斗さんと話すことができませんでしたわ。

 そして夜。


「白斗さん、私先にお風呂に入って参りますわ」


「え…?…あぁ、わかった」


 白斗さんは悲しそうにそう答えますわ。

 きっと私とお風呂に入りたかったのでしょう…本当に申し訳のない気持ちでいっぱいですが、今だけは譲るわけにはいきませんの。

 私は衣服を脱ぎフェイスタオルを付けますわ。


「…着替え、ですわね」


 脱衣所には一名の着替えがあり、この時間帯は高校生限定。

 その着替えは女性用のもの。

 …言うまでもなく誰かなんてはっきりしていますわ。

 私は浴場への扉を開け、石に囲まれた湯に浸かっている彼女に話しかけますわ。


「少しよろしいですの?」


「え?誰─────…天霧さん、どうぞ」


 白斗さんの前で振る舞っていた元気な姿はどこにもなく、声もワントーン下がっているように聞こえましたわ。

 ですが好きな方の前で元気に振る舞うのも声がワントーン上がるのも普通なことですので、特に気に留めたりはいたしませんわ。


「私に何か用ですか」


 どうやら私はあまり歓迎されていないようですのね。

 私だって会話をしたくてしようとしているわけではございませんの、仕方なくですわ。


「白斗さんについてですの」


「空薙先輩について…うん、それで?」


「彼に邪念の元近づく行為をやめていただきたくてここに馳せ参じたんですわ」


「邪念って…何の話?別に何も悪事働こうなんてしてないよ?」


「白斗さんに恋愛感情を持って近づくことと具体的に説明した方がよろしかったでしょうか」


 私は伝わらなかったようですので直接的に言うことにしましたわ。

 これでどうも言い逃れはできないはずですわ。


「なんで?私が先輩のこと好きになるのは天霧さんには関係ないことじゃない?」


「関係しかないですわ、白斗さんは私の婚約者フィアンセですので」


婚約者フィアンセ…!?」


 ここで今まで冷静を貫いていた彼女に、ようやく感情の起伏が見えましたわ。


「え、それってもう、空薙先輩と結婚まで約束してるってこと!?」


「えぇ…正確には今返答を待っている状態ですわ、しかしすぐに快い返事をいただけると私は確信しているんですの」


 白斗さんは私とこそ幸せになるべきお方ですわ。


「…確信してるなら、なんで私に先輩から離れさせるようなこと言ってきたの?わざわざお風呂にまで来て、本当は先輩がどう返答するか不安だから自分以外の女に取られないようにしようとしてるだけじゃない?」


「もちろんそれもありますわ、ですがそれは不安からではなく、殿方は色を好むと言います、ですが私は私という一色だけを見ていただきたいので、それ以外の方にうつつを抜かされるのは迷惑なんですの」


「それは天霧さんの考え方で私がどうしようと自由だと思うなぁ〜、恋しちゃったんだから私にだってそれを実るかどうかを見届ける権利はあるでしょ?私何も間違ったこと言ってないよね?」


 その整った顔立ちと透き通った声帯からは想像できないほど理路整然と意見を述べてきますのね、白斗さんの前での態度を予想以上に違っているため、少し驚いてしまいましたわ。


「確かにそうですわ、ですので取引がしたいんですの」


「取引…?」


「今、何か欲しいものはありませんの?」


「欲しい…もの?」


「なんでも構いませんわ」


 私は少し考えていただき、その答えを待つ。

 私としてはここでどんな答えが返ってこようが、白斗さんと私との関係に邪魔になる可能性がある方を消せるのであれば、どんなものでも差し出すことができますわ、またそれがどんなものであれ白斗さんに比べれば安すぎるものであることは絶対ですわね。

 少し考えると、この方は回答を出しましたわ。


「お金」


 単純ですわね、ですがそう言うことなら話が早いですわ。


「でしたら、言い値でお金を差し上げますので、白斗さんには今後一切関わらないでいただきたいですわ」


 本当はこのような手は好みませんが、この方は多少何かをしても引いてくれなさそうという目をしていますので、白斗さんに私の汚いところがバレてしまう前に行動を起こした次第ですわ。


「それはむり」


「…何故でしょうか?」


 私の脳内には理解不能の4文字が浮かび上がりますわ。

 お金に困っているのに言い値でも不可というのは、一体どういうことなんですの?


「私がお金欲しい理由は、空薙先輩と近づくためだもん、だからそれがむりになるんだったら本末転倒、だからむり」


「……」


 少々この方を甘んじておりましたわ。


「でしたら遠慮なく、これからあなたから白斗さんのことを守らせていただきますね」


「守るなんて随分弱気だね、私はアタックする気しかないよ、もしかすると職業柄その点については…天霧さんよりも強いかもね」


 彼女は湯から体を出すと、浴場を後にしましたわ。

 私はその時、彼女の引き締まった体を見逃しませんでしたわ、私も欠かさずトレーニングをしていますがあれはあの体を作り上げるためだけに生きている方のスタイル、体…


「…何者なんですの」


 私はこれから全力で白斗さんを守り、可能であれば彼女を排除することを、独り決意しましたわ。

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