第31話 恋心
「…沙藍」
「ん」
「旅行の行き先を決めるって言うのはわかるが…どうして学校の図書室で決めるんだ?もし誰かに見られて変な噂でも流されたらどうするんだ、困るのは俺よりもそっちだろ?」
仮に事務所が恋愛禁止とかでなかったとしてもバックボーンを知らない人たちが熱愛報道だと騒ぎ立てるに決まっている。
「まぁ〜先輩と噂されるなら歓迎〜?みたいな」
「みたいな、じゃない」
どこまでがおふざけなのかが掴めないな。
「まぁちゃっちゃと決めちゃえば誰かに見られる心配もないし、ちゃっちゃと決めちゃお〜!って、実は何個か事前に決めてたんだけど私が電話掛けた途端急に全部満席になっちゃったりすることが3回くらい起きちゃって、運無かったな〜」
それは本当に運が悪いとしか言いようが無いな。
「ま、そんなこと考えるとこうして今先輩と2人きりになれてると思うとお釣りかな?」
「そのポジティブさがあればどんなところでも生きていけそうで羨ましいな」
「もち!私歌下手とか顔キモいとか言われても全く気にしないからっ!」
前聞いた限り歌は普通に上手かったな…あのサラに対して顔がキモいなんて言う人はおそらく私怨か何かだろう。
「でも私必要に応じて悪い子にもなれちゃうよ、女の子だからね」
「それは全女子に風評被害じゃないか?」
「そうかな〜?先輩の周りにも表面上先輩には優しいけど裏では酷い一面もあったりする人居ると思うけど」
「……」
それは、まぁ…居るのかもしれないが、そんな人は多分女子とか男子とか関係なく、少なからず居るだろう。
俺だって俺以外の誰かから見ればその分類になっている可能性だってある。
別日。
「あの、ちょっと面貸してもらって良いですか」
「え?」
男子生徒、黒髪にセンター分けのワックス、身長は俺と同じくらいだが明らかに俺とは別世界、陽や陰という概念が存在するのであれば陽に分類される、そんな第一印象だ。
だが全く面識がない…それに面貸してもらって良いですかって、敬語なのに明らかに何か良くないことをするつもりだろう。
…俺だって俺以外の誰かから見れば酷い一面があるかも、と思ってはいたがまさかこんなにも早くその可能性のあるシチュエーションが訪れるとは思ってなかったな。
「ここじゃダメな用事なのか?」
「うっす」
うっす…じゃない。
だがこの感じのタイプの人が、偏見かもしれないが同級生に敬語を使うとは思えない、ということは下級生だろうか。
俺はあまり気乗りしなかったが最悪何かあっても学校内なら助けを呼べると踏み、自分のことを貸し出すことにした。
連れてこられたのは、階段の踊り場。
見た感じ、周りにバットなどは見受けられない。
「それで、何の用だ?」
「空薙さんって、あの天霧先輩と付き合…仲良いんすよね」
先輩…やはり下級生、後輩のようだ。
「あぁ、まぁ…あと断じて言うが付き合ってはない」
そこだけはしっかりと否定しておかないと、下手したら大スキャンダルになってしまう可能性が高い。
「そっすか…1年の一部の間では天霧先輩と唯一仲の良い男子生徒ってことで空薙さんもすごい人ってことになってるんすけど」
「…え?」
ちょっと待てなんだそれは、聞いたことがない。
「全然それ自体は良いんす、家柄がとかしがらみとか色々憶測たってるけど、別に俺そういうのは気にしないんで」
やはり人は見た目では計れない。
一見チャラそうに見えるがしっかりと自分の考えは持っているらしい。
「ただ…色んな女に手出すのはちょっとやめてもらいたいってか、
「輝鞘…?」
「
「…あー、あぁ、そうだな」
…輝鞘!?
間違いない、沙藍の苗字だ。
…よし、これからは沙藍のことを輝鞘と呼ぼう。
「別に輝鞘とはどんな関係でもない、ただちょっと仲の良い後輩ってだけだ」
「…すんません、普段は下の名前で呼んでるって知ってるんで、今だけ苗字で呼んでもそんなのには騙されないっす」
今知ったんだよ!
今までは沙藍が俺に下の名前で呼ばれたいとかって
…なんて、言ってみてもきっと信じてもらえないだろう。
本当にややこしいことをしてくれたな…
「……」
「先輩、本当は輝鞘さんと特別な関係だったりするんすか」
全くしない…確かにこれから旅行に行こうとはしているが決して特別な関係ではない。
…それにしてもどうしてここまで聞いてくるんだろうか。
確かに沙藍…輝鞘はアイドル的存在、というか実際にアイドルだった分けだが、そんなアイドルが俺と良く話しているところを見ているというのであれば興味も湧くだろうが…本当にそれだけなんだろうか。
「さっきも言ったが全く無い」
「…じゃあ、俺が協力して欲しいって言ったら協力してくれますか」
「…協力?」
「その…輝鞘さんと、仲良くなりたくて…」
「……」
…ん?
なんだその反応…見た目では非常に申し訳ないが女遊びと呼ばれるものをしてそうな見た目だが実際は初々しそうだ。
こんな反応を見せられたら…
「もちろんだ!」
「っ!ありがとうございます!」
こんなに純情な目で見られると断れないな。
それに、輝鞘も自意識過剰かもしれないが、俺に執着しすぎな気もするし、他に親友とかができれば良いかもしれない。
この人がもし恋愛感情を持っているのなら…いや、それ以上は過干渉だな。
俺はクラスに戻ろうと階段を上がると、ちょうど美弦がそこに居た。
「美弦、もう戻った方がいい」
「はい、少しだけ手を洗いに来ただけですわ」
「そうか、じゃあ先に戻ってる」
俺は先に教室に戻ることにした。
「やはり邪魔な方に消えていただくためには、その周りの方を焚き付けるのが一番ですわね、それも恋心…ふふっ、どうかお2人の恋愛に幸がありますように」
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